Sid.8 またも深夜に遭遇する豊穣の女神

 兄妹としての関係性が良好ではない、と絢佳さんも気付いていたようだ。

 そして原因は向こうにあるってことも。原因はションベンガキの一方だけでは無いけどな。こっちも嫌ってるからお互い様。

 俺としては放置でも構わないが、毎回洗面所の占有権を主張されるとな。さすがに腹も立つし、いちいち睨むなと言いたいのはある。

 我が物顔で占拠してるからな。追い出されるのは俺。理不尽だと誰もが思うだろ。


 後妻のコブの分際で。

 まだ血を分けた兄妹であれば、譲る部分は譲ると考えもするだろうけどな。


 元はと言えばあれか、絢佳さんの、ばるんばるんに気を取られたのを、目撃されたからだろう。

 性犯罪者の認識を持たれたと思う。いつか絢佳さんが襲われる、なんて警戒してもおかしくないし。ついでにションベンガキも、だと自意識過剰だがな。あれは要らん。未成長の体に興味は抱けない。ロリコンじゃないんだよ。


 まあいい。

 絢佳さんが何と言おうと、あれと仲良くなることは未来永劫無いのだから。


 朝になりダイニングへ行くと、親父は昨日も帰って来ず、か。

 絢佳さんは、それでいいのかと思う。新婚と言っても差し支えない時期なのに、肝心の旦那は週に二回しか帰宅しないのだから。

 しかし、ションベンガキは居る。俺が来ると飯を掻き込み、すぐに席を立つけどな。

 それを見た絢佳さんは寂しそうだが、こればかりはどうにもならん。


「なんか、ごめんなさい」

「いえ。気にしてませんから」

「でも、もう少し」

「時間が解決しますよ」


 しないけどな。

 こっちから願い下げってこともある。


 朝食を済ませ登校時刻になると、バッグを背負い家をあとにする。


「いってらっしゃい」

「いってきます」


 すっかり馴染んだ挨拶だ。

 やっぱり送り出して迎えてくれる人が居るってのは、どこか温かさを感じさせてくれる。冷え切った室内ではない、温もりってのがあるからだ。帰宅すると明かりも灯っているからな。

 何より素敵な笑顔で迎え入れてくれる。思わずほっこり。


 だが、学校に行くと実につまらん。

 遠い友人枠の二人は時々話し掛けてくるが、普段は他のグループと行動してるし。

 まあ俺が構わないせいもあるだろうけど。積極的に関われば、もう少し違うとは思う。面倒だから関わらないが。

 授業になるとタブレットと睨めっこだ。

 毎週のように進捗状況の確認のため、小テストがあってサボっていれば、点数不足で補習が待っているわけで。

 気を抜けないのも進学校ならではか。


 午前の授業が終わると学食へ出向き、ひとり飯。

 定食の味噌汁茶碗を手に持って、口に運ぼうとしたら、背中を小突かれた感じで零してしまう。


「あ」


 イラっとして振り返ると女子がぶつかったようだが、謝罪の言葉もなく仲間と喋りながら席に着いてるし。

 ぶつかったことにも気付かないのか、それとも俺だから構わないのか。

 まじでクソだな。

 女子ってのは自分にとって、どうでもいい存在を認識せず、視界から消す能力を持っているのだろう。


 制服にも少し掛かっていて、ハンカチで拭っておくが、くっそ、腹立たしい。

 男子だったら殴り掛かるところだぞ。どれだけ不細工でも女子で良かったな。手を出される心配はないからな。

 実に理不尽。


 やはり大人の女性とは雲泥の差がある。

 絢佳さんは素晴らしいな。学校の腐れた女子に爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。ああでも、絢佳さんに爪の垢なんて無いか。綺麗にしてるもんなあ。

 逆に学校の女子には爪垢びっしりありそうだ。

 臭そうだし。いや、間違いなく臭い。イソ吉草酸の臭いで充満してる。

 鼻曲がるぞ。


 昼食を済ませると教室に戻り、午後に備えて準備だけはしておく。

 すると声を掛けてくるのは、遠い友人枠のひとりか。


「まだ起業とか考えてるのか?」


 すっかりどこかへ飛んだ。俺の脳みそレベルでは、ハードルが高過ぎた。


「いや、小休止中」

「なんだそれ」

「何をすべきか、定まらなくてな」

「スマホのアプリとかは?」


 あれこそアイデア一発勝負だろ。あらゆるアプリが出ていて、その中で抜きん出るには元となる発想がものを言う。

 さすがに、そう簡単にアイデアが浮かぶわけもない。


「過当競争が激し過ぎるな」

「まあそうかもな」


 面白いゲームでも考えたら、ちょっとは課金してもいいぞ、なんて言ってやがる。

 その面白いゲームってのは、容易に考え出せるものじゃないんだよ。ちょっと考えただけで面白くなるなら、プロのゲームクリエイターだって苦労しない。

 まあ、少し考えてもいいか。


「少し考えてみる」

「期待してるぞ」


 そう言って離れて行くが、まあ本気で言ってるわけじゃなかろう。

 午後の授業も終わると、さっさと下校する。学校に居ても意味はないからな。家に帰れば癒しの笑顔が出迎えてくれる。ここでの嫌なことも忘れられるくらいに。

 学校を出て最寄りの駅まで徒歩三分。そこから地下鉄を乗り換え三十三分。自宅最寄り駅で下車して徒歩四分で自宅に着く。


 ドアホンを鳴らすと少ししてドアが開き「おかえりなさい」と、愛らしい笑顔が出迎えてくれる。勿論ばるんばるんもセットだ。見事な揺れで目が回るぞ。


「学校どうだった?」

「いつも通りです」

「友だちとか居る?」

「少しは」


 学業優先で友人が居ないと、学校生活も充実し切らないでしょ、と言われるが。

 勉強だけできるバカしか居ないのが進学校だ。あれらと友人なんて無理だな。いちいち知識でマウント取ってくるだけで、中身が無さすぎる。

 あんな連中は将来AIに取って代わられるだけだ。知識しか無いんだから。

 幾ら知識を詰め込んでも、ネット上の膨大な知識量には及ばないだろ。


 ため息出た。


「どうしたの? ため息なんて吐いて」

「あ、何でも無いです」

「そう? 悩みがあったら遠慮しないで相談してね」

「はい。その時は」


 一度自室に戻り着替えを済ませ、夕飯までは勉強をしておく。日課にしないとサボり癖が付くんだよ。

 だから面倒でも気乗りしなくても、一応やっておく。

 勉強していると催すわけで、洗面所に向かうと明かりが灯ってる。つまりションベンガキが居る。

 仕方なく階下のトイレを使うことに。

 俺が気を遣わされるってのも、納得が行かないが、事を荒立てるのも違うと思うし。

 居ないものとして扱うべきだな。


 部屋に戻り暫し勉強をしていると、ドアがノックされ「夜ご飯できたから」と呼び出されダイニングへ。

 居るんだよ。ションベンガキ。まあ視界に入れなきゃいい。どうしても一時的に視界に入るが、以降は一切見なけりゃ、居ないのと同じってことで。

 食事中、やはり気になるのか、俺とションベンガキを交互に見る絢佳さんだ。

 ちょっと困り顔してるけど、こればかりはどうにもならん。


 食事が済むと部屋に戻り家庭教師が来るのを待つ。

 家庭教師が来ると、いつも通りに授業を熟し、二十二時になると終了。

 その後、風呂に入って寝るだけだ。

 確かに、こんな人生虚しいな。勉強だけしてる人生って気もするし。幾ら学生の本文が勉強とは言え、高望みしなければ、豊かな学生生活も送れそうなのに。


 ベッドに寝転がると眠りに就いていたようだ。

 だがな、懸念することが多いと夜中に目が覚める。トイレ、と思って洗面所に行くと。


「あ」

「え」


 またも遭遇した。豊穣の女神。

 今夜は親父が帰宅してたのか。その見事な姿態。そして飛び出そうな、ばるんばるん。

 たぶんシルク製のガウンを羽織ってはいるが、その下に胸元の開いたテディを身に付けている。ばるんばるんが零れてなかろうか。


「えっと、翔真君。と、トイレ?」

「あ、はい」

「じゃ、じゃあ今出るから」


 少し恥ずかしそうに急いで洗面所をあとにする絢佳さんだ。

 前に手を回し精一杯隠しているのだろうけど、そのサイズが巨大だからな。隠しきれてないんだよ。

 行為のあとのお手入れなんだろうなあ。

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