第23話 幼女、捜す

「いなくなってしまったと言うのは、迷子ということか?」

「お、恐らく……2人がくもあめを食べたいと言って、買っている数秒の間にいなくなってしまって……!」



 ふむ。どれだけ人で混みあっていようが、たった数秒の間にいなくなるとは思えんな。あの2人が、両親に黙ってどこかに行くとも考えづらい。

 彼らの言葉を元に考えていると、レオルド殿が話しかけた。



「憲兵隊には相談したかの?」

「はい。捜してもらっています」



 といっても、この町にいる憲兵隊全員を動かせるほどの余裕はないだろう。よくて数人のはずだ。

 オコロの町は意外と広い。祭りでごった返している中、捜すのは容易ではないだろう。



「わかった、俺も捜そう」

「あ、ありがとうございますっ、レビアンさん……!」



 不安そうな顔の2人が頭を下げる。それもそうか。人攫い噂や、ウゼー殿のことも聞いているだろう。その気持ちもわかる。



「大丈夫だ。必ず見つけ出す」



 2人の肩を叩き、一先ず町の中心である広場と大通りへ向かった。

 双子姉妹は大通りではぐれてしまったと聞く。なら、匂いもまだ残っているはずだ。

 このごった返す人と、芳ばしい屋台の匂いの中、2人の匂いを辿れるかは賭けだが……やらないよりマシだろう。

 地面に這いつくばり、鼻先を地面につける。

 集中しろ。感覚を研ぎ澄ませ。

 目を閉じ、耳を塞ぎ、ただ嗅覚のみに意識を集中する。


 ――わかる。あの双子姉妹の匂いが、わかる。


 この町に住んでいるから、いたるところから匂いが漂ってくるが……それとは違う、明確に新しい匂いを感じ取った。

 これは、双子姉妹と両親のもの。大通りを歩いている。

 そしてくもあめ屋の前で止まり……む? 別の者の匂い……知らない匂いだな。双子姉妹と共に歩いている……しかもかなりのスピードだ。町の外に向かっているようだが、まさかこれは……。

 匂いを辿って、町の外に向かう。当然だが、町の外は人気がない。にも拘わらず、森の奥に妙な気配を強く感じた。しかも双子姉妹の匂いも、そっちに向かっている。



「これは……?」

「やあ、レビアン」



 と、大樹の上から、小鳥のさえずりのような、少女の声が聞こえて来た。

 見上げると、出会ったときのように、木の枝に腰を掛けているサターナが俺を見下ろしている。



「サターナ、どうしてここに?」

「祭りの空気をここで感じてたんだよ」



 それなら、中に入って祭りに参加すれば良いものを。って、そういうわけにもいかんか。エルフは自然と共存する者。人間の住む場所には、滅多なことがない限り立ち入ることはないからな。



「それより、急いでるみたいだけどどうしたの?」

「そうだ。サターナ、ずっとここにいたのであろう? 向こうの方に、誰か向かわなかったか?」

「見たよ。大きな袋を担いで走っていった。もう6人くらいいたかな」



 大きな袋を担いで……? なるほど、その中に双子姉妹がいるのか。

 しかも6人ってことは、人攫いの組織が祭りに乗じて人間を攫っていると見て間違いなさそうだ。

 これだけの人間がいるのだ。いかに警戒してようと、怪しい人物を取り締まるのは不可能だろう。



「もしかして、急いでる?」

「ああ。すまぬ、サターナ。助かった」

「……私も行くよ」



 何?

 まさかの申し出に目を見開くと、サターナは木の上から俺の目の前に下りて来た。



「良いのか?」

「うん。暇だし、ちょっとあいつらからは悪意しか感じなかったから」

「助かる。ありがとう」



 魔法の力は偉大だ。しかもそれがエルフ族のものとなれば、人間が持つものとはかけ離れた威力を見せる。

 サターナを伴って森の奥に入ろうとした、その時。町からレオルド殿が出て来た。



「おお、いたいた。レビアン殿」

「レオルド殿。どうしてここが?」

「お主の気配を追ってきたのだ。なかなかに強大だからの、お主の気は。……どうやら、森の奥にいるらしいな」

「はい。間違いありません」



 レオルド殿も気配を感じているのか、俺と同じ方角を見ると……急激に、レオルド殿の気配が大きくなり、揺らいだ。



「国の宝を狙う、腐れ外道どもが……許さん。儂も行くぞ」

「……わかりました。行きましょう」



 俺はいつも通りの超スピードで森に入ると、レオルド殿も負けず劣らずの速さで後に続く。サターナも、魔法で飛翔し木々を縫うようについて来た。

 レオルド殿の言う通りだ。子は国の宝。それを狙う輩は、どんな理由があろうと決して許さんぞ――。

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