第33話 幼女、見抜く

   ◆◆◆



 攫われた町の人々をそれぞれの家族の元に返し、双子姉妹も無事親御さんのと再会させることができた。

 これにて一件落着。……といけばいいのだが、やれやれそういう訳にはいかんのが現実というものだ。

 俺、レオルド殿、サターナが、憲兵隊隊長室で指揮を執っていたセリカに事の顛末を説明した。

 説明を聞いたセリカは、頭を抑えて深く息を吐いた。



「キメラにするため、罪のない人々を攫うなど……この怒り、どこに向ければいいかわかりません」



 拳を握り締め、怒りの表情を隠そうともしない。

 そんなセリカに、レオルド殿が諭すように話しかけた。



「気持ちはわかる。が、憲兵隊の総隊長であるお主だけは絶対に冷静でいるのじゃ」

「う……はい。心得ております」



 年長者に言われたからか、セリカは目を閉じて深呼吸をし、冷静になる。



「しかし、攫った者が魔族との合成生物……キメラだったとは。ありえるのですか、そんなこと?」

「俺はその手の分野に関してはわからぬが……サターナ、どうなのだ?」



 話もそっちのけで、果実を頬張っているサターナに声を掛ける。



「人間同士のキメラを作るのは、コツを掴めば割とできるらしい。同じ種族だから、魂の構造が似てる。でも別の種族を掛け合わせるのは無理。魂同士が反発して、数秒も生きていれない」

「では、お前の勘違いか?」

「それはない。魂の構造が違うってことは、完全な異物ってこと。私が見間違えるはずない」



 ふむ。サターナの魔法の腕は確かだ。この中で一番、キメラを作る魔法に関しても詳しいし、まず間違いないのだろう。

 サターナの話を聞いたセリカは、頭を抑えて深く嘆息した。



「人攫いの脅威だけでなく、魔族とのキメラ……考えることが多すぎる上に、私もずっとこの町に常駐するわけにはいかんからな。どうするか……」

「それならいい考えがある」



 俺の言葉に、全員の目が俺に向く。

 俺は対面に座るレオルド殿に目を向けると、口を開いた。



「この町の警護、あなたが指揮を執るのはどうだろうか、レオルド殿。いや……元王家直属裏騎士団、、、、団長、レオナルド・エルタニア殿」



 俺とレオナルド殿の視線が交錯する。

 それを聞いていたセリカが、驚愕に目を見開いた。



「う、裏騎士団……!? 表には一切現れず、王国や王家の危機や暗部を秘密裏に解決するとういう、都市伝説の……!?」



 セリカの言う通り。裏騎士団は国の本当の危機の時に動き、王家の敵を誰にも悟られず葬る者たちのことを言う。正確な人数は誰にも把握できておらず、噂では各都市に1人は必ずいるとされている。

 俺も、裏騎士団の知り合いは数人しかいない。ましてや団長なんて、どこで何をしているか見当もつかないが……。



「蜘蛛女、そしてローブの女と戦っている姿を見て、察しました。あの剣技、身のこなし、剣の冴え……あなたが噂の、『殲撃の剣鬼』ですね」



 レオナルド殿の視線が本身を帯び、辺りに緊張感が漂う。

 緊張を察したセリカは喉を鳴らして汗を垂らし、サターナはもくもくとお菓子を食べている。お前は相変わらずマイペースでいいな。

 沈黙すること数秒。レオナルド殿からふっと圧が消え、朗らかな笑顔で自身の禿頭とくとうをぱしんっと叩いた。



「ほっほ。いやー参った。まさかバレるとは思わなんだ。……さすが、『無情の剣聖』殿じゃのう」



 弛緩した空気に、セリカが呼吸を乱して椅子に座った。この程度の圧で疲れるとは、修行が足らんぞ。



「まだまだ未熟ですが、人を見る目は鍛えているつもりですので。……やはり気付いていたのですね、俺が剣聖だと」

「出会った時からもしやとは思っていたがの。魔法を剣技で破壊するという神業を見せられ、確信した」



 レオナルド殿は茶をすすり、息を吐いて目を閉じる。



「それで、レオナルド殿。たまにでいい。この町の警護を頼めないだろうか?」

「わっ、私からもお願いします!」



 セリカが立ち上がり、レオナルド殿に深々とお辞儀をした。

 杖をつき、深く嘆息するレオナルド殿。目を閉じ、黙考しているようだ。



「……儂は老兵。先の時代を無様に生き残った老害じゃが……こんな儂でも、必要としてくれるのは嬉しいのう」

「では……!」

「うむ。微力ながら、使ってくれると有難い。と言っても、儂もいつまで動けるかわからんからな。臨時ということであれば、良いぞ」

「あっ、ありがとうございます! ありがとうございます!!」



 心配事が一つ無くなって嬉しいのか、セリカは何度もお辞儀を繰り返す。

 俺も、この人がこの町を守ってくれるなら、嬉しい。安心して旅に出ることができる。



「ではまずは、憲兵たちの再指導からじゃのう。前から思っておったが、兵士というには憲兵の練度が低すぎる。儂のやり方でやらせてもらうが……良いですかな、総隊長殿?」

「もちろんです! 死ぬまで追い込んでやってください!」

「ほっほ。久々に腕がなるわい」



 殺すなよ? 絶対に殺すなよ??

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