第19試愛 真緒Side ラウンド1


 夏休みが始まってから一週間。わたしと優は、お互いの家に遊びに行ったり来たりしていた。何もただ遊びに行っていたわけではない。学校から出された夏休みの課題をこなしていたのだ。そう。夏休みを目一杯楽しむ為に。


 面倒事は先に済ませておくに限るわよね? 後回しにすれば。たとえ楽しく遊んでいたとしても、脳裏に課題の事がよぎり。家に帰れば目に入るのは課題の山。そんなの見た日には、絶叫して気がおかしくなるに決まっているもの。


 世の中には夏休みの課題を後回しにする人もいると聞くわ。でもそんな事する人は、頭がどうかしてるんじゃないかしら? よくそんなんで夏休みを楽しめるわね。

 わたしなら気になってそれどころじゃ無いもの。


 だからこうしてわたし達は。お互いの家に行ったり来たりして、課題を片付けていたのである。そして今日は最後の課題をわたしの家で片付けていた。


 とは言え。わたしと優は学年でツートップの成績なので、課題はあっという間に終わったが。ならば残った時間で何をしているかと言えば……。


「――真緒ッ!! 早く尻尾切ってッ!! 役目でしょッ!?」

「分かっているわ……よッ!!」


 そう。ゲームである。モンスターをハントする奴である。しかし一昔前のポリゴンが荒いやつだ。だから必然とハードも古くなる。つまりは。読み込みが発生する度に、ジーッとディスクを読み込む音が鳴るPなSPだった。


 もうとっくに生産が終わっている奴だ。優は一体コレをどこで手に入れたんだろう? それも私のと合わせて二台も。まぁ、大方どこかの中古ショップだと思うのだけれど。


 何でこんな古いゲームなのかと言えば。優が言うには。今のも勿論、爽快感があって好きだけど。一昔前の痒い所に手が届かないもっさり感が、いい味を出して戦闘に緊迫感を与えていて。絶妙な難易度と相まって血湧き肉躍るほどアドレナリンがドバドバ出るらしい。それが堪らなく最高だと言っていた。


 それに画質の粗さが、自分は今ゲームをしているんだと。強く実感できる所も良いと言っていたっけ。


 最初はわたしもそんな古いゲーム楽しくないでしょ? と思っていたが。プレイしてみて分かった。優があんなに熱弁していた理由が。……これは。楽しい。最初は画質の悪さが気になって、プレイどころではなかったが。プレイして行く内にその画質に目が慣れ、意外とこの画質も乙なもので良いわねと。思えるようになった。


 そして目が慣れると途端に、操作キャラの女性がエッチに見えてくる不思議な現象に出会う。決してモデルが精巧ではないのに。どういう訳かエッチに見えてくるのだ。お陰で気付けば露出度が高い装備を身に付けさせていた。所謂、キ〇ン装備である。けしからん。


 クエスト中に舐め回すようにあらゆる角度から眺めた。最高だった。案外古いゲームも悪くないと思えるほどに。だが。あれは何なんだ? 初級クエストの薬草採取で、途中からあんな凶暴なモンスターが出てくるのは? プレイヤーを見つけるなり突っ込んでくるアイツは?


 薬草採取中にいきなり咆哮されて、身動きが取れなくなった所を。突進されて死んだ。思わず、奇声を上げてゲーム機を投げそうになった。寸前で堪えたけれども。


 こんなの。今のゲームだったら低評価の嵐に違いない。こういう理不尽な所も昔のゲームの良さだと。優は言っていたが。なるほど確かに。今のゲームは親切設計で遊びやすいが、何か物足りない気がしていたのだ。そうか。わたしが求めていたのは。理不尽さだったのか。


 ふふっ。ゲームでこんなに熱くなれたのは初めてだ。なるほどこれは癖になるわね。優が熱弁するのも頷けるわ。


「あ~あ。真緒が尻尾切る前に倒しちゃったじゃん。あ~レア素材がぁ~」

「……ごめんなさい。キャラの胸と尻を眺めていた所為だわ」

「えぇ……。あんなに真剣な顔してそんなとこ見てたの? ……はぁ~。ちょっと休憩~」


 と言って優は白色のゲーム機をテーブルに置くとソファーにうつ伏せに寝転がる。

 クッションに顎を乗せて両足をパタパタしだす。スカートが揺れ、チラリとパンツが見えた。白だった。純白だった。


 ごくり。わたしはまたパンツが見えないかと優を凝視する。


「まお~。マッサージしてよ~。ずっと同じ姿勢でゲームしてたから、身体が痛くなっちゃった~」

「ハイヨロコンデーッ!!」


 パンツをもう一度見たかったが。しょうがない。優の身体に合法的に触れるのだ。それに勝るものは無い。でもパンツは見たかったけど。


 わたしは立ち上がり、優の傍に行く。


「じゃあまずは。肩からマッサージして~?」

「お体に触りますよ~?」


 ゆっくりとわしゃわしゃと私の手が優の肩に迫る。そして肩に触れた。華奢だった。その肩をゆっくりと揉む。


「んあっ。そうそう……そこ」


 そう言う行為をしていないのは分かっている。でも。優の艶めかしい声を聴くと。

 なにかいけない事をしているみたいで興奮した。


「ありがと。じゃあ今度は腰をお願いしてもいい?」

「ハイヨロコンデ―ッ!!」


 次にわたしは優の腰に触れる。細かった。強く抱けば折れてしまいそうだった。

 白く細く長い指で腰を指圧。


「っうぁ……。いい……気持ちいいよぉ」


 優ぅっ! なんて声……出してやがる……ッ!!


「あんっ。そこ……もっと……っ」


 なんだよ。結構当たんじゃねえか。


「まおっ。……今度は足をお願い……」

「ハイヨロコンデーッ!!」


 最後に足に触れる。白くてすべすべでもちもちしている。先ずはふくらはぎをマッサージした。


「……あぁ」


 続いて太ももをマッサージする。ムチムチだった。だが太っているという訳では無い。適度に筋肉と脂肪が付いた健康的な太ももである。


「ぅんっ……まおっ……上手だね? あんっ」

「そ、そう? 初めてやったんだけど……」

「そうなの? んっ……初めてには見えない……あっ……動きだけど?」


 何だこれ? 会話だけを聞いたらヤッている様にしか見えないじゃないの。

 団長っ!! ナニヤッてんだよ団長っ!? 興奮を抑えきれなくなったわたしは。

 自分の手を優の股の間に向かって……止まるんじゃねえぞ。止まらねえぞッ!?


 クッ!! 静まれわたしの右手っ!! それは駄目だっ!! それはまだ早すぎるッ!! 静まり給えッ!! 我の名はマオッ!! 其方の首を返しに参ったッ!!


 ギリギリで何とかシ〇神様に首を返したわたしは、寸前で思いとどまる事が出来た。だが。その行き場を失った右手のリビドーは。代わりの場所を求めた。

 即ち、尻。ケツ。ヒップ。である。


「やっ?! まおっ! どこ触って……っあぅ」


 わたしは両手で揉みしだく。もみもみ。指が沈み込む柔らかさと、その指を跳ね返す適度な弾力。胸の柔らかさとはまた違った揉み心地だった。

 優の尻をわたしは左右に広げると、その間に鼻を埋める。キボウノハナー。


「ちょっ!? なにしてッ!?」

「……スゥーーッ!! ハァーーッ!! スゥーーッ!! ハァーーッ!!」


 何とも言えない香しい臭いがした。


「変態ッ!! どこ嗅いでんのよッ!! ちょっとどいてよッ!!」

「スゥーーッ!! ハァーーッ!! スゥーーッ!! ハァーーッ!!」


 必死に優は抵抗するがわたしに押さえ付けられ、さらにはソファーにうつ伏せになっている為。力が上手く入らず、逃げ出せなかった。

 しかし。優は身体に力を入れた所為か。尻から音が鳴った。


「……あ……ッ!?」

「ウッ!! ……スンスン。スンスン」


 そして私はこう言った。


「うっわ~♡ くっさぁ~♡」

「真緒のバカァッ!!」


 顔面にクッションが叩き付けられた。





 ***





「……いてて。鼻がもげたかと思ったわ」

「アンタがいけないんでしょッ!? あんな変態的な事をしたアンタがッ!!」

「てへぺろ」


 わたしは赤くなった鼻を擦りながら、ペロッと舌を覗かせる。鼻がもげたと言うのは勿論二重の意味である。クッションがぶつかった事と、優の臭いを嗅いだ事だ。


「全く。こんな事するんじゃ、真緒と一緒にプールに行けないわね?」

「プール?」

「そ。両親がね? 招待券貰ったんだって。せっかくだから、お友達と行って来なさいって」

「い”き”た”い”ッ”!!」


 そんなの。行きたいに決まっている。だって。優の水着を拝めるのだから。行きたいに決まっているでしょう? なのに。優は……。


「だ~めっ。真緒と一緒には行かな~いっ」

「しょんなぁ~。……お願いです先生ッ!! わたしにはもう、優先生しか頼れる大人は居ないんですッ!!」


 どうしても行きたいわたしは。優に土下座をした。


「ふ~ん? どうしよっかな~?」

「何卒ッ!! 何卒よろしくおねげぇしますッ!! 先生ッ!!」


 必死に懇願した。すると私の願いが通じたのか、優はこんな事を言って来た。


「しょうがないにゃ~。真緒とプールに一緒に行ってあげても良いよ? ……その代わり――」


 土下座したわたしの後頭部が、優の言葉で撫でられる。


「――キス。してくれる?」

「今。でしょうか? 先生?」


 顔を少し上げ、優を見上げた。


「うん。今だよ」

「分かりました先生」


 わたしは身体を起こして優と向かい合う。そんな。そんな事で良いのかしら?

 そんな事で優の水着姿を見られるのかと。真緒は訝しんだ。とは言え本人がこう言っているのだ。そうなのだろう。それに。優とキスをするのは好きだ。


 当たり前だ。わたしの好きな人なのだから。好きな人とキスをして嫌な人なんていないはずだ。わたしがそうなのだから。


「じゃあ。するよ? 優?」

「……ぅん」


 わたし達は向かい合う。目と目が合った。お互いに顔を少し傾ける。肩が触れ合い、唇が触れた。唇を離す。


「……もっとっ。もっとして?」

「舌を入れる奴かしら?」

「……ぅん」


 わたし達は舌を絡め合った。気分が盛り上がり、手も絡め合う。恋人繋ぎだ。

 そして今、一つに溶け合った。わたしと優の境界が曖昧になり、頭がボーっとしてくる。心地よかった。気持ち良かった。


 わたしは一人じゃないんだって思えたから。


「――あ。そう言えば私。水着持って無かった」

「……わたしもよ」

「そっか。じゃあ、今度二人で買いに行く?」

「そうね。そうしましょう」


 濃厚なキスをし終えたわたしと優は。ソファーに身体を沈めながらそんな事を言い合った。手は繋いだままで。

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