第28話 幼女、斬る

 俺の言葉に熱はない。

 俺の動きに無駄はない。

 俺の気に揺らぎはない。

 相手が誰であろうと、相手が何をしようと、淡々と斬り伏せるのみ。

 それを感じ取ったのか、キメラにされた人々の顔が苦しみと悲しみに歪み、涙を流した。



『ぉねー……ぢゃ、ん……』

『ぁづぃ……ぃだぃ……』

「……ああ、わかっておる」



 剣を振るい、脚に力を込め……蹴る。

 岩石に足跡がつくほどの爆発的な脚力で、女に迫った。

 が、女が指を弾くと、異形人間が高速で動き俺の行く手を阻んだ。

 寸前で回避して距離を取るが、相当な腕力で岩石の地面が深く抉れた。



「ふふふ。ダメダメ、私を殺したければ、まずはこの子を切り刻まないと♡」

『お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛ッッッ!!!!』



 超高速で無造作に腕を振るってくる異形人間の猛攻を受け流す。

 ふむ……人面ムカデより遥かに強いな。人型だからか、隙を突く攻撃が多い。

 それに加え。



「フッ……!」



 ──ジャリジャリジャリッッッ!!

 腕を斬ろうとするが、皮膚が異様に硬く弾かれてしまった。

 やはり強化されているか。



「アハハハハ! 剣聖様って意外とそんなもんなんですねぇ〜♪ ほらほらほら、このままじゃ殺されちゃいますよぉ??」

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ──!!!!』



 次の瞬間、異形人間の体に埋められたいくつもの口が大きく開かれ、体の奥に様々な色の光が灯ると──炎・水・風・雷・岩の魔法が放たれた。

 絶え間なく放たれる魔法を紙一重で避け、一旦距離を取る。



「やはり魔法も使えるか」

「当たり前じゃないですかぁ。ちゃーんと魔改造してありますよ☆ それより、喋ってる余裕なんてあるんですか〜?」



 女が指を弾くと、魔法の威力と速さが上がり、数も多くなった。

 凄まじいな。こんなに多くの魔法攻撃を受けたとは、先の大戦以来か。



「アッハー! 命中するのも時間の問題ですねぇ。まだまだ行きますよー!」



 ……ふっ。時間の問題、か。



「女。俺がなぜ、剣聖と呼ばれるか知っておるか?」

「……ハァ? 知るわけありませんよ。興味もないですしぃ」



 違いない。が、すぐに思い知ることになる。……剣聖が、剣聖たる所以を。


 構えていた剣を下げ、自然体で迫り来る魔法を見つめる。

 1秒間に数十もの魔法が迫るが、問題ない。

 少しばかり息を吸い……止める。

 直後……情報が選別され、世界から色が消えた。

 迫る魔法のスピードが極端に遅くなり、周囲の雑音も消える。

 脳で処理されるのは、色褪せた世界で目の前に迫る無数の魔法のみ。

 元から使える技の1つだが、なるほど……獣人化したことで、より高度に使えるようになったようだ。


 どれ……斬るか。


 剣を再び握り締める。

 迫る魔法に向け剣を走らせ……斬った、、、

 素早く斬る。無駄なく斬る。斬ったら斬る。

 斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。



「……………………は????」

『が……あ……??』

「む? もう終わりか?」



 いつの間にか、魔法が止んでいた。目の前で起こったことが信じられないというように、女も異形人間も口を開けて呆けている。



「あ……有り得ないッ、魔法をただの剣で斬るなんて……! まさか、その剣に何か秘密が……!?」

「いや、ただの剣だ」

「そんなわけないでしょう! 魔法とは神の御業! この世の神秘! 魔法は魔法でないと防げない、撃ち落とせない、斬れない! 世界の常識を知らないんですか!?」



 やれやれ。若者の癖に、随分と思考が硬いな。もっと柔軟になれんのか。



「剣聖とは、全ての剣士の頂きに坐する者。剣技を磨き、剣撃を極め、剣気を高めた、『最強』に与えられし称号。魔法だろうと、神だろうと……剣聖の俺に、斬れぬものはない」



 剣先を女に向け、構える。



「跪き、懺悔し、大人しく死ね。……頭が高いぞ」

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