第7試愛 マオウSide ラウンド3


わたしと優はお互いに謝って仲直りした。優はわたしの事を友達だと言ってくれた。だけど。どうせなら。恋人になりたかった。まぁ、これからそう言う仲に発展していけば良いのだけれども。


 そしてわたしと優は今。マスターが入れてくれた、オリジナル・ブレンドコーヒーを楽しみながら。優が今日買っていた百合の花園というタイトルの小説を、肩を寄せ合って二人で読んでいた。


 大まかなストーリはこうだ。庶民だった主人公の少女が、突然お嬢様学校に通う事になる。そこで主人公は先輩であり、学校で一番の人気者である生徒会長の少女と出会う。初めは慣れない学校生活につまずく事も多かった主人公だが。生徒会長のお陰で、徐々にお嬢様学校での生活に慣れ始める。


 そんな折。生徒会長から、学校の特殊な制度の存在を知らされる。その制度とは姉妹制度と呼ばれるものだった。生徒会長は言う。私の妹にならないかと。戸惑う主人公だったが、慣れない学校生活を支えてくれた事もあり。主人公はその申し出を受ける事に。


 こうして疑似姉妹となった主人公と生徒会長は――。


 ――おっと。ネタバレ警察が来たようね。それじゃあそう言う事だから。これ以上、内容を言う事は控えさせてもらうわ。サラダバーッ!


 こうして、ネタバレ警察が去って行った喫茶店内には。紙を捲る音。壁掛け時計が時を刻む音。マスターが仕事をする音。わたし達の静かな命の音。

 ただそれだけが響いていた。まるでそれ以外の音が消えたみたいに。何て。そんな風に言ったら少し詩的かしら? サラダだけに。


 などと下らないギャグを考えていたら。ふと、優が身じろいだ。肩が触れ合う。何となくわたしは優の横顔を見つめる。優は金の髪を耳に掛けた。その仕草は何処か艶めかしい。つまりはエロいという事だ。思わず、眼球のシャッターを下ろしまくっていた。そしてその写真を脳内フォルダに永久保存する。


 と、わたしの撮影に気づいたのか、優が此方を振り向く。


「……何よ? 私の顔なんか見て。そんなに面白い?」

「うーん? どちらかと言えば、かしらね?」

「なッ!? 私の顔の何処がエロいってのよッ!? そ、そう言うアンタの方がよっぽどエロいわよッ!?」


 否定する優の顔は真っ赤だった。可愛い。


「……へぇー。わたしのどこがエロいのかしら?」


 わたしは悪戯な声色で問いかけた。


「そんなの身体に決まってんでしょッ!? 特にその胸ッ!! 無駄にデカい乳ぶら下げて、僕は悪いスライムじゃ無いよ? みたいな顔してプルプル揺らしてんじゃ無いわよッ!? 全くッ!! ……はぁー。こっちは目のやり場に困るっての……」


 へぇー。そうなんだ。それってつまり。わたしの胸をエロい目で見ているってことよね? うふふっ。嬉しいな。下腹部が疼いちゃうじゃん。今夜は夜更かし決定ね。


 なら今夜は優にも夜更かししてもらおうかな? 


「大丈夫? おっぱい揉む? パフパフしちゃう?」

「ちょッ!? やめッ!? ……むごッ!?」


 わたしは己の大きな胸を両腕で寄せて、優の顔に押し当てた。もぞもぞと逃げようと藻掻く優。だが後ろは壁しか無くて。逃げる事は出来ない。袋小路である。

 だから大人しくわたしの胸に溺れなさい優。


「んーッ!? んーッ!?」

「あんっ。優、そんなに激しく動いたら。ら、らめぇッ!」


 ふざけた喘ぎ声を出すわたし。優はテーブルを手で叩いて降参をアピールする。もう少し楽しみたかったが。仕方ない。それにこれ以上したら嫌われるかもしれない。

 わたしは優をおっぱいプリズンからブレイクした。


「ぷはーーッ!? ……ハァ……ハァ……死ぬかと思った……」


 優の顔は酸欠で赤くなっていた。


「……ちょっと。真緒。アンタ、私を殺す気? 私を乳上死させる気なの?」

「そんな事しないわよ。……でも。優を腹上死させるほど、気持ち良くしてあげたいとは思うのだけれど?」

「ッ!? え、エッチなのは駄目ッ!! 死刑ッ!!」


 あぁんッ!! そんな初心な優ちゃんに、痺れる憧れるぅッ!! 早く優ちゃんの初体験を奪いたいッ!! ……あ。因みにわたしも処女よ。だってわたしの事を便利な道具としか見ない豚どもに、わたしの処女。捧げる訳無いじゃない。処女を捧げるのは初めから、優だけって決めているの。


 この方針は、前世である魔王の頃から変わらない。でも残念だったわね魔王? 初めてを捧げるのは、この身体の持ち主であるわたしよ。

 だから地獄で見ているが良いわ。わたしと優の、愛の共同作業をね?


 と。そんなこんなでわたしと優は乳繰り合いながら、小説を読み進めていった。

 当然。小説を半分も読み進める事は出来なかったが。気が付けば、お昼時になっていたので、わたしたちはそのまま喫茶店でお昼を済ませる事に。


 わたしはホットサンド。優はオムライスを食べた。口元にケチャップを付けながら食べる優は。子供っぽくて可愛いと思った。まる。

 付け加えると。優の口元に付いたケチャップは。わたしが舌で舐め取りました。


 へんたい美味しかったです。はい。





 ***





 お昼を済ませたわたし達は。喫茶店を出て、ブラタ〇リよろしく街中をぶらぶらと練り歩いた。互いに手を繋いで。恋人繋ぎでは無い。プレーンな奴である。わたしは恋人繋ぎでも良いのだけれども。優が恥ずかしがったのでそれは叶わなかった。


 焦ることは無い。近い将来、わたし達は恋人同士になるのだ。そのための種はもう蒔いているのだから。だからわたしは。優に己の事を忘れない様に。ゆっくりと。じっくりと。そしてねっとりと。優の心と体にただ教えてあげればいいだけ。わたしはここに居るよと。ただ、それだけで良い。


 やがてその種は芽吹き、枝葉を伸ばした先に。世界に一つだけの花を咲かせるのだから。家庭菜園ならぬ恋人菜園である。


「あッ! 猫ちゃんだッ! おいでやす~」

「いや何で京都弁なのよ?」


 優は目の前を横切ったキジトラの猫を呼び寄せようと声を上げた。ていうか。おいでやすって。いらっしゃいませって意味じゃなかったかしら? そんな呼びかけで猫が寄って来る訳……あったようね。


「よ~しよしよしよしッ!」


 キジトラは優に顎下を撫でられ、ゴロゴロと喉を鳴らす。気持ち良くなったのか、今度はゴロンとお腹を見せて来た。

 くッ! なんて卑しい生き物なんだッ! 我々の扱いを心得ているものの動きッ! だがしかしッ! わたしはそんなものには決して屈しなどはしないッ! そうッ! 何故ならわたしは、魔王軍総司令官なのだからッ!!


「真緒? 手がワキワキしてるけど?」


 優の手を握っていない方の手が。独立した生き物の様にワキワキしていた。まさかッ! ヒダリーッ!? くッ!? 落ち着けヒダリーッ!!


「猫ちゃん。触りたければ触ればいいのに。……ねぇー?」

「ニャー?」

「ッ!?」


 敵の潜水艦を発見ッ! 駄目だッ! そんな甘えた声で鳴いてもッ! わたしは魔王軍総司令官なんだぞッ!? 容易く屈する訳には行かないのだッ!!


「……」


 ……なでなで。わたしは屈した。可愛いものには勝てないのだ。この世の心理である。ネコチャンカワイイヤッター!


 その後、わたしと優は猫ちゃんニウムを十分に摂取した。


 街ブラを再開したわたし達は。道の脇にひっそりと咲いていた、名前の知らない花を愛でたり。乳繰り合ったり。商店街に入って、色んな店を冷やかしたり。乳繰り合ったり。乳繰り合ったりした。


 何だって? 乳繰り合いすぎ? だって仕方が無いじゃないか。優が可愛いんだもん。しょうがないね。


 と商店街を歩いていたわたしの脚が止まる。手を繋いでいた優が止まったからだ。

 どうしたんだろう? と振り向けば。


「ねぇ。ここで何か買って行かない?」


 優がそう言って来た。目の前には雑貨屋がある。どうしてと問えば。強引にキスをしてきたお詫びだという。そんなの、悪いのはわたしの方なのに……。と自己嫌悪に襲われたわたしは。それならばと、お互いにプレゼントを交換し合うのはどうかと提案した。優はその提案を承諾してくれた。


 こうして、お互いにプレゼントする品を選ぶ為。雑貨屋に足を踏み入れる。何にしようか? 優が好きそうなものは……。


 悩んだ末わたしは。お腹を見せた卑しいポーズをしたキジトラの、スマホのストラップに決めた。


 店を出たわたし達は、そのままの足で商店街を抜け。児童が一人もいない児童公園に来た。気付けば辺りは既に夕暮れを迎えている。もうそんなに時間が経っていたのか。優と一緒に居たからかしら? 時間があっという間に感じるわ。


「真緒。コレ」

「ありがとう。それじゃあ、わたしからはコレを。はい」

「ありがと」


 プレゼントを交換し合う。小さい紙袋を開ければ。中から。星の形をしたストラップが出て来た。大きさからしてスマホに付ける奴ね。でもなんで星?


「その……真緒の苗字には星が入っているでしょ? それに……私にとって真緒は。初めて出来た一番星みたいな存在だから」

「……優」


 わたしのとっての一番星は。優。あなたなんだよ?


「それよりッ! 何で猫なのよ?」

「……あぁ。それはね。優が猫みたいだからよ。例えば。可愛い所とか。ツンツンしている所とか。可愛い所とか。吊り目な所とか。可愛い所とか。可愛いと――」

「あーッ!! 可愛い可愛い五月蝿いッ!! もっとこう……何か他にないワケ?」

「んー? ないわね。だって優は。本当に可愛いんだもん」


 それは。嘘偽りの無い、わたしの本心だ。


「ッ!? …………ありがと。……その。真緒も……可愛い、よ?」

「グハッ!?」


 思わずわたしは左胸を抑えた。優がわたしを可愛いって。可愛いってッ! 何ていう破壊力なんだッ!? 好きな人から可愛いって言われるのはッ!?

 ヤバイよッ! ヤバイよッ! 思わず心の中の出川が出てきてしまう程にヤバイ。


「ちょっと。大丈夫?」

「え、えぇ。大丈夫よ。たかが致命傷ぐらい。問題無いわ」

「いやいやいやッ!? 問題だからねッ!? 致命傷ってもう助からないからねッ!? ……まぁ、そんなにボケれるなら平気ね」


 いえ。大丈夫じゃないです。キュン死しそうなんですよわたし。


「……そう言えば。私達ってまだ、連絡先を交換していなかったわね」


 確かに。言われてみればそうね。わたしと優は互いの連絡先を交換し合う。


 テレレレッテッテッテーー! マオウはユウシャの連絡先を手に入れた。

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