第16試愛 優Side ラウンド2


『そう言えば』


『今日のお昼』


『デートに誘ってくれて』


『ありがとう真緒』


(感謝のスタンプ)


                        (それほどでも~のスタンプ)


                              『だって明日は』


                          『優の誕生日でしょう?』


『え? 何で知ってんの?』


『教えていない筈だけど』


                                 『そうね』


                             『何でかしらね?』


                           (首を傾げるスタンプ)


『え。こわ』


『でも』


『ありがとう』


『デート誘ってくれて』


                             (ドヤ顔スタンプ)


『明日、楽しみにしてるね?』


                                  『うん』


                        『わたしも楽しみにしてるわ』


                      『優がどんな服で来るのかをね?』


『それは』


『うん』


『楽しみにしてて』


                                  『うん』


『じゃあ』


                                 『じゃあ』


『おやすみ真緒。わっぴ~!』


                         『おやすみ優。わっぴ~!』





 ***





 私はスマホの電源を落とす。そしてスマホに付いた真緒から貰ったストラップを、一撫でしてから枕元に置いた。目覚まし時計を朝八時に設定。よし。何たって明日は。真緒とデートするんだ。寝坊している暇なんかない。

 ランプの灯りを消す。私は寝転がっていたベッドに仰向けになって。掛け布団を身体に掛けた。


「うふっ。明日は真緒とデートかぁ」


 目を瞑って明日のデートに思いを馳せる。


 デート。私が真緒の事が好きだと確信してから、初めてのデートだ。何を着て行こうかな? やっぱり真緒に可愛いって言ってもらいたいよね。それに真緒はどんな服で来るのかな? 前みたいに肩を出してくるのかな?


 それに。明日は何回キスしてくれるかな? 望むのならディープキスもしたい。

 あれから一度もしていないから。誕生日ぐらいこんな事を願っても良い筈だ。何たって、明日の誕生日の主役は私なのだから。


 真緒はプレゼント用意してくれてるのかな? そうだとしたら何をくれるんだろうか? 楽しみだな。……でも。


 真緒は。私の事が好きだからデートに誘ったんじゃないよね。――堕とし愛。その戦争ゲームに勝つ為にしていることなんだろうな。きっと。あーあ。


 だったらもういっそ。私が負けていることを真緒に伝えようかな? そうすれば私の為にデートに誘ってくれるのかな? いや。そんな事は無いか。大体それは、真緒が私の事を好きだと言う大前提が無いと成立しない事だし。


 それに。もしそうじゃ無かったら。私がこの気持ちを伝えてしまったら。きっとこの関係は壊れてしまうだろう。それが怖かった。そうなるくらいなら。このまま私と真緒は友達のままで居たかった。恋人にはなれないけれど、傍には居られるから。


 あはは。こういうのを奥手って言うのかな? 何だ。私にも苦手な事があるんじゃない。完璧超人なんかじゃ無かったんだ。きっと真緒は。こんな事では悩まないんだろうな。もし誰かに恋をしたら。私なんかよりずっと上手くやるんだろうな。それこそどんな手を使ってでも。


 私の中には。恋と戦争には手段を択ばない、イギリス人の血が流れているって言うのに。勇者の前世を持っているって言うのに。そんな勇気は。私には絶対に無い。


 て。ネガティブな事考えるな私。明日は真緒とデートなんだぞ。だから、もっと何か明るい事を考えよう。うーん? そうだなぁ~? あ。


 そう言えば今日の昼休み。真緒がデートに誘う前に私は。真緒の頭の匂いを嗅いだんだ。シャンプーの仄かな甘い香りと、蒸れた汗の臭いが混じった何とも言えない匂いだった。


 こう。下腹部にクる匂いだった。無意識に手が股の間に向かおうとするほどの。

 あぁ。何だか思い出したら。またムラムラしてきちゃったじゃん。明日はデートなのに。夜更かししてられないのに。


 クソッ。我慢だ我慢。煩悩を鎮めろ。素数を数えろ。ふっー。ふっー。落ち着くんだ私。……真緒。真緒の頭の匂い。汗の臭い。


 だーーッ!! もう我慢出来ないッ!! ……一回。そう一回だけ。一回ヤッたら止めよう。そうだ。そうしよう。そうすればこのムラムラも収まるはず。だよね?


 だから良いよね? シテも?


 私はゆっくりと短パンを持ち上げ、ショーツの中に手を突っ込む。そして中指の先で私の敏感な部分を、舐るように触れた。


「……ぅんっ!」


 甘い刺激に思わず声が出てしまう。慌てて手で口を塞いだ。両親にバレてないよね? 大丈夫だよね? ……うん。大丈夫そうだ。とは言え声は抑えないと。


 ――こうして私の夜は更けていった。


 真緒があの時言ったように。私は真緒の頭の匂いを思い出しながら、三回ヤッてしまった。そのせいでショーツがグショグショになってしまい、履き替える羽目になった。ホント。ナニしてんだろ私。明日はデートだって言うのに。いけない子だ。


 これも全部、真緒がいけないんだ。私をこんな風にしてしまった真緒が。


 だからね真緒。


 大好きだよ。





 ***





 まずいますいまずいっ!? ん? 何がまずいんだ? 言ってみろ。そんなの決まっているでしょッ!? 寝坊だよ寝坊ッ!! あぁもうッ!! 昨日あんな事しちゃうからッ!! 今日はデートだってのにッ!!


 待ち合わせの時間、もう過ぎちゃってるじゃないッ!! 急げ急げッ!! 遅刻遅刻ッ!!


 今日の私の服装は。寝坊して時間が無かった為、クローゼットでぱっと目に付いた白のフリルワンピースだった。足元は白いサンダルにして統一感を演出。頭には麦わら帽子を被っている。まさに。ザ・夏といった装いだった。


 だがシンプル故に、無駄が無くオシャレで可愛い。それが寝坊した私の頭で導き出した答えである。ホントはもっと可愛いコーデをしたかったんだけどなぁ。クソッ。昨日の自分が悔やまれる。あんな……乱れてしまわなければッ!! こんな事にはならなかったのにッ!!


 でも今更、過去の事を悔やんでも仕方が無い。だって過去は変えられないから。未来は分からないから。今、この瞬間を変えるしかないんだ。


 だから。今日のデートを目一杯楽しむんだッ!! それが、今の私に出来る精一杯だからッ!! 優、動きます。


 麦わら帽子を風に飛ばされない様、片手で押さえ。私はいつもの待ち合わせ場所である最寄りの駅前広場に向かって走った。クソッ!! こんな炎天下の中を走るなんて。これじゃあ真緒とのデートを、一日中汗臭い身体で過ごさなきゃいけなくなっちゃうじゃん。


 いや。真緒も同じか。炎天下の中で私を待っているのだから。きっと真緒も汗をかいているに違いない。全く。これじゃあ二人そろって汗臭いデートになっちゃうよ。

 そんなの嫌だよ。……でも。一方で真緒の汗の臭いを嗅ぎたいと思う自分がいて。


 ホント。私ってどうしちゃったんだろうね? 前までなら、他人の汗の臭いなんて嫌で堪らなかったのに。好きな人のなら嗅ぎたいだなんて思ってしまうのは。真緒に釣られて私まで変態になってるじゃんね。


 これが俗にいう恋の魔力って言うものなのかね? まるでシシ神様の祟りじゃ~ッ!! あぁ~恐ろしや~恐ろしや~。ナムナム。トムヤムクン。頭の中で私は両手を擦り合わせた。


 なんて。脳内でバカやっていたら。駅前広場に到着した。辺りを見回す。だが真緒の姿は何処にも無かった。ムムッ!! と脳内カ〇ラセンサーが反応。

 まさかこれは……。識別、来ましたッ!! パターン黒ッ!! 真緒ですッ!!


 優。エ〇ァーに乗れ。嫌だよ父さんッ!! ならお前の居場所は無い。今すぐここを去れ。……分かったよ父さんッ!! 僕、エ〇ァーに乗るよぉッ!!


 エ〇ァー初号機。発進ッ!! 優、行きまーーすッ!!


 以前、真緒はこうして姿をくらまして私の背後からだ~れだをして来た。だがッ!! 一度通じた手は二度と通じないと知れッ!! 私は背後を振り返った。


 そして、両腕を前に突き出すイー〇ンガードでA〇フィールドを展開。しかし。そこに真緒の姿は無かった。こつぜーんだった。


「ふっ。一体何時からそれをわたしだと思っていた? ……それは残像だよ」

「なん……だと……ッ!?」


 背後から真緒の声が聞こえてくる。私は振り返ろうとしたが。その前に背後から抱き締められた。ふにんと柔らかい感触が背中を包んだ。真緒の胸だ。その胸は豊満であった。ドキリと私の心臓が早鐘を打つ。


 真緒の胸。私なんかと比べて大きく、そして柔らかい。自分にも付いているそれが。真緒のものだと思うと。無性にドキドキした。なんで。胸を押し当てられたことなら前にもあったのに。あの時よりもドキドキがこんなに凄いのは。


 それはきっと。真緒の事が好きだと認めてしまったから。だから。こんなにも私は。身も心も真緒に焦がれてしまうんだ。


「ペロッ!」

「――あひゃッ!?」


 だと言うのに真緒は。私の気も知らないで。なんで私の首筋を舐めるなんて、変態的行為をするんだよ。


「……これは優の汗の味だ」

「なッ!? バカッ!! 変態ッ!! 妖怪首筋舐めハゲ女ッ!!」


 私は必死に真緒の拘束を解こうとするが、中々解けない。それを良い事に真緒は。

 鼻を首筋に押し当てて。匂いを嗅ぎだした。


「スンスン。ん? この匂いはまさか。汗。石鹸。優液。優汁。優ちゃん製造だし汁。……さては、ここまで走って来たなッ!!」

「いい加減に……離れ、ろ……変態ッ!!」

「いやんッ!」


 遂に私は真緒の拘束を脱出した。首筋に触れる。ほんのりと湿っていた。私はそれをハンカチで拭って、首筋も同じようにする。

 そして振り返ると真緒の姿が目に入った。


 真緒はへそ出しTシャツにジーンズという恰好だった。さりげなく真緒のへそを見る。エッチだった。それにお腹周りが引き締まっていて、薄っすらと腹筋の筋が見えている。エッチだった。


 もっと見ていたいが。それだと真緒に気付かれてしまう。だから私は、真緒の顔を見上げた。真緒の顔は相変わらず美しかった。その事に先程の変態的所業とのギャップを感じ。思わずため息が漏れた。


「……はぁ~。全く。今日は私の誕生日なんだよ? デートなんだよ? なのにこんな事して……。はぁ~。まさか楽しみにしてろってこの事なの?」

「違う違う。そうじゃ、そうじゃな~い」

「一体何時から真緒は、ラブソングの王様になったのよ?」

「ん? 今でしょ?」


 真緒は両手を顔の前に出してドやった。


「……それより。どうなのよ? まさかこれが、楽しみにしてろって言っていた事じゃないでしょうね?」

「違う違う。そうじゃ、そう――」

「――じゃないからッ!!」


 天丼は良いから。早く言いなさいよ。全く。


「……こほん。勿論違うわよ? まぁ、わたしとしては楽しめたのだけれど? 優に言ったのはこの事じゃ無いわ」


 ん? 今確かに自分は楽しめたって言ったわよね? まぁ、私も真緒の胸の感触を楽しんでいたけど……。


「……じゃあ。どんな事なのよ? その楽しみにしてろって言うのは?」


 さぞかし凄い事なんでしょうね?


「――水族館よ」

「すいぞ……何て?」

「水族館よ。水族館。Sの一族がいるやかたよ」

「いや知ってるけど……。それより何そのDの一族みたいのは……?」

「寿司ネタよ」

「は?」


 寿司ネタ? 真緒は一体何を仰っているので? 寿司ネタは水族館で泳いでいないでしょうよ?


「いや。泳いでいるわよ? マグロ、タイ、イカ、タコ。たくさん泳いでいるでしょう?」

「え? もしかして真緒って。見るより、食い気の方が勝る感じ?」

「えぇ。寿司ネタが泳いでいる様にしか見えないわ」

「わ~お」


 肉食系女子だね。いや海鮮系女子か?

 いやいや。魔王系女子だったわね真緒は。

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