第21話 幼女、モテる
町に戻ると、町がにわかに活気づいていた。いつも活気はあるが、それとは違うものを感じる。
大通りの左右には露店が立ち並び、商人が忙しなく行き来していた。
「これは……?」
「あっ、レビアンちゃん、いたー」
「む? おお、双子姉妹」
今日も今日とて仲のいい姉妹が、手を繋いで走ってきた。露店で買ったものか、手には既に飴が握られている。
「なあ、今日は祭りか?」
「そーだよー」
「神様にほーじょーをお願いするお祭りなんだってー」
豊穣祭ということか。なるほど、どおりで賑わっているはずだ。
双子姉妹が左右から俺の腕に抱きつき、大通りを進みながらあれこれと説明してくれる。
要約すると、土地神に祈りや供え物を捧げる祭りなのだそうだ。そうすることで1年間の感謝と、これからの1年の豊穣を祈願するらしい。
「土地神とはなんだ?」
「「わかんない!」」
「そうかそうか、わからんか」
元気な2人の頭を撫でると、むふーと嬉しそうに笑った。
うむうむ。子供の笑顔は国の宝だなぁ。
「これからね、パパとママとお祭りまわるんだー」
「いっぱいいっぱい、ご飯たべる!」
「はは。うむ、たくさん食べて大きくなるのだぞ」
「「あーい!」」
再び手を繋ぎ、走り去っていく2人を見送る。
そうしている間にも祭りの準備は進んでいき、人通りがより激しくなる。
どうやら別の村や町からも、観光客や商人が来ているらしい。昔はこのような祭りは興味なかったから、あることすら知らなんだ。
「……良いな、こういう雰囲気も」
見渡すと、憲兵隊も警備として巡回している。セリカも、どこかで指揮を執っているのだろうか。
どれ、珍しく俺も時間はある。祭りの雰囲気とやらを味わわせてもらおう。
メインの祭りは大通りらしいが、小道でも小さな露店や屋台が立ち並んでいる。町全体がお祭り騒ぎで、時間を追うごとに人が増えていく。
町に活気があるのは良いことだ。俺ら老兵が守った世界は、間違いではなかったと思わせてくれるな。
町並みを横目に大通りを歩いていると、こっちに向かって手を振ってくる御仁がいた。
「おーい、レビアンちゃん!」
「ん? おー、八百屋の。どうしたのだ?」
「どうしたじゃないよ。1人かい?」
「うむ。俺はいつも1人だ」
「……寂しいこと言うんじゃないよ」
別に寂しくはないのだが。
八百屋の御仁は目尻に涙を溜めると、露店として出していた串バナナを差し出してきた。
「ほら、これ持ってきな」
「なら金を……」
「いいっていいって! 日頃、助けてくれるお礼よぅ! それにレビアンちゃん、もうすぐこの町を出るってぇ言うじゃねぇか。ほんの餞別代わりよ!」
「……そうか。なら、遠慮なくいただこう」
串バナナを貰い、八百屋の御仁と別れる。
が、それが間違いだった。
「おいおいレビアンちゃん! それならウチの串焼きも持っていきな!」
「私んとこのフルーツ盛り合わせ、最高よ!」
「喉渇くだろ! このお茶も持ってきな!」
「こっちの鳥揚げも!」
「うちのくもあめも!」
「1番人気のドラゴンの仮面を!」
あれよあれよという間に手渡される飯やおもちゃの数々。
いつの間にか俺の両手はいっぱいになり、頭にはドラゴンの仮面を斜め掛けに被らされていた。こんなに食えぬぞ、俺。
広場の真ん中で途方に暮れる。
と、その時。
「あ、お師匠様」
「え? あら、本当」
「げ」
並んで歩いていたリシダとセリカの2人と、目が合ってしまった。
思わず仮面で顔を隠し、背を向ける。
が、当然そんなもので隠し通せるはずもなく、2人が近付いてきた。
「……違うのだ」
「何も言っていませんよ、お師匠様」
と言いつつ、目が笑っているぞ、セリカ。
「それにしても……」
「……おい、言うなよ。それ以上言うなよ」
リシダが下から上まで、たっぷり舐めるように見つめ、そして……。
「……こうして見ると、ガチ幼女ですね。ぷっ」
「たたっ斬るぞッ……!」
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