Sid.25 初めての継母と箱根一泊旅行
家に帰ると絢佳さんから「準備しておいてね」と言われ自室に行き服やら下着やら着替えを用意し、バッグに適当に詰め込んでおく。
一泊だから一回分の着替えがあればいい。それと暑いから汗を拭くタオルだな。
それ以外に必要なものは何だろう。スマホくらいか。
ベッドに腰掛けスマホで箱根を調べてみる。
箱根フリーパスなんてのがあるのか。二日間か三日間有効なもので、チケットひとつで箱根を周遊できるんだな。
大涌谷や芦ノ湖を見て回って温泉で、のんびりするのだろうか。
箱根神社で合格祈願もありか。ご利益があるかどうか知らんけど。
いろいろ見ていると夕飯になりダイニングへ。
テーブルを前に腰を下ろすと「明日だけどね、八時十四分の電車で行くから」だそうだ。途中駅で特急に乗り換え湯本まで。そこから登山鉄道で強羅に向かうと言う。
宿泊先は芦ノ湖畔にあるホテルだそうで。すでに予約も取ってあるとか。
箱根フリーパスも渡された。
「なんか、手際いいですね」
「急な話だったから急いで手配したの」
まあ、俺に頼まれても要領を得ないし。そこは絢佳さんがやった方が早いよな。
いずれは俺がプランを組んだり手配すればいい。今は子ども特権でお任せ。
俺の隣に座るションベンガキの渋面。俺に母親を取られたとか思ってんだろうな。しかも、ばるんばるんを凝視するような変態とか。襲われないかなんて、余計な心配をしてそうだ。
無いからな。幾ら俺でも性犯罪者になる気は無い。
食事が済んで部屋に戻り家庭教師が来るのを待つ。
少しするとドアがノックされ数学の先生が来た。俺を見て「なんか浮かれてそうだね」とか言ってるし。
「明日は出掛けるんで」
「へえ。旅行? どこ?」
「箱根です」
「なんか、凄い近場だね」
絢佳さんと一緒なら場所なんてどこでもいい。
「カナダ旅行が潰れたんで息抜きってことです」
「どうせ行くならカナダがいいなあ」
「息抜きの温泉ですから」
「そうかあ。俺も温泉入りたいな」
やっぱり雑談の多い先生だ。
それでも授業は理解が及ぶまで反復指導だ。厳しくと要望したことで、一旦始まれば徹底的に叩き込まれる。
だが、すぐ気が抜けるようで。
「箱根って家族みんなで?」
「いえ。俺と母だけで」
「そうか。お母さんのおっぱいに甘えるのか」
「いやいや、違いますって」
照れるなと。立派すぎるおっぱいに甘えられるなら、自分も思いっきり甘えたいなんて、この先生も煩悩が多いな。
「温泉は一緒に入るの? 背中流してとか」
「だから、母親ですよ」
「いいじゃないか。血の繋がりは無いんだし」
「そうですけど」
羨ましい、とか言ってるし。年齢に制限があるんじゃなかったのか。
二十代後半くらいがいいって言ってた癖に、結局三十半ばでも構わないってことだ。
まあでも魅力あるよな。年齢を感じさせない見た目だし。しかも、あのばるんばるんは最早凶器だ。あれに迫られたら太刀打ちできないだろう。
期待したい。けど絢佳さんは明確に線引きしてるだろうし、あくまで俺は息子扱いだろうからな。決して「男」ではない。
授業を終えると「まあ、楽しんできなよ。気分転換をすれば、後々の効率も上がるからね」だそうだ。
ついでに「今まで母親の愛情を受けられなかったんだから、そこはたっぷり甘えさせてもらえばいい」だって。
「おっぱい吸えば頭も冴えるよ。じゃ、また」
訳分からん。きっと経験則で語ってるんだろうけど、俺には経験が無いからな。
試したいけど無理なこともある。
数学の先生を見送りティーセットを持ってキッチンへ。絢佳さんから「数学の先生とはよく話するの?」と聞かれた。
「たぶん家庭教師の中で一番馴染みやすいかも」
「ちょっと玄関先の話が聞こえたから」
聞こえてたのか。じゃあ、あれか。おっぱい吸えなんてのも。俺が期待してるみたいに思われてもな。期待するより無理と理解してるが、まさか話を聞いて吸わせてくれるとか。
無いな。
「明日に備えて早く寝ようね」
「あ、うん」
「それとね、部屋は一緒だから」
親子ってことで同室で予約を取ってるようだ。だが、絢佳さんと一緒に寝ていて、俺は平静を保てるのかどうか。
「一緒ってベッドはひとつじゃ無いですよね?」
「ツインだけどダブルが良かった?」
ダブル希望と言いたいけど。同じベッドじゃ何があるか分からんし。
絢佳さんのばるんばるんを堪能……は無理だよなあ。それでも絢佳さんと一緒。なんか嬉しいぞ。どうせだから何か間違いで、いろいろあったり。
ぜひ、ばるんばるんを全開にして欲しいなんて。
「あ、いえ」
「じゃあ、明日は早いからね」
「明日に備えてすぐ寝ます」
「そうね。じゃあ、おやすみさない」
妄想が表情に出てたかもしれん。
少し目を丸くした感じだったし、俺の下心を見透かされてたり。だがな、これが喜ばずにいられるかっての。俺のすぐ側でばるんばるんが寝息を立ててる。凄い状況じゃないか。
あ、いかん。今夜は眠れないかも。
まあ、そうなるよな。ベッドに潜り込んでも興奮状態で、一睡もできず夜が明けてしまった。時刻は六時半。
くっそ眠い。
だがな、今日は眠いなんて言っていられない。絢佳さんとの初デート、じゃなくて旅行だからな。夜にはお愉しみも待っていることだろう。ゆえに、全身に気合を入れ起床し着替えを済ませる。
二階の洗面所が使える状態になり、顔を洗って頬を両手で叩く。
うん、気合が入った。
ダイニングに行くと「朝ご飯食べて少ししたら出るから」と言って、朝食を用意する絢佳さんだ。
今日は一段と輝いて見えるな。いつも輝いてるけど。昨日は親父も帰宅してないし、行為は無かったと思うが。
椅子に腰掛けるとションベンガキが来て、間隔を空けて腰掛けてるし。相変わらず俺からは距離を取る。まあ、永久にそうしていればいい。互いに相容れることは無いだろうからな。
朝食を終えると片付けを済ませる絢佳さんだ。ついでにションベンガキに「今夜と明日の朝は用意してあるから」と言ってる。事前に用意していたのか。
言われて苦虫を噛み潰したような表情してやがる。俺には一切視線を向けず、文句ありありって感じで絢佳さんを見てるし。俺に気を使うなら自分に使えってか。本来の娘は自分だからと。
そう思う気持ちは已む無しとしても、法律上の家族になったからな。ションベンガキの思惑通りに、何でも事が運ぶと思うなよ。
一度部屋に戻り荷物を持って玄関先に置いておく。
少しすると「用意できた?」と言って絢佳さんが、荷物を持ってきた。
「大したものは無いですから」
「じゃあ行こうか」
ガキに向かって「行ってくるからね。お留守番よろしく」と言って、玄関を出る絢佳さんだ。
「あ、親父って」
「今夜早めに帰って来るから」
「へえ、珍しい」
「愛唯をひとりにしておけないって」
俺よりションベンガキに愛情注いでそうだな。まあ親父が居るなら絢佳さんも、気にせず旅行に行けるってことか。
ションベンガキに、と言うより絢佳さんへの気遣いもかもしれん。違うか?
駅に向かい並んで歩くが、絢佳さんの荷物って何入ってんの? まさかキャリーバッグとは思わなかったぞ。
「それ、何入れてるんです」
「えっと着替えとか」
「一泊ですよね」
「そうだけど、なんか入れてるうちに増えちゃって」
キャリーは俺が引くからと言うと遠慮してる。親子なんだから気にしなくていいと。ただ、今後彼女ができたら、その気遣いをしてあげれば喜ぶ、とは言っていた。
気遣いする相手なんて、どうせできない。だから絢佳さんに気を使うってことで。あれも使いたい。
駅に着き電車に乗り込むが、下り方面ってことで車内は、あまり混雑していない。
空いてる席に腰を下ろし荷物を抱えておく。絢佳さんの荷物は邪魔にならないよう、網棚に強引にではあるが載せておいた。
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