Sid.19 ひとつ願い叶う継母との抱擁

 話を終えると自室に戻り机に突っ伏す。

 男女の関係性って無理なんだよな。じわじわボディーブローの如く効いてくる。

 俺が真っ当な性癖の持ち主であれば、三十過ぎの女性に惚れるなんて、あり得なかったと思う。

 でもさ、同世代の女子って、やっぱクソだしバカ認定すると、口も利かなくなるからな。話にならないだろ。絢佳さんと同じように胸なんて見てたら「この変態スケベセクハラ野郎」なんて言われて犯罪者扱いされる。あっという間に校内に広まって、虐めの対象になるだけだ。そして排除されるんだよ。集団から。


 あ、今も排除されてた。バカ認定されて。

 進学校って、人間性で劣る奴しか居ねえよ。成績だけが取り柄のクソ。


 同世代女子との友人関係構築が不可能なら、恋愛関係なんてそれこそ不可能だ。


 でも、大人である絢佳さんであれば、俺の気持ちを汲み取った対応ができる。

 そう思ったんだけど。

 子ども扱いなんだよ。どうしたって俺は子ども。今年は十八になるけど、やっぱり子どもでしかない。


 あと十年早く生まれていれば。もう少し俺を見てくれたかもしれない。

 なんで俺は子どもなのか。


 ああ、甘い考えだな。

 今の俺の十年後を考えたら、魅力ある男にはなれてないだろう。

 つまりやっぱり相手にされない。


 絢佳さんが俺に気を使うのも子どもだから。

 大人の男でこんなんじゃ、手が掛かるだけで面倒臭い奴でしかない。

 ため息しか出ねえ。


 夕食の時間になると呼び出しが掛かる。

 ダイニングに行くとションベンガキが居ねえし。


「あれ?」

「あ、あのね」


 言わなくていいのに言ったんだ。


「言ったんですか?」

「そう」

「それで怒ってへそ曲げたんですね」

「そう、みたい」


 だから言わなきゃいいのに。あんなションベンガキが大人レベルの対応なんて、不可能に決まってるんだから。高校生になってすらバカ認定したらシカトする。余計なことを言われればへそ曲げるだけだろ。

 俺と一緒が気に食わないのは事実で、感情面で折り合いが付けられるわけがない。

 所詮は感情の生き物だし。


「絢佳さん。二度と言わない方がいいです」

「でも、それだと」

「いいんですよ。俺が耐えれば済む話です」

「それじゃ駄目だから」


 この日の夕飯は二人だけ。親父も居ないからな。

 少々辛気臭い食事になってしまった。バカガキめ。


 翌日の朝。

 ダイニングに行くと居る。ションベンガキ。一瞬視界に入るが目を逸らし絢佳さんを見る。

 ちょっと困った感じではあるが、飯も食わずに何日も篭もっていられないんだろう。飯は食いに出てくるわけで。

 椅子に腰掛け飯を掻き込んで、さっさとダイニングをあとにした。

 俺が居るから不機嫌になる。別居が無理なら違う方法を考えよう。


 登校するために家を出ようとしたら、見送りする絢佳さんから「今夜、大祐さんと話し合うから」と言ってるし。


「やめた方が」

「今のままだと翔真君、居心地悪いでしょ」

「構いませんって。俺が大学に入ったら独り暮らしすれば済みます」


 それまで我慢すればいいだけの話だと。

 たかだか一年満たない程度だ。俺は耐えることができると思う。ションベンガキが耐えられない可能性はあるけどな。

 その時はその時だ。それ以上の譲歩は不可能だからな。勝手に家出でも何でもしろ。そんで本当に危ない奴に拉致られて、身も心も壊されてしまえばいい。

 ちょっと繁華街に出れば、危険極まりない奴には事欠かないからな。深夜にうろうろしていれば、まさに鴨葱。薬漬けにされ複数の男に犯され、ぼろぼろにされるだけのことだ。


「独り暮らしするの?」

「それが一番の解決策です」


 惜しいと思う。でも絢佳さんは俺の前では女にならない。どうあっても母親だ。

 だったら俺が家を出て忘れた方が楽だし。


「じゃあいってきます」

「あ、いってらっしゃい」


 少し寂し気な感じの絢佳さんだったな。


 学校に着くと午前中でテストは終わる。

 さっさと学校をあとにし家路を急ぐ。テストは散々だったな。赤点必至だ。どうでもいい補習が待ってる。

 どうせ一般入試なんだから、学校の成績なんてギリギリで構わないと思うんだがな。まあさすがに赤点じゃ卒業は無理だろうけど。


 いろんな面で進学校ってのは面倒なだけだ。

 親父の見栄のために通わされてるようなものだな。自分の息子がバカ校に通ってる、なんてのは耐え難いんだろう。

 並みレベルをバカ校と称するからな。並みがバカなら、それ以下の学校はなんだっての。バカより下ってのは、どう定義しているのやら。人扱いしないのか?


 家に着くと絢佳さんが出迎えてくれる。

 着替えを済ませダイニングに行き、昼飯を食うのだが、じっと見つめられてる。

 飯が凄く食いづらい。


「なんですか?」

「え、あのね」


 今日もやっぱり、ばるんばるんをテーブルに乗せてる。掴みたい衝動に駆られるから、それは遠慮して欲しいと思うが、見ていたいのもまた事実。

 柔らかそうだよな、と一瞬思ったが、昨日の頭に感じた感触。重量感が凄かった。なんて思いながら絢佳さんを見ると。


「大祐さんと」

「だから、拗れるだけなんで、やめた方がいいですって」

「翔真君は本当にそれでいいの?」

「構いません。男に二言は無いです」


 まあ、三人で仲良くやればいい。俺さえ居なければションベンガキもご機嫌だろうからな。

 女子に嫌われるのも慣れてるし、シカトされるのもいい加減慣れたし。


「一応ね、大祐さんに翔真君が大学進学と同時に家を出るって」


 そう言ったら「男だからな。ひとり暮らしは経験させるべきだ」と言われたそうだ。いつまでも親元で生活してるようでは、独立心も芽生えないから、さっさと家を出るのは賛成の立場だと。

 好きな場所に部屋を借りていいらしい。家賃なんて独り暮らしなら、たかが知れているとも。

 まあそうだろうな。親父は金だけは稼いでる。

 それと絢佳さんとの生活に邪魔だろうし。受験のタイミングで再婚した。今だけ身の回りの世話をしてもらえばいい、ってことだ。


「翔真君。悪い子じゃないのにね」

「分かりませんよ」

「悪いことしてないでしょ」


 小学生の時に離婚して父親はほぼ放任。家のことを遣り繰りして、グレてもおかしくない状況なのに、ちゃんと勉強もしているし進学を目指してる。

 こんなにいい子なのに、どうして娘が嫌うのか分からないと。

 ションベン臭くても女子だから。エロい視線には特に敏感な年頃だろうし。さぞや背筋が凍ったことだろう。


「いいんですよ」

「良くないと思うけど」

「もうその話はやめましょう」


 無意味だし、女子に変われと期待するのも意味がない。

 そう言う生き物なんだから。


 でだ、つい見入ってしまうわけで。

 豊か過ぎるばるんばるん。埋もれたいし掴みたいし、それで殴って欲しいとか。

 もう一度、昨日みたいに抱き着いて、頭を包んでくれないかな。至福の時よ、もう一度。なんて。

 煩悩ばっかりだな俺。

 これじゃあ嫌われもするか。


「翔真君」

「あ、ごめんなさい」

「違うの」


 あまりにも可哀想だから、抱き締めてあげると言われる。

 待ってました。と逸ると見透かされるからな。


「ちょっとここに立って」


 テーブルから少し離れた場所。そこに立つと至福の時間を味わえるのか。

 席を立ち指定された場所に立つと、そっと体を寄せて抱き締めてくれる絢佳さんが居る。

 凄いな、ばるんばるんの圧力。押し付けられるも押し返す勢いが。


「翔真君。本当にごめんね」

「いいんです」

「でも、もっと仲のいい家族になりたかったから」


 俺より背は低い。上から見下ろす感じになって、俺からも抱き締めたくなる。


「お母さんだと思って抱き締めていいからね」


 まじか。

 じゃあ遠慮なく。

 腕を回すと、ばるんばるんなのに体は細く感じる。小さいんだ。いや、俺がそれなりに体だけは成長したから女性を小さく感じるんだな。

 存在感と実体の差が顕著だ。

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