ハーフタイム 腐った果実は食べられない


 そう。あれは私が中学二年生の夏だった。あの頃の私は中二病だった。仕方ないよね? だって。勇者の前世なんていう、中二病が喜びそうな設定を持っているんだからね。


 設定って……。あなたの前世でしょう? なら、設定じゃ無くて事実じゃないの。


 ふふっ。そう言う真緒はどうだったのさ? 中学の時、中二病だったの?


 そんな訳無いでしょう? だって事実なのだから。言うなればわたしの存在自体が中二病かしらね?


 ふーん? まぁ良いや。とにかく、あの頃の私は中二病だった。世の中の悪事は全て解決できると思っていた。困っている人が居たら手を差し伸べて来た。

 人間はみんな本質的に善良なんだと。信じて疑わなかった。


 そんな事無いのにね? 世の中にはどうしようも無いクズが居るのにね?


 確かにそうね。


 で。中二の夏休みに、カースト上位のクラスの女子数人が合コンをするって。クラスのグループチャットに書き込みがあってね。なんでも合コンの相手は高校生らしくて、直前になってあっちの人数が増える事になったんだって。それで急遽女子の人数が足りなくなったらしいの。


 そしてそのヘルプに私に来て欲しいってチャットが来たんだ。当時の私は中二病の変人として、学校でかなり有名だったけど。まぁ、自分で言うのもあれだけど。なんせ顔は凄く良かったんだよね。


 だから。その合コンに呼ばれたんだって言うのは分かっていた。だけど。何よりも困っている人を、放っておけないって言うのが一番大きいかな? それにあの時は恋愛には興味無かったし。


 へぇー? じゃあ今はあるのかしら?


 ッ!? …………ぅん。


 ふーん? そうなんだ。


 て。今はこの話関係ないでしょッ!! ……全く。はぁ……じゃあ話を戻すよ?


 えぇ。


 それで参加する事になった合コンだけど。特に話すことも無かった私は、自己紹介の後は特に会話する事なく。ひたすら壁の花を演じていた。とは言え度々声を掛けられれば、受け答えはしたけど。


 正直言ってつまらなかった。だって恋愛に興味無かったしね? そして一次会が終わって、そのまま私は帰ろうとしたけど。周りに止められて、仕方なく二次会に参加する事になったの。


 で。二次会の会場は、相手の先輩達の秘密基地で行う事になったんだ。


 え? 見るからに怪しいじゃないそれ。優やクラスの皆は変だって思わなかったのかしら?


 勿論、変だって気付いていたよ。


 ならッ!!


 でもそんな事言える雰囲気じゃ無かった。それに危ない事はしないだろうって、何故か無意識の内に思ってたんだ。バカだよね? そんな事無かったのに。後になって後悔してももう遅いのにね。


 兎に角。私はバカだった。皆もバカだった。バカばっかだった。そして私達はホイホイ先輩達に付いて行ったの。そこはとある場所にある、幽霊が出ると噂の小学校の廃校舎だった。


 夕方だという事もあって、寄り付こうとする人は誰も居ない。隠れて何かをするのはもってこいの場所。


 教室の一つに入って、そこにあった机と椅子を並べて。先輩たちが買って来たお酒を無理やり飲まされたの。


 何で断らなかったのよッ!?


 何でだろうね? その場の空気かな? 断れるような感じじゃ無かったから。


 続けるね?


 無理やりお酒を飲まされた私達は。酔って意識がフワフワになり、気分が良くなったんだ。だからかな? 先輩達が服を全部脱げって言われて、言う通りにしてしまったのは。


 そして裸の私達を先輩達が舐め回すように見て来た。比較的酔いが浅かった私は、そこで正気を取り戻したの。こんなの止めましょうって先輩たちにお願いしたけど。

 頬を殴られた。それでも私は口を開いた。止めて下さいと。


 でも。先輩たちは聞く耳を持っていなかったんだ。今更そんな事を言ったって遅いと。ここまで着いて来たお前らが悪いんだと。ホント。その通りだった。

 私はまた殴られた。で。それを見ていたクラスの女子達がようやく正気を取り戻して、怯え始めて泣き出す子も現れたの。その子は私と同じように殴られた。


 お人好しだった私はその様子に耐えられなくなって、こう言ったの。

 お願いだからその子達は帰してあげてと。代わりに私が先輩達の相手をしますと。


 何でそいつらをぶっ飛ばさかったのよッ!! あなたならそれが出来たでしょう?


 出来たね。でも。出来なかったんだ。私一人なら大丈夫だったけど。クラスの女子達も居たからね? 私が暴れれば、間違いなくその子達に危害が及んじゃうから。

 だから私は抵抗出来なかったの。


 それじゃあ……。


 うん。そうだよ。こうして私は、クラスの女子達を帰す代わりに先輩達に集団レイプされたの。


 ……一体何人に?


 んー? 五人かな?


 そんなにッ!?


 うん。そんなに。でね? そいつらは行為を行う前に、順番に私にキスしてきたの。最悪だった。だって初めてだったんだよ? それがこんな風に奪われるなんて。

 考えてもいなかったから。


 でも地獄はここからだったの。そいつらに前と後ろのすべての穴を犯されたんだ。


 つまりは一日で三つの処女を奪われたの。痛くて気持ち悪くて最悪だった。特に口に突っ込まれたモノは、臭くてしょっぱくて頭がおかしくなりそうだった。そしてそれから吐き出された、生臭く苦いドロドロしたモノは吐きそうな程不味かったの。


 まるで、腐った果実を頬張ったみたいな。そんな感じ。


 でもそいつらはそれを吐き出すな。飲み込めって言って来て。従うしか無かった。

 だって従わないと、帰したクラスの女子達に危害が及ぶから。私はそれを言われた通り飲み込むしか無かったんだ。


 喉に絡みついて最悪だったよ。


 で。その後も代わる代わるひたすら犯された。私はただひたすら、この地獄の様な時間が終わるのを待つしか無かった。その永遠とも思える時間の中。ピシリと。何かにヒビが入る音が聞こえたんだ。


 あぁ。きっとこれは、私の心が壊れ始めた音なんだ。このまま心が壊れて廃人になっちゃうんだって。でもそうはならなかった。ふと。誰か数人の足音と人の声が聞こえて来たの。勿論、私でもそいつらでも無かった。


 そう。たまたまその小学校に肝試しに来た人たちの音だったの。私を犯していたそいつらは裸の私を置いて、一目散に逃げて行ったよ。


 お陰で私は。こうして心が壊れる前に何とか助かったってワケ。





 ***





「……以上。これが私の腐った果実おもいでだよ」

「……そんな」

「どう? 私の事を軽蔑した? 穢れてるって思ったよね?」


 こんな私でも真緒はそばに居てくれる? 理解わかってくれる?


「いいえ。そんな事思っていないわ。……と言えば嘘になるわね。うん。軽蔑したわ。穢れてるって思ったわ」

「……そう……だよね。あはは……」


 ホント。容赦ないね真緒。流石、魔王の前世を持つだけあるね。でも。正直に言ってくれて嬉しかった。ここで私の言葉を否定して。辛かったね? 怖かったね? でももう大丈夫だよ? なんて私の事を憐れんで同情して。慰みの言葉を掛けて来ようものなら。真緒の事が嫌いになる所だったから。


「でもッ!? それでもッ!! わたしは優の事がッ!! 優・シャルロッテ・聖護院の事がッ!! ――大好きだッ!!」

「……え?」

「あッ!? いやッ!? そ、そう友達としてよッ!? 友達として好きって事よッ!?」

「そう……だよね」


 最初は好きって言われてびっくりしたけど。そうだよね。友達としてだよね。どうせなら恋愛的な好きって言って欲しかったけど。でも。嬉しい。


 真緒は私の事を軽蔑しても穢れてるって思っていても。こうして好きでいてくれたのだから。私を理解わかってくれたのだから。だから私は。真緒の事が好きなんだ。大好きなんだ。


「うん。私も。大好きだよ真緒?」

「ッ!? そ、そう……」


 でも。まだこの好きって言葉には。友達としての好きって気持ちは乗せられても。

 恋愛的な好きって気持ちは乗せられない。だって。


 真緒は私の事を、恋愛的に好きだと思っていないから。この気持ちを伝えてしまったら。今の関係が壊れてしまうから。そうなってしまえば。もう。

 ヒビの入った私の心は。完全に壊れてしまうから。


 私にはもう、真緒しか居ないから。真緒しか理解わかってくれないから。

 真緒が居なくなったら、私は私で居られなくなる。


 だから真緒。早く私の所に堕ちてきてよ。夜空を照らしていないでさ。私だけを照らしてよ。私だけを見てよ。


 真緒……。

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