Sid.13 黒レースの家庭教師はドジっ娘

 午前の授業を終え昼飯にするのだが、自分で作る気はないから、少し体を動かすことを兼ねてコンビニへ。

 金に困ることも無いし、小遣いは平均的な高校生の三倍以上もらってる。学食の昼飯代は別だし。ゴールデンウィーク中の飯代も別。これはこれで受け取ってる。

 成績向上と引き換えに上乗せもされるが、残念なことに一度も上乗せ分は無いけどな。

 ちっとも成績が上がらないからだ。


 コンビニで弁当を買い家に帰り、ひとりぼそぼそと飯を食い、腹を満たすだけの食事を終えると午後の授業だ。

 次は倫理だっけか。


 これも退屈な授業なんだよな。思想史とか哲学史なんて、ほぼ意味ないだろうに。そもそも俺なんて倫理観が壊れたぞ。絢佳さんを見たことで、母親になる女性に欲情してるし。

 思想とか何を思い何を考えようが自由だろ。誰かの思想に影響される必要もない。

 哲学なんて面倒なだけだし。


 これも無意味と思うが、問えば「大切なこと」と言われるんだろう。

 藪蛇になるから問うことはしない。古典で懲りた。

 歴史は古典の先生曰く、過去を知ることは大切だとは言え、丸暗記だけならやる必要性を感じない。

 意味ねえぞ。


 十三時になると先生が来て「実存主義について考える」とか言ってる。

 キルケゴールとかニーチェか? あんなの知ったところで、と思うんだがなあ。好きな奴はとことん追求すればいいけど、俺にはどうでもいい話だし。

 屁理屈捏ね回してるだけだろ。

 絶対口にはしないけどな。とりあえず素直に話を聞いておくに限る。


「集中して」

「あ、はい」

「眠くなるのは仕方ないけど、きちんと押さえておくことが大事だからね」

「はい」


 思わず欠伸を噛み殺したら注意された。昼飯後の授業って眠くなるんだよな。しかも思想家の話と来れば余計に眠くなる。物事を複雑怪奇にして、妙な説を唱えれば君も思想家だ。理解不能。

 単純化してしまえば、もっと簡単になると思うんだが。

 そもそも人がそこまで複雑とは思わん。所詮は獣だ。頭がいい、天才とか言われる人ってのは、いちいち面倒臭く考えるんだよ。


 石が道端に転がっている理由を考えるようなものだ。

 噴火で落ちてきたものか、昔は河川で干上がったから転がってるのか。地震で隆起した地形の上に現れたのかとか、岩が風雨に晒され石になったとかな。

 誰がそんな道端の石のことを考える?


 拾って武器にするために存在するとか、日常の道具としてそこに存在したとか。

 哲学ってのは、こっちだな。あらゆる事物に意味を見出そうとする。


「聞いてる?」

「え、あ、はい」

「心ここに在らずだけど」

「あ、すみません」


 また注意されてしまった。集中できてないからな。

 それでも授業が終わり解放される瞬間は来る。


「真面目にやらないと大学受からないよ」

「はい」

「今は不要と思っても役立つこともあるからね」

「はい」


 帰り際にしっかり説教された。

 ま、学校の勉強ってのは実生活に役立たなくとも、どこかで得た知識を活用できることもあるってことで。

 思考を鍛えるには好都合だろうし。なんか知らんけど。


 三十分のインターバルで眠気を飛ばすべく、ストレッチをして次に備える。


 ドアホンが鳴り黒レースの先生が来たことを知らされた。

 玄関で出迎えると薄着。ブラウスと膝丈のスカート姿。頼む、目の覚める強烈なズッコケを一発。ぜひとも丸出しを俺は所望する。

 期待するだけ無駄だと思うが。


 絢佳さん居ないし。つまらないな。


「良からぬことを考えていませんか?」

「え」

「視線がスカートに集中してますよ」


 バレてるって言うか、スカート、ガン見してたか。

 怒ってそうだ。

 部屋に向かうと「私に興味を抱けるのですか?」とか言ってるし。


「なんでです?」

「男性からの求愛行動は一度もありません」

「え、まじ?」

「全くモテないですから」


 そう?

 笑顔を出せば好かれる要素はあると思うけど。もう少し砕けて来れば付き合いやすそうだし。何と言ってもコケてパンツ丸出し、ってのがあるじゃん。あれは武器だ。ドジだけど憎めない子を目指すとか。

 あ、一度もって、もしかして。


「えっと聞き辛いこと」

「処女です。紛れもなく。おかしいですか?」

「いえ」


 自分から申告するとは、なかなかやるな。


「授業を始めますよ」


 机に向かうと授業が始まり、また距離が近いんだよ。すぐ側に顔があるし。この人も距離感壊れ気味な気もする。息遣いも感じられる程に顔が近い。

 時折見せる指先は今日も綺麗だ。指も爪も綺麗だな。家事とかしないのか。


「集中できていませんよ」

「すみません」

「謝らなくていいので集中してください」

「はい」


 ある意味、凄くやり辛い。地味なんだけど、その地味さを如何なく発揮してるような。

 今日もなんかの香りが漂ってくる。なんだろう? 甘くて、ちょっとお香のような。あれか、バラの匂いにあるな。あれに近いか。ミルラだっけ。

 気になるから香水はやめてくれた方がと思う。まあ、にんにく臭を漂わせるよりましか。

 あとはあれだ、歯槽膿漏で激しく臭いとか。あれは集中力を途切れさせるに充分な威力だよな。鼻が曲がるし吐きそうになる。悲しいことに当事者は気付かないんだよな。誰か注意すればと思うも、なかなかできないんだろう。


「笠岡さん。気になることでもあるのですか?」


 ある。漂う香りだ。


「え、あの、微かに香って」

「ほんの少し汗臭さを誤魔化すために使ったのですが」

「ちょっと鼻に」

「そうですか。失敗ですね」


 次からは付けずに来るそうだ。


「いえ、別に正体が分かっていれば」

「敏感なのでしょうか。それとも鼻が利くとか」

「嗅ぎ慣れない匂いだからだと思います」

「ミルラ香は嫌いですか?」


 嫌いではない。でもバラから直接香るのとは、少し違う感じもする。

 と言うと「人工物はお気に召さないようですね」となり、次回は付けずに来るそうだ。別にいいのに。


 授業も終わると帰る準備をする先生だ。

 そして待望の一発が。


 ドスンと豪快にコケる先生が居て、二度目の豪快丸出し姿を披露してる。

 その姿に思わず驚愕し目を逸らすことができない。

 エロい。エロ過ぎる。この先生、何考えてそんなの穿いてんの?


「いったっ」


 四つん這いになりながら俺の方を見てる。

 目が合うと「見えてますよね」と言ってる。見せてるの間違いでは?


「まあいいんですけど」

「え、いいの?」

「一応ですね、言い訳をさせてもらうと」


 気合を入れるために穿いてるのだと言う。


「勝負服とか勝負下着とかありますよね」

「分かりません」

「あるのです。気合を入れるためにですよ」


 別に如何わしい行為のためではない、と強調してるけど、俺だから何も無く済むけど、これ他の人だったら。


「それは考えないんですか?」

「ここに来る時だけです」

「え、なんで?」

「成績向上は絶対なのです」


 だから他の子より気合を入れる必要があるとか。

 だからって、スケスケ黒レースのパンツってどうなのよ。しかもほぼT。尻の割れ目に食い込む姿がな。目を逸らせないし。主張する丸くて大きな双臀が、触りたい衝動に駆られる。

 ゴホン、なんて咳払いをして立ち上がると、残念。隠れてしまった。


「成績向上を成し得たら、全部見せますよ」

「見えましたけど」

「違います。中身です」


 股間が破裂しそうだ。

 この先生、なんか変。


「み、見たいけど、でも、先生、変態」

「変態でも結構。やる気を出させるために手段は問いません」


 とにかく、結果を出すように、と言われてしまった。

 本当に中身を見せてくれるの?

 まあ今は聞かずに、その時を待つべきだな。


「では帰りますので」

「あ、はい」

「本気ですよ」

「え」


 でもさ、本気は分かっても、俺が手を出さない保証はないわけで。


「手が出るかも」

「そうですね。考えておきます」

「まじ?」

「あなたは集中力に欠けます。手段を問うている場合ではないので」

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