Sid.9 豊穣の女神こと継母と話し合い
昨晩は妖艶な姿態を拝見できた。あれを親父は絶賛独占中だ。俺にも分けて欲しいと思うんだが、穴兄弟ってのもどうかと思うし。父子で同じ女性を共有とか、何のエロ漫画だって話だな。しかも絢佳さんは血の繋がりは無くとも、直系姻族にはなってるわけで。マザコンかよ、なんて言われそうだが、元は他人だからマザコンとは違うと言えると思う。オバコン? おばさんコンプレックスとか。熟女好きとも言える。
でもなあ、魅力あるよなあ。アンナプルナ。
至高の頂は手に入らないからこそ、至高と言えるかもしれん。
絢佳さんから見れば所詮は俺もガキだ。恋愛対象になるわけ無いんだよな。
実に残念至極。
悶々とした状態の解消策はひとつ。
姿態を思い浮かべシチュエーションを想像し、妄想の中で愉しめば、とりあえず多少は落ち着くわけで。
落ち着けば自然と睡魔が襲い掛かり、しっかり微睡へと引き摺り込まれる。
気付けば朝だ。
進学校と言っても学校には行事がある。
全部サボりたいが学校行事は強制参加だからな。軍隊じゃあるまいし、たかが行事程度を強制するなと言いたい。
自由主義なのだし、自己責任論が闊歩してるのだから、参加しない自由も尊重すべきだろ。掛かる不利益に関しても、甘んじて享受すればいいだけの話で。どうせ自己責任で片付けられるのだから。
出掛けに絢佳さんから「表情が沈んでるけど何かあったの?」と言われた。
心配してくれるんだよな。母親として。決して異性を意識してじゃない。まあ、心配してくれる存在が居るだけで、以前より真っ当な状態とは言えるけど。
相談してと言われてるし、さらっと触れておけばいいか。
「校内行事に参加したくないなって」
球技大会にマラソン大会、文化祭や芸術鑑賞会、生徒総会に三者面談だの。一年や二年に比べれば、どうでもいい行事は減りはするものの相変わらずある。
夏には夏期講習に合宿まであるし。家庭教師を雇ってるから、学校主催の講習なんて不要なんだがな。
ああ、留学云々もあったが外国は物騒過ぎる。態度も体もでかくて悪いし、ルール無用でマナーも存在しない。まあ同族同士の間では多少あるようだけど。
我が強過ぎて仲良くできる存在じゃない。白人も黒人も日本人に対して差別意識が強いし。
「学校行事って生徒同士の繋がりも意識してると思うけど」
要らない。
面白い奴や楽しい奴が居るなら、それはそれでいいと思う。でも、進学校の生徒ってのは基本はクソ。バカ認定した奴は相手にしない。見下して居ないものとして扱うからな。
成績が全て。
落ち零れた奴を相手にする奇特な存在は居ないんだよ。
「進学校だから繋がりは希薄だと思います」
「えっとね、私も進学校に通っていたけど」
今も付き合いのある友人は居るらしい。絢佳さんは優秀なんだよ。バカを毛嫌いする親父が惚れたのだから。
俺の元母親は学力レベルで言えば、親父を下回ったんだろう。だから口答えなんて許さなかった。見下してたんだよ。同じ人として見ていない。話も聞かないし自分が絶対正しいとして譲らなかったからな。
ああ、そうか。
親父を見てるから進学校の生徒と馬が合わない。
まるで親父を見てるようで。
「あ、もう出ないと遅刻しちゃうね」
続きは帰って来てからにしましょう、ってことで学校に向かうが足が重い。
電車に乗り途中乗り換えて最寄り駅で下車。毎日思うことだが学校の選択を誤った。なんで山手線内の高校にしたのか。郊外なら通学も少しは楽だっただろう。
混雑具合が尋常じゃないんだよ。通学だけで疲労困憊だ。
学校に着くと誰に挨拶するでもなく、自分の席に着いて授業の準備を済ませる。
幸いなことに、この学校では直接的な虐めが無い。虐めなんてしても時間の無駄と、その点だけは分かっているようで。ゆえに無視されるけどな。
相手にするのも無駄と考えるわけで。他人に関心がないとも言えるか。
学校の授業が終わると速攻で帰宅する。居ても意味が無いからな。
電車に揺られること暫し、自宅最寄り駅で下車する。寄り道は一切しない。
ドアホンを鳴らすと笑顔で出迎えてくれる絢佳さんだ。癒されるなあ。
「おかえりなさい」
「ただいま」
「あのね、朝のことだけど」
ああ、そう言えば。
とりあえず着替えてから、として自室に向かい着替えを済ませ、ダイニングに行くと「朝の続きだけど」と切り出してきた。
向かい合うように椅子に腰掛けると。
「学校行事が楽しくないって」
親しい友人は居ないのか聞かれ居ないと答える。
「それだと楽しめないよね」
親しくない友人枠は二人居る。時々会話を交わす程度の存在。俺に構うんだから希少な奴らだとは思う。
他は誰ひとりとして関与して来ないのだから。
「選択ミスですね」
「高校?」
「そうです。進学校って勉強が全てだから、生徒もそう言う人ばっかりで」
「そんなこと無いと思うけどなあ」
絢佳さんが通っていた頃と今の高校は違うと思う。
「翔真君は積極的に関わってる?」
関わってない。面倒臭いから。他人と関わるにしても、ちょっと気に入らないことがあるだけで、ゲームをリセットするが如く人間関係もリセットされる。
生徒の質次第では容易に虐めにも繋がる。しかも死ぬまで追い詰める悪質さを持って。
と言ってみた。
少し頭を抱える感じだな。
「嫌なことあったの?」
「ずっとですね」
「ずっとって。学校合わない?」
「合わないです」
首を軽く傾げて少し考え込む感じで、暫し無言となったが。
「受験勉強に集中した方がいいのかもね」
今から人間関係の構築をしても、その分、勉強が疎かになると無駄もある。ならば人間関係の構築は大学入学後から、と切り替えた方がいいかもしれないと。
大学は高校以上に様々な人が集まる。意気投合しやすい人も居るだろうって。
俺もそれに賛成だな。
「でもね、先々どう転ぶか分からないけど、人付き合いの多さは人脈の多さに繋がるから」
できれば多くの人と繋がりを持って欲しいそうだ。
何かを始める際にも人伝で、協力を得られるケースもある。個人では成し得ないことも、他者と協力すればできることも多くなるからと。
あれか、起業。確かにひとりじゃ限界があるからなあ。それはつい最近実感した。
親父が経済的に成功したのも人脈って奴か? けど、人としてどうかとは思うけどな。
その辺はバランスの問題か。
夕飯の支度をするってことで、話は一旦終わるが「何かあったら遠慮なく相談してね」と言われた。
内に閉じ籠もりひとりで抱えないように、だって。
椅子から立ち上がると絢佳さんから「それとね、
「翔真君。一階の洗面所使ってるでしょ」
「使ってますね」
「愛唯の態度に問題があるなら、お兄さんとして言うべきは言ってね」
絢佳さんからも注意はしているそうだ。ただ、現状は右から左状態らしい。
分かってるのか。ションベンガキに追い出されて、已む無く一階の洗面所を使ってると。
だが言わない。あれはシカトで充分。言えば揉めるだけで改善はしない。
仲良くする気も無いし、兄ぶって説教噛ます気もない。どうせ聞きゃしないだろ。
「考えておきます」
「じゃなくてね」
「その時が来たら」
ちょっと困った感じだが、こればかりはな。少しの歩み寄りも見せない相手だ。何ひとつ聞き入れることは無いだろうし、反発だけされて今以上に悪化しかねないだろ。内憂外患状態の更なる悪化は、できるだけ避けたいからな。
そもそも親の言うことすら聞かないなら、俺の言い分に耳を貸す余地はないな。
絢佳さんとの話を終えて夕飯まで自室に籠もる。
俺に相談してと言う絢佳さんだが、やっぱり子どもとして見ようとしてるか。
親としての責任を果たそうと足掻いてるのかも。
俺的には母親じゃなく彼女になって欲しいんだが。無理は百も承知だけどな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます