第25話 幼女、対峙する

 なんとか尻尾を離させ、サターナに魔法トラップを解除してもらいつつ奥に進む。おかげでスムーズに進むことができた。

 だが……奥に行くに連れて、妙な気配が大きくなる。それに、嫌な予感も。



「着いた」



 俺たちの前に立ちはだかる、高い高い壁のような扉。この向こうに、妙な気配の正体が……。



「先に行く。2人は要警戒を」

「わかった」

「うむ」



 剣を抜いて肩に担ぎ、身を捻る。

 捻る体に力を溜め、溜め、溜め……爆発的に解放。同時に剣先が宙を翔け、亜音速の剣撃となり石門を斜めに両断。同時に、3人で聖堂に飛び込んだ。

 ステンドグラスが陽光を発散して、聖堂内を照らしている。

 今にも崩れ落ちそうな内部と相まって、この世の破滅を思わせる幻想的な光景を作っていた。

 が……その中に、異質の存在が2つ。

 その中の1人が、三日月状の髭を撫でて気色悪い笑みを見せた。



「キヒッ。お待ちしてましたァよ、レビアンさァん」

「貴様は……ウゼーか。やはりいたか」



 気配から、こいつがいるのはわかっていた。が……。



「なんだ、後ろのそいつは」



 上半身は女性だが、下半身が蜘蛛となっている。両腕は各3本、合計6本の触手となり、苦しみからか緑色の涙を流していた。

 形からして異形。魔物でもないそいつは、涙を流しながら身悶えている。



「もう隠す必要もあァりませんねェ。あのムカデと同じ、キメラですよォ。キヒヒヒッ」

「キメラ……そうか。やはり貴様が裏で糸を引いていたか」



 さっきの人攫いがここに来たということは、こいつが人攫いと繋がっていることは間違いない。

 憲兵隊に入り、オコロの町の班長にまで上り詰め、市民からの人望と信頼を集めているのにも関わらず、裏切り、人攫いとキメラの創造に加担するとは……。



「クズめ」

「人聞きの悪い……これはビジネスでェすよ」

「……ビジネス、だと?」

「おっと。守秘義務に抵触しますので、この辺で」



 ふむ。どんなビジネスかは知らぬが……話さぬなら、話したくなるまでいたぶるまでよ。



「待て、レビアン殿」



 飛び掛かろうとしたその時、レオルド殿が俺の肩を掴んで止めた。



「小童。攫った子たちをどこへやった」

「ん〜……? さあ、どォこでしょォねェ〜。私にはさァ〜っぱりです」



 髭を撫でて胸をそびやかすウゼーが、「で・す・が」と続ける。



「キヒッ。運が良ければ、まだ混ざってないかもしれませんねェ〜」



 ウゼーの挑発とも言える言葉に、レオルド殿から殺気が迸る。

 サターナもこの件に関してはほぼ関係ないが、奴の気持ち悪さに眉をしかめ、気を乱していた。



「レビアン殿。ここは儂と嬢ちゃんに任せて、攫われた人々を探すのだ」

「うん。私、あいつ嫌い」

「……わかりました。頼みます」



 直感だが、奴は人面ムカデより強い。が、任せてくれと言われたのだ。2人の意思を尊重しよう。

 音の反響。空気の流れ。気配。嗅覚。それらすべてを使い、攫われた人たちの居場所を突き止める。


 ──なるほど。奥の女神像の下か。


 探知完了。行くぞ。

 剣を鞘に収め、蜘蛛女とウゼーに向かい走り出す。



「はいそうですかァと、通すわけないでしょう!!」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■──ッッッ!!!!」



 悲痛な悲鳴にも似た咆哮を上げた蜘蛛女の触手が、俺に向かってくる。

 次の瞬間。レオルド殿の飛ぶ斬撃と、サターナの風の太刀が触手を斬り飛ばした。



「貴様らの相手は儂らだと」

「言っているでしょう」



 ふっ。さすが、頼りになる。

 緑色の血を吹き出す蜘蛛女の横を抜け、女神像に近づく。

 悪いが、信心深い人生を送ってきたわけではないのでな。……斬り通るぞ、神。

 抜剣。同時に、女神像を断ち斬る。

 探知通り、女神像の下に階段が続いている。この下からはより嫌な気配がするが……関係ない。助けるのみ。

 待っておれ。必ず助ける──。

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