Sid.17 中間考査期間に継母と話し合い

 定期テスト期間に突入した。

 進学校は何かとテストが多い。多い時は週に二回の小テスト。通常は週に一回必ずある。

 ついでに補習も多い。テストの結果如何では強制参加させられるわけで。

 学校側は進学実績を積み上げたい。留年や浪人なんて選択肢はないってことだ。

 実績を積み上げれば優秀な進学校として、多くの生徒が集まるからだな。

 所詮、教育機関と言っても、そこは商売だ。利益を上げるためには生徒の数がものを言う。少子化ゆえに生徒の奪い合いになり、競争も激しいから楽はさせないのだろう。


 机に向かい解答用紙に答えをせっせと記入して行く。

 DXとか言っていながら定期考査は紙なんだよな。これもタブレットにすればペーパーレスの一層の推進を図れるのに。

 字を書くのも面倒臭いんだよな。フリックとかキーボード入力の方が楽だ。


 ひとつ終えると十分のインターバル。

 そしてまた紙に向き合い解答を記入して行く。時間制限があるからのんびり考えている暇もない。

 午後十二時二十分で、この日のテストが終わる。

 午後は勿論、授業も無く帰宅するだけ。これを四日間繰り返す。


 教室内では雑談に興じる奴らが複数。テストの結果がどうだっただの、楽勝とか少しミスったとか。

 俺がそこに混ざることはない。

 だって、楽勝なんて思ったことは一度もないのだから。むしろ苦戦し捲りで全ての解答欄を埋めるに至らずだ。毎回、時間切れで数問程度は空欄。

 時間を掛ければ解答できるケースもあるとは思う。しかし、時間は有限。

 結果、落ち零れの烙印を押される。


 頭の回転が速い奴、つまりは要領のいい奴が好成績を残す。

 日頃の訓練の賜物、と言えばそうなのだろうな。

 脳は使えば使う程に発達するらしいし。怠けていれば十分な神経回路網の構築ができない、ってだけの話で。

 若いうちにどれだけ発達させられるか、が、勝負らしいとも言われてるし。

 歳を取れば神経回路網は日々消滅して行くだけ。記憶が取り出せなくなる。記憶ができなくなる。体を上手に動かせなくなるなど、各所に影響が出始めるのが老化現象。


 だからこそ、若いうちの鍛錬が必要。充分に発達させておく必要がある。

 分かってはいるけど、地頭の良さってのもあると思うぞ。

 アインシュタインと一般人が同じとは思わないし。


 家に帰ると「おかえりなさい」と笑顔で出迎えてくれる絢佳さん。

 テストの件を口にはしないようだ。


「お昼ご飯できてるから」


 着替えを済ませ少し遅い昼飯を食う。

 目の前に豊かな、ばるんばるんを携えた絢佳さんが居て、にこにこ笑顔で「何か趣味とか無いの?」と聞かれる。

 テーブルに乗っかってるし。重そうだよな。そこに俺の顔面を埋め込みたい衝動に駆られる。


「趣味、ですか」

「無いの?」

「今は」

「普通はあると思うんだけど」


 趣味に費やす時間が無かった。何しろ毎日勉強し続けないと、全く付いて行けないからだ。

 せいぜい隙間時間にコミックを読む程度。ゲームとかやり始めると、いろいろ疎かになるし。

 SNSは友だちが居ないし、ネット上で繋がるだけの存在は要らないし。


「これから考えます」

「今まで無理してたんだよね」


 大学で何か見つけるといいよ、と言ってくれた。

 優しく慈しむような視線は、自分の息子として意識してるのだろう。俺は絢佳さんを女性として意識してるけどな。対等な立場にはなれない、このもどかしさ。

 あ、そうだ。大学合格祝いで、ばるんばるんを堪能させてもらうとか。

 あり得ん。

 そんなの許すわけも無いよな。


「スポーツはやらないの?」

「苦手です」

「これから少しずつ始めようね」

「でも、何をやるんです」


 ちゃんとやる気があるなら、休日にある程度付き合ってもいいと。テニスでも卓球でも、体を動かすことが大事だとか。


「こんな、おばさんと一緒は嫌かもしれないけど」


 大歓迎です。ぜひ一緒にやって、ばるんばるんを激しく揺すってもらいたい。

 そして零れさせて欲しいと思ったり。

 どうせだから水泳がいいな。水着姿の絢佳さんをみることができるし、万が一にも水着から零れ落ちたらラッキーとか。

 ヤバい。煩悩が抑えきれん。


「翔真君」

「なんですか?」

「あのね」


 ああ、視線が固定されていた。


「ごめんなさい」

「いいんだけど、そのね、前にも言ったけど」


 気付かれない程度に、だそうだ。

 視線に気付き気にするってことは、まだ他人としての距離感はあるんだな。多少は男として見ているってことか。

 そのまま親父以上の男として、意識してくれると違う展開もあるのか。

 あれか、オスを見せたらとか。フルの状態を見せたらさすがにオスを意識するだろうし。

 ちょっと恥ずかしいな。


「夏になったら何かしてみようか」

「あ、はい」

「海にも連れて行ってあげたいし」

「それ!」


 つい声が大きくなった。少し驚く絢佳さんだけど「日焼けしたくないから、肌の露出はしないからね」って、なんだそれ。ばるんばるんの御開帳を俺は所望する。

 くっそ。煩悩だらけだ。絢佳さんは俺のためにと思ってるだろうに。俺はと言えばエロいことばっかりだ。

 我ながらバカ過ぎて嫌気が差してくる。


「あ、でもね」


 ちょっと真面目な表情になった。


「愛唯のことなんだけど」


 要らん。絶対に仲良くなれない。あれは無しだ。


「注意はしてるんだけど」

「別に気にしなくていいですよ。時間が解決すると思うんで」

「でもね、今の状態がいいとは思わないし」


 絢佳さんは違うのだろうけど、一般に女子ってのは「嫌い」となったら、未来永劫嫌いなままだ。一度抱かれた印象を覆すのは不可能。

 好きなものを嫌いになることはよくある。好きなものは好きなまま、もある。

 だが、嫌いから転じて好きになることは皆無。

 放置で構わない。むしろ今後一切、顔を合わせないのが理想。現状、顔を合わせないのは無理があるから、今だけは視界に入るのも已む無し。俺が耐えるしかない。まあ、ションベンガキも耐えているのだろうけどな。互いに嫌っているのだから。


 これを言っても絢佳さんの心証を悪くしそうだから、口にはしないけどな。

 あくまで建前上、時間が解決するとしておく。


「それにね、旅行で翔真君だけ留守番してるのも」


 ションベンガキを置いて俺を連れて、なんてパターンは無理がある。家族四人での旅行が望ましいし、本来あるべき姿と考えるようで。

 今のままだと、海に連れて行くにしても、ションベンガキもとなると俺が残ると言いかねない。それだといつまで経っても、俺に家族としての思い出を残せない。


「ずっとね、纏まれない家族だと、翔真君もストレスになると思うから」


 見ていて分かるそうだ。互いに嫌っていることが。

 でも、それでよいはずも無いと。


「仲良くして欲しいから、愛唯には少しきついけど」


 譲るべき部分は譲れと言っているそうだ。

 カナダ旅行の際に俺が留守番した理由も理解してると。


「愛唯でしょ」


 互いに目も合わせず口も利かず。幾ら思春期で精神的に不安定であっても、四六時中不機嫌なわけではない。不安定なだけだから、機嫌の良い時もあれば悪い時もある。ションベンガキも俺以外と接している時は機嫌がいい。

 しかし現状、俺とは犬猿の仲。

 何が不満なのか聞き出そうとしても口を割らない。


「翔真君はどうして愛唯を嫌うの?」


 全部分かってるのか。

 じゃあ。


「嫌悪感しか示さない相手を受け入れるのは俺にはできません」


 ため息吐いてる。小声で「どうしたらいいのかな」なんて言ってるし。

 第一印象で最悪になったからだろう。絢佳さんの胸に見惚れてました、なんて言ってもなあ。そのせいで嫌悪感を抱かれ、一緒に住むことすら耐え難い存在、と認識したはずだから。

 仕方ない。事実を話すしかないか。


「嫌われる原因に思い当たる節はあります」


 これ、絢佳さんも気付いてると思うけどな。ガン見してたし。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る