第30話 幼女、見出す

   ◆◆◆



 ふむ。あっちの蜘蛛女は終わったか。ウゼーの気配がないことから、そちらも終わったのだろう。さすが、レオルド殿とサターナだ。

 さて……あとはこちらのみだな。

 空中で剣と腕を交錯させ、互いの威力で後方に吹き飛ぶ。

 奴の力は相当なものだ。獣人の腕力と推進力を十分に使って、ようやく互角……いや、僅かに圧されるか。



「あっはー☆ どうしますー? ぶち殺しちゃいます~?」



 ローブの女が下手な煽りを入れてくる。面倒だな……やはりあいつを殺すか。

 剣を鞘に収め、腰を沈める。地面を蹴り一瞬で超加速すると、女へと迫った。



「死ね」



 鞘の中で刃を加速させ、抜剣。が、刃が女に届く直前、異形人間が高速で割り込むと、双子姉妹の顔を見せて来た。



『おねぇ、ぢゃ……』

『あしょぼぉ』

「――――」



 ピタッ。思わず、止めてしまった。

 直後、異形人間の4本の巨腕が唸り襲い掛かってくる。

 辛うじて剣の腹で受けて後方に跳躍し、威力をいなすが、それでも余りある威力にレオルド殿たちの所まで吹き飛ばされた。

 サターナが空気のクッションで衝撃を吸収してくれたおかげで、ダメージもなく着地する。



「助かった。ありがとう、サターナ」

「うん。けど、どうしたの? レビアンなら、あのキメラくらい倒せると思うけど」

「……サターナの疑問は尤もだ。俺も、制限がなければあれくらいは一太刀で屠れる」



 力と速さだけが戦いではない。いくら硬い相手でも、斬ろうと思えばいくらでも斬る手段はある。

 が、俺がやろうとしていることをするには、余りにも強すぎる。負けはしないが、勝つこともできない。まさに千日手の状態だ。

 異形人間は肩で息をして、こちらの様子を窺っている。

 それを見たレオルド殿が、ぴくりと眉を上げた。



「レビアン殿。奴はまさか……」

「気付きましたか、レオルド殿。……奴は、オコロの町から連れ去られた人たちで作られたキメラです」



 俺の言葉に、2人は目を見開く。レオルド殿は歯を食いしばり、サターナも珍しく負の感情の籠った目を女に向けた。



「くっ、間に合わなかったか……!」

「酷い……」



 2人から殺意を向けられるも、女はぞくぞくとした顔で自分の体を抱き締める。



「あぁ、いいっ。いいですねぇ。素晴らしいですねぇ♡ やはり人間の負の感情ほど濃密なものはありません。言うなれば熟れた果実を砕き、潰し、裏ごし、煮詰めた甘い甘い感情……ふふふっ、さいっこうですね♪」



 いちいち、こちらの神経を逆撫でしないと気が済まないのか、この女は。



「2人とも、落ち着け。……まだ、手はある」

「なっ……本当か……!?」

「信じられない……」



 俺の言葉に、2人はピクっと反応する。女も、何を言っているのかわからないというように肩を竦め、首を横に振った。



「馬鹿ですねぇ。キメラとなった人間を相手に、まだ希望があるとでも?」

「馬鹿は貴様だ。前提として、そのキメラはどうやって作った? とても人間業ではない。かといって、人外の力で生み出されたものとも考えづらい。……魔法で作られたものではないか?」



 俺の言葉に、女は何も言わない。代わりに、サターナが「あ」と声を漏らした。



「ある。キメラ……というより、生物を創造する魔法が」

「何? それは……良いものなのか?」とレオルド殿が訝しむ。

「絶対にダメ。成功率ゼロ。魔法の聖地アガードでも、特級禁術に指定されている……生体創生魔法」



 サターナのおかげで、裏取りができた。さすが魔法に精通し、数百年を生きるエルフなだけあり物知りだな。

 剣を構え、剣先を女と異形人間に向ける。



「あの顔にはそれぞれの性格と感情がある。つまり、中で魂は混ざっていない。加えて、異なる生物の肉体をひとつに纏めるには、それぞれを繋ぎとめる核となる魔法が存在するはず。それを断てば、肉体の分裂と同時に魂も解放されるはずだ」



 俺の推理に、女は口を噤む。

 普通は魔法を破壊することは、同じく魔法を使わないと不可能。物理的に魔法の破壊はできない。

 だが女は知っている。……知ってしまった。俺が、物理的に魔法を斬ることができる剣士だと。



「レビアン、行ける?」

「正直、厳しい。……あのキメラとタイマンでやらせてくれ。女がいては集中できん」

「わかった」

「儂も手を貸そう」



 ……ありがとう、2人とも。

 さあ……往くぞ。

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