第9試愛 真緒Side ラウンド2


「バキバキ童貞です」


 わたしは思わずそう口走っていた。なんせ今の優の姿が。わたしの中のぐん〇ぃにおもっくそブッ刺さっていたのだから。そう。まるで、ゲイボルグで回避不能の一撃を心臓に喰らったぐらいの、致命傷をわたしの中のぐん〇ぃが負ったのである。


 それでも倒れなかったのは。ひとえにわたしが、騎士王並みの幸運を発揮したからに他ならない。でも。それはそれとして。令〇を持って命じる。ランサー、自害しろ。イヤーッ!! グワーッ!?


 よし。これでわたしの心臓は守られた。なんて。馬鹿な事を考える位に今のわたしはバグっていた。


 淡いピンクのフリルブラウスに、黒いフリルスカート。俗に言う地雷系ファッションをした優が、目の前に居たからである。だ~れだ? をする時に後ろ姿を見ていたが。それでも十分可愛かったけど。こうして正面から見ると。その可愛さは数倍。数十倍。数百倍。いや。魔を滅する忍者の如く、三千倍にも膨れ上がった。


 つまりはオホオホのアヘアヘである。


「……ねぇ。他に言う事無いの? ?」


 おっと。どうやらわたしの彼女(予定)さんが不機嫌になっておられる。当たり前だ。服が似合っているか聞いて来たのに。帰って来た言葉がバキバキ童貞だったら。だれでも不機嫌になる。わたしだってそうだ。寧ろ、キレられても文句は言えないだろう。


 それにわたしとしても。バキバキ童貞なんて台詞を言うつもりは無かったのだ。でも。地雷系の優の可愛さに思わず。心の中のぐん〇ぃがそう勝手に叫んでしまったのである。流石は童貞を殺す服なだけある。こうかはばつぐんだ。である。


 だが、言ってしまった言葉を取り消すことはもう出来ない。だから。その言葉を吹き飛ばす思いで。わたしは優の耳元で囁いた。


「……可愛いよ優」

「……あぅ」


 あぅ、だって。あぅ。可愛すぎない!? 何その鳴き声は。わたしを殺す気なの? ねぇそうなの? あぁッ!! その声ッ!! もっと聞きたいわッ!!

 わたしは再度囁く。


「……可愛いよ。凄く可愛い。とっても可愛い。……だから、ね? キスしても良い?」

「……ぅん……ぃいよ……ッ」


 優の可愛さに、辛抱堪らなくなったわたしはキスを迫った。蚊の鳴くような声で承諾する優。わたしは一度、優の耳元から顔を離す。青空のような瞳と目が合った。

 その下の大地は赤く染まっている。更にその下に目を遣れば。小ぶりで瑞々しい、美味しそうな果実が実っていた。


 その果実をわたしは。小鳥のように啄んだ。


 顔を離す。優の顔はトロンと蕩けたような表情をしていた。その顔がまた可愛くて。あぁ、わたしって本当に優の事が好きなんだなぁ。と。改めて自分の恋心に気付かされた。そしてこの恋心を。絶対に成就させてやると、強く強く決意した。


 さぁ――堕とし愛ましょう?





 ***





 電車とバスを乗り継いで、わたし達は遊園地に着いた。某ネズミの国の遊園地ではない。地方にある、それほど大きくは無いが十分遊べる遊園地である。それでもゴールデンウイークという事もあって、家族連れや若いカップル。決して少なくない数の同性カップルも居た。


 さすが。いち早くパートナー制度を導入した自治体だけある。あわよくばわたしと優も周りからそう思われていますように。まだ恋人同士では無いけど。それぐらいは別に望んでもバチは当たらないはずよね?


 わたしは、隣で手を繋いでいる優をチラリと見遣る。うん。身長差も相まって、まるで姉妹みたいね。これじゃあカップルとは見られないか。まぁでも。そんな事はどうでも良い。周りがどう見ていようが、わたしは優の事が好きなんだ。


 バカ〇ンのパパよろしく、それで良いのだ。何より周りの人間は。わたしの事をどうせ、便利な機械かナニカだとしか思っていない。そんな豚どもにどう思われようが関係ない。


 わたし達はわたし達で。愛を育んでいけば良いんだ。堕とし愛という名の戦争ゲームで。


「ねぇ、真緒。アレ乗ろうよ」


 そう言って優が指差す方向には。ジェットコースターがあった。


「あぁんッ! 初めてなのにそんなに激しくしたら。わたし壊れちゃうわッ!」

「そんな誤解を招く言い方すんじゃねぇッ!?」


 あぁんッ! 優の鋭いツッコミッ! 癖になってんだ。優にツッコんでもらうの。


「ほらッ! 行くよッ! 真緒ッ!」

「お願い? 初めては優しくして?」

「ボケが。何時まで言ってんのよ? いい加減にしないとつよ?」

「そんなッ!? ひどいッ!! 親父にもたれた事無いのにッ!!」


 某人型機動兵器パイロットの如く、わたしは言った。真緒。行きまぁーーすッ!!

 こうしてわたしは、優に引き摺られながらジェットコースターの列に並んだ。


 全く。遊園地に入って早々にジェットコースターとは。最初はもっとこう。軽めの奴で慣らすものなんじゃ無いの? わたしって遊園地で殆ど遊んだことが無いから、よくは知らないけど。


 遊園地か。幼い頃に両親と遊んだ記憶が薄っすらとあるが。小学低学年の時に両親を事故で亡くしてからは。一度も来たことが無い。それぐらい遊園地には思い入れが無いのだ。


 それに。両親を亡くした後。親戚の家をたらい回しにされて、それどころでは無かったし。まぁ、それも高校に入って一人暮らしを始めてからは無くなり。こうして優と手を繋いで遊べるようになった。にぎにぎ。優の手は小っちゃくて柔らかいなぁ。


 あ。優がにぎにぎ仕返してきた。愛いやつよのぉ。ほれ。もっとにぎにぎしてやるぞい。にぎにぎ。にぎにぎ。おにぎり。


「……ねぇ。何時まで私の手でおにぎり握っているのよ?」


 お。エスパーだ。

(優よ。今私はあなたの頭に直接、語り掛けています)


「なッ!? コイツ脳内に直接ッ!?」

「ファミ〇キください」

「て。脳内も何も。今、真緒が口で言ってたでしょ?」

「てへぺろ」


 バレちゃあ仕方ない。わたしは舌を出してお道化た。


「それより優? あなた、身長制限大丈夫そ?」

「ふふん。平気よ。つい此間の健康診断で計ったら、なんと身長が伸びていたの」

「へぇー。じゃあ今何センチなのかしら?」

「聞いて驚きなさい。なんと百四十六センチになっていたわッ!!」


 えっと。それって凄い事なのかしら? それにジェットコースターの身長制限は百四十五である。一センチしか変わらないのだけれど?

 あ。因みにわたしの身長は百七十五センチである。高校生男子と変わらない身長である。


「何言ってるのよッ!! 一センチよ一センチッ!! 背を伸ばす為に、この私がどれだけ努力した事か……ッ!」

「たとえば?」

「たとえば。毎日牛乳をコップ一杯飲んだり。三食キッチリ食べたり。万歳体操で身体を伸ばしたり。そりゃあもう。血の滲むような努力をしたわ」


 確か。万歳体操って姿勢を矯正する体操だと思うのだけれど? 身長が伸びたように感じたのは、ただ姿勢が良くなったからで。実際には本来の身長に戻っただけの筈よね? わたしは想像する。優が自分の部屋で、万歳しながら背伸びをしている様を。身長を伸ばそうと頑張っている様を。


 可愛い。必死に努力してて可愛いね? でもその努力が間違っていたと知ったら。

 優は一体どんな顔をするんだろう? わたし、気になりますッ!

 だがそんな酷な事。この魔王わたしであっても出来ない。


 そんな事をすれば、優がとっても悲しむと思うから。それに。今このキラキラとした自信に満ちた顔を、崩したくは無かった。

 番犬ケルベロスちゃん。この事も宝箱に入れておくから。絶対に守ってね?


 と。四方山話の山に花を咲かせていたわたし達だが。遂にジェットコースターへと乗り込む。最前列だった。まぁ? 魔王であるわたしに掛かれば? こんなの児戯に等しいし? 別に怖くないし? 本当だし? 何なら今からその事を証明してあげるし?


 ジェットコースターはゆっくりと坂を上っていく。やがてギギギと坂の天辺で一度止まる。静寂。ゴクリ。わたしは空唾を飲み込んだ。


 瞬間。


 ジェットコースターの沈み込むような感覚が足元に伝わる。一転。今度は身体全体が浮き上がるような感覚が。浮遊感、与えちゃったか~。


 そのまま私は地面へと堕ちた。まさかまっさかさま。

 魔王様”拷問”の時間です。


「――うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!?!?」

「――アハハハハハハハハハハハハッ!!」


 優ッ!? 何で笑っていられるのよッ!? わたし達、このままじゃ地面に仲良く赤い染みを作っちゃうんだよッ!? 地面をキャンパスに、赤い花を描いちゃうんだよッ!? 作品名はそうッ!? 純潔乙女の徒花。になっちゃうんだよッ!?


 サヨナラッ!! ってしめやかに爆散しちゃうんだよッ!? オタッシャデーッ!! しちゃうんだよッ!?


「――うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!?!?」

「――アハハハハハハハハハハハハッ!!」


 もう駄目だぁーーッ!? おしまいだぁーーッ!? 安西さん。諦めたらそこで試合終了って言いましたが。これは諦めなくても無理です。詰みです。王手です。チェックメイトです。バットエンドです。ゲームオーバーです。


 魔王様は離した。自分の意識を。

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