第15試愛 真緒Side ラウンド1


 優とディープキスをした。とは言えあれから半月ぐらい経っているけれど。あんなに激しく求めて来た優は初めてだった。優はわたしがどこか遠くに行ってしまうのが怖かったと言った。そんな事、わたしがする筈なんて無いのに。


 わたしの好きな人は優以外居ないのに。だから男子からの告白を断った。第一わたしの恋愛対象は女性だ。その男子には悪いけど、最初からスタート位置にも立ってすらいないのだ。そんな相手の告白を受けるはずが無かった。何よりも、豚に恋をしろと言う方がどだい無理な話ではある。


でも。優は。わたしがソイツに取れれるんじゃないかと思って嫉妬した。そんな事無いのにね? だが優がそんな感情をわたしに抱くなんて。思いもしなかった。だからあんな風に揶揄うように。告白されたと話してしまった。


 結果。優は感情を爆発させ、わたしの前から走り去ってしまう。あの時ほど自分を悔やんだ事は無い。だってわたしは。自分の好きな人を傷つけてしまったから。

 自分の好きに気を取られて、優の気持ちを考えていなかった。


 優がわたしに嫉妬したという事は。わたしの事が好きなのだろうか? それは恋の好きか、友情の好きか。一体どっちの好きなのだろうか? 優はわたしを友達と言ってくれた。その事は非常に嬉しいが。


 わたしに向けられた優の嫉妬は。友達としてのもの? 告白にイエスと答えたらそれはつまり。恋人との時間が優先されて、友達との時間が減ってしまうという事。

 それを優は危惧したの? うん。今の所、可能性として一番高いのはこれか。


 だって優の口からわたしの事は友達だ。って言っていたし。あれが恋の好きから来る嫉妬なのかは、正直分からない。いや、そうであって欲しいが。なんせそのために堕とし愛なんて言う戦争ゲームを用意したのだから。


 わたしを好きになってくれないと困る。だって、そのために今まで色々な策を弄してきたんだから。それでも。今の優が、わたしの事を好きだと断定するのは早計過ぎるというもの。


 ……だけれど。あの時、確かに優は。わたしとディープキスをした。わたしを激しく求めて来た。それは事実だ。なら優はわたしに恋をしているのか? あぁ、何だか思考が堂々巡りしている気がするわね。


 でも、これだけは確実に言えると思う。優はわたしに恋心を抱き始めている。そうじゃなきゃ、わたしに嫉妬したり。あんなに激しく求めてきたりはしないはずだから。


 て。既に答えが出ているじゃないの。優はわたしに恋心を抱き始めている。そうだ。わたしが蒔いた種は。確実に芽吹き始めているんだ。ならわたしはその芽を育てて。何時しか、百合の花を咲かせてやれば良い。


 だから。


 さぁ――堕とし愛ましょう?





 ***





 七月六日、金曜日。優の誕生日の前日だ。わたしと優は、学校の屋上でお昼を食べ終えて寛いでいた。わたしの膝を枕に優は寝転んでいる。その頭を優しく撫でた。

 優は擽ったそうにしながらも、嫌そうにはしていない。


 優の髪のサラサラした感触がわたしは好きだった。指の間を滑り抜ける髪の毛が癖になる。何時までも触っていたくなる髪だった。しかし何時までも触っていると怒られるので、わたしは手を離す。先程までの髪の毛の感触が指の間に残っている。


 わたしはその指を鼻に近付け、仄かに残った優の残り香を思いっきり嗅いだ。


「スーハ―ッ!! スーハ―ッ!! スーーッ!! ……はぁ~~っ!」

「? 何してるの? 真緒?」

「匂いを嗅いでいるのよ。優の髪の残り香をね。……スーハーッ!! スーハーッ!!」

「もう。それなら私の頭を直接嗅げばいいのに……ほら」

「え?」


 そう言って優は。わたしの膝から頭を上げ、つむじを此方に向けて来た。そう。そうなのだ。あの日、ディープキスをしてからというもの。優がやけに積極的なのだ。

 こうしてわたしの変態的行為までもを肯定するかのように。


 あぁ、どうやら優は。わたしに恋心を抱き始めているようね。わたしの蒔いた種が芽吹いていたのは間違いないようね。ふふっ。優は。優は順調に堕ちている。

 その事に魔王わたしは。仄暗い優越感を覚えた。流石、魔王ね。趣味が悪いわ。


 と言いつつ。己も同じような感情を抱いていた。まるで優を、自分好みに洗脳しているみたいで興奮している自分が居るのだ。その事はなるべく意識しないようにしていた。だって。それを意識してしまったら。わたしが魔王わたしで塗り潰される気がするから。


 今のこのわたしが居なくなってしまう気がするから。それだけは嫌だ。優は。優はわたしのものなのだから。魔王わたしはすっこんでいなさい。地獄から見ていろと言ったはずでしょう?


 だから。優のつむじの匂いを嗅げるのもわたしだけなのよ? 羨ましいでしょ? 魔王わ・た・し


 と煽り散らかしたわたしは。優だけに悠々とつむじに鼻を押し当てた。そして肺腑に行き渡るように深呼吸する。


「ひっひっふーーッ!! ひっひっふーーッ!!」

「それラマーズ法だから。息吐いてどうすんのよ? それじゃあ匂い嗅げないでしょう?」


 そうやって律儀にツッコんでくれる所。わたしは好きだ。そして優の匂いも好きだ。改めてわたしは優の頭の匂いを嗅いだ。


「スーハ―ッ!! スーハ―ッ!! スーーッ!! ……はぁ~~っ!」

「……どう? 良い匂いする?」

「あ^~たまりませんわ~ッ!!」


 シャンプーの仄かな甘い匂いと、汗で蒸れた頭皮の臭いがマリアージュして。下腹部にズドンとクる。これだけでご飯三杯はイケるオカズだ。パクパクですわ~ッ!!

 今夜の過酷も捗りそうね。お前ら笑うなよ? 過酷な一人遊びしてんだよッ!?


「なにお嬢様になってるのよ? そんなに良いの?」

「あったり前よッ!! これだけで三回はイケるわッ!!」

「? イケ……?」

「気になるならわたしの頭を嗅いでみなさい。飛ぶぞ」


 今度はわたしが優につむじを向けた。ムズムズとつむじから優の視線を感じる。


「……良いの?」

「もちのろんよ」

「……じゃ……じゃあ失礼して……」


 優は控えめに鼻をわたしのつむじに当てる。そしてスンスンと匂いを嗅ぐ音が聞こえて来た。わたしは頭の匂いを嗅がせている関係上。目線が下を向いている。その目線の先には。優の太ももがあり、モジモジと悩まし気に内ももを擦り合わせていた。


 ふふっ。どうやらわたしの言っていた事が身体で分かった様ね。ん? 優の手がだんだん股の間に……。


「……優? しようとしているのかしら? こんな学校の屋上で。それも真昼間からね?」


 まぁ? わたしとしては? このまま目の前で? 優の痴態を眺めてあげても良いのだけれど? でもそんな事になってしまえば。わたしも我慢できなくなって優を襲ってしまうから。それだけは駄目だ。わたしに恋心を抱き始めているからとはいえ。


 そんな事をしてしまえば嫌われてしまう。いや。一生のトラウマになってしまうかもしれないのだ。だって。それは。相手の気持ちを考えない、強姦と変わらないのだから。だから。良い子の皆は、決してそんなことをしては駄目だぞっ?


「ッ!? べ、別にナニもしようとなんかしてないしッ!!」

「ふーん? へぇー? ほーん? もしてない、ね?」

「だから何でナニを強調するのよッ!?」

「? だって優が今しようとしてたのって。オ〇ニーでしょ?」

「だーーーーッ!!!! そんな事する訳ないでしょッ!? この馬鹿ッ!! 変態ッ!! デカ乳スケベ大魔王ッ!!」


 優は両手を顔の前でブンブン振り、必死に否定する。その顔は真っ赤だった。可愛いね。あ。良い子の皆はこんな風にセクハラもしちゃ駄目だぞっ?


「……ふふっ。そうです。わたすがデカ乳スケベ大魔王です。デッカパイだッ」


 脳内でガラスの割れる音が再生された。


「なに認めてんのよ」

「? だって本当の事でしょう?」


 わたしは自分の乳を持ち上げ、優に見せ付ける様に揉みしだく。

 もみもみ。


「ッ!? そのデカ乳を揉みながらこっちくんなッ!?」

「ふふっ。ちょっとだけヨ~?」

「だからこっちくんなーーッ!? アーーッ!?」


 わたし達は学校の屋上を追い掛けっこした。鬼はわたしこと、デカ乳スケベ大魔王である。待てーッ!!


「――グヘへッ! もう、逃げられないぜ?」

「くッ!! 殺せッ!!」


 優を屋上の隅に追い詰めたわたしは。デカ乳を揉みながら言う。

 もみもみ。


「大丈夫? おっぱい揉む?」

「大丈夫じゃ無いわッ!? 大体おっぱい揉んでんのはそっちでしょうがッ!?」


 コール&レスポンス。打てば響く。本当に優ってからかい甲斐があるわね。つい、あれもこれも試したくなっちゃうじゃないの。でもそろそろ、あの事を伝えないと。

 昼休みが終わってしまう。


 わたしはスンとデカ乳を揉んでいた手を下ろし。優の後ろにある落下防止用フェンスに手を突っ張った。フェンスドンである。しゃりんとフェンスが鳴った。


 優はこれから何をされるんだろうと。不安でありながらどこか期待するような視線を、わたしに送ってくる。わたしはその期待の方に賭けた。


「優」

「な、なによ?」

「明日、休みでしょう?」

「そ、そうだね?」

「……だから」

「だから?」

「……わたしと」

「真緒と?」

「……続きはCMの後でッ!」

「ってオイィィィッ!! そのボケはもう良いってッ!!」

「てへぺろ」


 本当に優ってノリが良いわね。でも本当に早くしないと昼休みが終わってしまう。

 なので。散々溜めていたあの事を遂に言った。


「こほんッ! えーっと。明日、わたしとデートしてくれないかしら?」

「でぇと?」

「そう。デート。逢引。ヨバーイ」

「……いや。最後のは違くない?」

「そうね。……で、デートしてくれるのかしら? 優?」

「……ぅん……良いよ」 


 優は俯いて、か細い声でそう言った。


「そう。良かったわ。なら明日。楽しみに震えて待つが良いわ。……アーハッハッハッ!! アーハッハッゲホッゲホッゲホッ!!」


 わたしはそれに高笑いして答えた。最後の方は咽てしまって笑えなかったが。


「だ、大丈夫?」

「おのれッ!! 覚えていろッ!! 金色勇者少女ユウッ!! 今日の所はこれで勘弁してやるからなーーッ!!」

「……行っちゃった。あれじゃあまるで。シャドウミストレイ真緒じゃん」


 わたしのデビルイヤーは地獄耳なので。優のその呟きが聞こえてきた。なにをッ!

 わたしをあんな、へっぽこ魔族と一緒にしてもらっては困るッ!!


 私は魔王であるぞッ!! 控えよろうッ!! 控えよろうッ!! このデカ乳所が目に入らぬかーッ!! 右乳さん。左乳さん。やっておしまいッ!!


 イヤーーッ!! グワーーッ!?

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