第26話 老兵とエルフ、協力す

   ◆◆◆



 レビアンを送り出した2人が、蜘蛛女とウゼーと対峙する。

 そうしている間にも、蜘蛛女の触手は再生し、レオルドとサターナに視線を向けた。



「町のジジイとエルフの小娘が……私たちに勝てると思っているのでェすか?」



 今の攻撃を見てもなお、ウゼーは髭を撫でて2人を挑発する。



「ジジイになろうと、貴様のような外道には負けるつもりはないわい」

「私、あなたより年上。小娘じゃない。でも……若者扱いは、悪くないね」

「これこれ、しっかりせい。──ッ」



 直後。2人を取り囲むように、蜘蛛女の触手がうねりながら伸びてくる。

 素早く不規則に動く触手を、レオルドは軽い身のこなしで切り刻んでいく。

 対してサターナは、浮遊魔法を駆使して空中を翔ながら、風の太刀で触手を近付けさせない。



「チッ、ちょこまかとォ……!」



 苛立ちの表情を見せたウゼーが、懐から布を取り出す。

 黒い幾何学模様が刻まれた布。それをレオルドに向けると赤く発光する。



「むっ」

「レオルド……!」



 サターナがレオルドの前に躍り出ると、防御魔法を展開。

 次の瞬間、2人の周囲を焼く灼熱の炎が放たれ、聖堂内を溶かした。

 焦がすではなく、溶かす。超高温により、辺りが溶解し焦土と化す。



「今のは炎系の高等魔法、《インフェルノ》。当たったら即死」

「なるほど。魔法陣を刻み込んだ布、魔法布まほうふか」

「他にもありそう。私がちょろ髭をやる」

「頼むぞ、お嬢ちゃん」



 防御魔法を解き、同時にレオルドが蜘蛛女へ。サターナがウゼーへ向かう。



「ヒヒッ! ここからでェすよォ!」



 ウゼーが両腰に着けているポーチに手を突っ込むと、数枚の魔法布を鷲掴みにして取り出す。

 魔法布が様々な色に発光し、炎、水、雷の魔法となって2人を襲った。



「《テンペスト》」



 それに対し、サターナが巨大な暴嵐の魔法を放つ。互いの魔法が拮抗して、聖堂内を荒らした。古びた廃墟だからか、今にも天井が崩れ落ちそうだ。



「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!!」



 同時に蜘蛛女が絶叫して、触手を鞭のようにしならせて縦横無尽に伸ばす。

 レオルドが剣を構え、向かってくる触手を斬り飛ばしていった。



「ほっほっほ。まだまだ儂も捨てたもんじゃないのぅ」

「小癪な……やれ、キメラ!」



 ウゼーが蜘蛛女に命令を出す。

 蜘蛛女の目が怪しく光ると、触手を使って宙に跳び、おしりの先端から白い糸を飛ばした。

 辛うじて回避するレオルドとサターナ。寸前でサターナが防御魔法を展開し、防ぐことができたが、蜘蛛女はまだまだ糸を出し続ける。

 それぞれの糸が折り重なり、床、天井、壁に張り付く。

 逃げ場がどこにもない、聖堂内全体に張り巡らされた、蜘蛛の巣となった。

 蜘蛛女が蜘蛛の巣に乗り、高速で2人に向かってくる。

 触手を束にして螺旋状の槍にし、防御魔法へ振り下ろすと、一瞬だけ拮抗したが、直ぐに防御魔法にヒビが入る。

 破られる。そう直感したレオルドが、サターナの手を引いて回避。その直後に防御魔法が破壊された。



「やりおる」

「多分、全身に魔法耐性があるんだと思う。物理攻撃で防御魔法は破れないから」

「キメラなだけあり、いろいろ掛け合わせているというわけか。反吐が出るわい」



 なんとか触手を回避するが、これだけ蜘蛛の糸が張り巡らされていると邪魔でしょうがない。

 レオルドが剣を持つ手に力を入れ、剣先を奔らせた。



「フッ……!!」



 ──ジャリジャリジャリッ!!

 手応えはあるが思いの外硬く、切断することができない。



「やはり、硬いな」

「ただでさえ硬い上に、キメラに合成されたことで更に硬くなってるはず。普通の攻撃じゃ切れない」

「では魔法は?」

「……わからない。これだけ硬いと、魔法耐性も高そう」



 2人の顔に緊張の色が浮かぶ。

 が、絶望している暇はない。ここで諦めるほど、レオルドは伊達に死線を潜ってはいないのだ。



「奴は引きつける。お嬢ちゃん、あの外道を頼むぞ」

「うん。よろしく」



「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■──!!!!」



 再び、蜘蛛女が飛び掛ってくる。

 同時にレオルドが蜘蛛女に斬り掛かると、サターナはウゼーに向かい飛翔した。

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