第27話 幼女、滾る

   ◆◆◆



 長い、長い螺旋階段だ。湿っぽいしかび臭い。廃れてからどれほどの月日が経ったのだろうか。

 だが、この下に攫われた者どもがいるのは間違いない。が……攫われた者以外に、悪意を持った気配も感じる。俺が来るのを待ち構えているようだ。気持ち悪い。

 だがここで脚を止めるわけにはいかん。待っておれ、子供たちよ。


 階段を下り切り、通路を走ると……途中で人工の通路ではなく、岩石を採掘したような洞窟へと変わった。だが壁に打ち付けられているランタンは、煌々と光りを灯している。

 そこから走ること数分。途端に道が開け、地下に開けられた巨大な空間に出た。

 円形状で、天井までかなり高い。恐らく、さっきの螺旋階段がまるまる入るくらいの巨大さだ。

 ……攫われた者がどこにもいないな。気配は感じるし、さっきまでここにいた匂いはあるが。

 一瞬で視線を巡らせると、部屋の中央にいるローブ姿の女に目を向けた。フードを深く被り、顔は見えないが、匂いと重心の位置で女だとわかる。

 女は口元を手で隠し、くすくすと肩で笑った。



「へ~。噂には聞いていましたけど、本当に小さい女の子なんですね、『無情の剣聖』さん♪」



 ……俺のことを知っている、のか? まあ、偽名を使わずレビアンと名乗っているのだ。どこかで察する者がいてもおかしくはない。

 それに、俺のことを知っているなら話は早い。

 剣を抜き、女に剣先を向ける。



「おい、貴様。攫った者をどこにやった」

「さあ、あっちかな? こっちかも? それとも埋めちゃったかな~?」



 ゆらゆら揺れながら、こっちの神経を逆なでしてくる声を発する。

 だが、相手を間違ったな。俺にその程度の煽りは通用しない。

 沈黙して睨み続けると、女は肩を竦めてやれやれと首を横に振った。



「はぁ~。『無情の剣聖』様らしく、本当に感情が表に出ませんね。生きててつまらなくないですか、それ?」



 無駄口の多い小娘だ。

 剣を握り、一瞬で女に肉薄。女の体を袈裟に斬ろうとした、次の瞬間。



(殺気ッ……?)



 頭上から感じた殺気を感じ取り、すぐさま距離を取る。直後、俺のいた場所に何かが落ちて来た。

 まず、一言で表すと、異形。

 肌の色は青く、体長3メートルほどの人型で、脚は2本の二足歩行。巨腕が4本。細い腕が6本無造作に生え、頭も前後左右に4つ。体のあちこちにも顔が埋め込まれている。

 顔のそれぞれに個性があり、男、女、子供、老人……様々な顔がある。



「それもキメラか」

「大正解♪ さっき作ったんだけど、いい出来栄えだと思いませんか?」



 なるほど。人面ムカデも、蜘蛛女も、こいつの仕業か。

 ……待て。さっき作った……?



「小娘。ここに連れて来られた者たちの中に、双子の姉妹がいただろう」

「え? あー、いたようないなかったような。知りませんね。私、自分以外どうでもいいって思うタイプなんで。あ、でも……」



 女は指を弾くと、異形人間の向きを変えさせ、背を向けさせ……背中に埋まっている顔を見せた。



「それってぇ、こういう子だったりしますぅ?♡」

『ぉ……ね、ちゃ……』

『おはな……あぞ、ぼ……』



 涙を流す双子の顔に、目を見開いた。

 嫌な予感が……当たった。



「ふふふふふ、あはははははははははははは♪ どうです? どうでしょう? どう思います? ねえ、助けに来た人がこんなことになっていて、どんな気持ちですかぁ??」



 女が狂ったように笑う。本当に、神経を逆なでするのが上手い女だ。



「どう思う、か。──特に、何も」



 …………。



「はぁ??」



 思ったリアクションがなくて苛立ったのか、女は歯を剥き出しにした。

 こいつは俺を『無情の剣聖』と知って煽ってきているのだろうが、甘いな。俺のことを何もわかっていない。



「所詮、あの町にいたのはここ数日のみ。その子らも、滞在中に懐いて来た子らにすぎん」

「ふーん……ドライなんですね。つまんないの」



 女は異形人間を蹴飛ばし、地面に唾を吐く。どうやら俺の心を揺さぶろうという魂胆だったらしい。



「つまらなくて悪かったな。こういう性分なのだ。……ただ、まあ……」



 剣先を女に向け、眼光鋭く睨みつける。



「──少し、滾る」

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