Sid.4 授業中に起業アイデアを考える
学校での授業中。
電子黒板やらタブレットやら、今どきのDXを主体とした学校だけに、教員側を見ての授業ではない。見るのはタブレットの画面だ。
だからこそ、授業中に起業アイデアを考える余地が生まれるわけで。
ペーパーレスも進んだ学校だからな。
でだ、授業用のタブレットを使うのではなく、自前のタブレットを使うのだが、これは学校指定のタブレットと同じ。だからバレにくい。
いろいろ調べてみるが、さて、何をすればよいのかさっぱりだ。
女子高生であればスイーツで話題作りとか。好きを形にすれば小さな店舗を構える程度には至る。映えを意識した品揃えは、女性にウケがいいからな。
だが、そんなもので商売が長く続くわけもない。流行りに乗った商売は廃れる時は一瞬だ。
持続可能性の高い事業。
俺如きで思い付くわけもないんだが、そこは何としても捻りだす必要がある。
例えば主婦であれば家庭内での不便を解消するとか。実際に経験から得た知見は有効だし。不便を便利にすれば大ヒットに繋がるのは当然。
家事で不便と言えば飯の支度だ。洗濯も乾燥まではできても、畳んだり仕舞うのは面倒。
けど、それらの作業をするには、ロボットが必要だし。
さすがに工学系じゃないとな。制御系プログラムを組めても、それを動かすロボットは作れない。
ひとりじゃ無理だ。
誰か仲間を募って共同で開発して行かないと。だが、残念なことに俺はほぼぼっち。
この学校の生徒たちは進学が目的だし、ましてや来年に受験を控えていれば、余計なことに割くリソースは存在しないだろう。
やっぱ無理なのか。
アイデアも無いし。
気付けば授業が終わっていて昼休みだ。
学食へ行くのだが、毎度同じ飯をひとりで食ってる。飯が不味い。絢佳さんが居れば飯も美味いのに。
昼は相変わらずのエナジー補給。
さっさと済ませ教室に戻り机に向かい、タブレットを取り出しネットを使い、アイデアの元になるものを探す。
「笠岡、何してんだ?」
声を掛けてきた奴は、あれか。二人居る遠い友人枠の片割れ。
「ネタ探し」
「ネタ? 漫才でもやるのか?」
「違う」
画面を覗き込むな。
「起業?」
そうだよ。
「会社でも興すのか?」
「まあな」
「なんで? 大学はどうするんだ?」
「行く」
起業しながら大学受験できるのか、なんて言ってるが、やるんだよ。
そうしないと絢佳さんにとって、俺はずっと子どものままだ。
動機が不純なのは理解しているが、何か事を起こさないと先へ進めない。相手は大人だしガキに本気になれるわけもない。だからこそ、違いを見せる必要があると考えた。
この手段でいいのかは分からないけどな。
「起業ねえ。まあ俺は大学出てからでもいいや」
気楽な奴め。
大学出る頃には多少、絢佳さんに近付けたとしても、その頃には絢佳さんも老けちゃうだろ。あの、ばるんばるんが腹まで下がる前に頂く。まだ若さを保っている今が旬、とも言えるだろう。
そうだよ。年齢は知らんけど、きっと今が旬だ。脂が乗りきって美味い時期だ。
「お前、何にやけてるんだよ」
「は?」
「良からぬことを考えてないか?」
「極めて真面目だ」
想像して表情に出たか。
少し気を付けよう。
午後の授業が始まると引き続き調べる。
だが、バレたのか「笠岡。提出されてないぞ」と言われ、小テストだと理解した。
慌ててやるも間に合わず、ほぼ無回答で提出する羽目に。
「小テストを受ける気が無いなら学校辞めていいんだぞ」
「いえ。そう言うわけでは」
「とりあえず、今日は居残りだ」
「はい」
三十分間の小テストを放課後にやることに。
もう少し周囲に気遣わないと留年しかねないな。テストでの成績が悪いと卒業できん。授業態度は内申に少し影響出そうだし。
起業して経営が安定すれば、学歴なんぞ無くてもどうにかなるだろうけど。そこに至るには相応の時間も必要だし。
進学校ってのはテストがやたら多い。年中テストしてやがる。何の意味があるんだか知らないが。
ああそうか。AIで代行させるってのもあるな。
テストの結果で人に優劣付けている程度だ。だったらAIの方が人間より優秀だろ。労なく百点だって取れる可能性はあるぞ。
まあ、何となくだが覚えたかどうか、理解したかどうかを都度確認だろうけど。
でもな、遡っての授業は無いんだよ。全部補習になるだけのことで。
いちいち足踏みしていられないが、両立させるのも難しいものだな。
放課後に小テストをやらされ、提出が済むと解放された。
「次は無いからな」
「はい」
「真面目にやらないなら、この学校には不要だと肝に銘じろ」
「はい」
進学校の面倒臭さ、ここに極まれり。
代わりに部活に精を出す必要も無いけどな。部活は適当でも文句は言われないし、活動しなくても問題は無いし。
挙句、退屈するだけの部活ばかりだ。運動部も好成績を残せず、下位に甘んじてる程度だし。
あくまで進学が目的であり、しかも最難関校を目指すのみ。
目標が明確な分、すべきことも決まってるわけで。そのためのサポートもしっかりはしているが。
つまらん。
家に帰り玄関を開けるとパタパタと音がして、素敵な笑顔を見せる絢佳さんが出迎えてくれる。しかも、ばるんばるんとセットだ。早歩きをするだけで、上下に激しく揺れるんだな。思わず視線も釣られて上下してしまう。
揺れ動く様を生で見てみたい。
「おかえりなさい。チャイム鳴らしてくれれば開けるからね」
今までは俺ひとりだったから自分で解錠していたが、今後は絢佳さんが出迎えるからドアホンを鳴らせだそうだ。
これも長年の癖だな。つい自分で開けてしまう。
家に入ると「学校は楽しい?」と聞いてくる。楽しくないのだが、余計な心配をさせるのも違う。
「まあそれなりに謳歌してます」
「そう? だったらいいけど、悩みがあったら相談してね」
悩み?
今の悩みは、どうしたらその、ばるんばるんに顔面を埋められるか、だ。
絢佳さんは食事の支度をするようで、キッチンに向かった。俺はそのまま二階に上がり自室に籠もる。
少ししてドアがノックされ、出ると絢佳さんが居て「洗濯物ある?」と聞かれた。
まだ着替えをしていない。制服は洗濯しない。靴下と下着程度だ。
「明日で大丈夫です」
「溜め込まないようにね」
「あ、はい」
「それとね」
ドアの前で立ち話をしているが、軽く俯き顔を上げると。
「そのね、年頃だし、気になるのは分かるんだけど」
やっぱりバレてるんだ。
「あんまり、胸、見つめないでくれれば」
胸元に視線が集中するのは、ある意味慣れてはいるらしい。自分でも大きいことは自覚していて、高校生の頃は男子の視線が常に突き刺さり、不快だったこともあるそうで。
だからと言って、俺が見つめるのを否定する気はないそうだ。
「そこはね、男子だし。一番興味を抱く年齢だと思うから」
仕方ない面はあると、その点は理解するらしい。ただ、こっそり気付かれないようにして、だそうで。
露骨すぎると、ちょっと背中がムズムズすると。
「えっと、ごめんなさい」
「あ、違うの。責めてないから」
両の手のひらを横に振ってパタパタ。「見るななんて言わないから」だって。可愛いなあ。
こほん、と軽く咳払いをして「彼女、居ないの?」と。
「進学校なんで、生徒同士の色恋沙汰は無いですね」
「あ、そうなんだ」
できれば、同世代の女子と付き合えれば、それが一番いいと言ってる。
要らん。バカ認定されて以降、誰も俺と目も合わせないからな。同世代の女子はクソすぎて話にならん。内心を表に出しすぎる。ガキなんだよ。
やはり絢佳さんくらいの年齢に至らないと。勉強だけできるバカは掃いて捨てるほど居ても、人に気遣える存在は居ない。
「じゃあ、夜ご飯できたら呼ぶからね」
そう言って俺の部屋をあとにした。
可愛いと思う部分と大人の色香があるな。絢佳さんって。
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