Sid.2 親父とコブは居ない方がいい

 母親に目を奪われていると「家事の一切は任せられる。お前は受験に向けて備えろ」と言ってる。

 つまりだ、一応親心もあっての再婚なのかと思ったが、これ、絶対違うだろ。

 親父もまた、ばるんばるんに惹かれたと理解できる。好みは一緒なはずだ。


 親父と軽く会話する新たな母、いやお姉さん。いやいや、母だった。

 親父を仰ぎ見る感じで少し横を向くと、目立つあれが全てあれなんだよな、と。


 視線を感じる。

 感じる方へ視線を向けると、なんだよ、コブが俺を睨み付けてる。

 幼稚園児か?


「あ、愛唯めいだけど今年中学一年になったの」


 はいぃ?


「仲良くしてあげてね」


 仲良くって、凄く睨まれてるんだけど。しかも敵意剥き出しって感じで。もしかして、ばるんばるんに見惚れてたのを見透かされたか。

 だがな、男子たるもの、そこに山があれば登りたくなるのだ。

 K2かエベレストか。

 いや、きっとアンナプルナであろう。サンスクリット語で「豊穣の女神」と言う意味がある。まさにぴったりじゃないか。豊穣すぎて埋もれたくなるぞ。

 だが世界で最も危険な山と認識される。登頂に失敗しての致死率なんと四十パーセント。K2ですら二十五パーセント、エベレストは六・五パーセントだからな。

 ああ、登頂してみたい。危険を承知の登攀とうはんは、さぞや至福であろう。

 金だけが取り柄のクソオヤジの分際でよく堕とせたな。山の神も実に悪趣味だ。


「愛唯。お兄さんにご挨拶して」


 不愛想なコブだ。にこりともせず、仏頂面を引っ提げ会釈のひとつもない。あ、俺もだった。

 ついお姉さん、じゃなく豊穣な、ばるんばるんに見惚れてしまったからな。

 頭を軽く下げ「よろしく」と言ってみるも、不愛想なままで顔を逸らされた。


「もう、愛唯。ちゃんとご挨拶しないと」


 無駄だろうな。第一印象で一気に零点になったと思う。

 まあ俺も幼児にしか見えないションベンガキなんぞ、眼中に無いからな。無視してくれて構わない。仲良くなる気もない。女子ってのは基本はクソだ。大人になって三十路を超えてから女性としての魅力が出てくる。

 と、俺は思う。あくまで個人の感想だ。

 ああ、俺って熟女好きなんだ。


 きっと心のどこかで母さんに甘えたかったのかもしれん。親父じゃなあ。母親の包み込むような感じは一切ない。

 母性の象徴である双丘が男には無いからな。もちろん、ションベンガキにそんなものは無いだろう。あっても岩の如く硬そうだし。


 この日は挨拶だけ済ませ、次の日曜日に引っ越してくるそうだ。


「じゃあ送ってくるからな」


 そう言ってアンナプルナの手を、じゃなくて絢佳さんの手を引き、家をあとにする親父だった。

 なかなか親密そうだな。すでに何発もやってると見た。いいなあ。あのばるんばるんを愉しんだのか。

 俺としては同じくらい親密になりたい、と思うのだが。

 若さで言えば俺の方が圧倒的だぞ。股間の張り艶と硬度、腹に張り付く勢いと角度に持続力、ついでにメートル越えの射出力を含め、どれを取っても親父を上回ること間違いなし。あ、違うか。経験が無い。童貞だから最初は持続できないかもしれん。

 そこは経験を積めば。


 くそ。

 なんか悔しい。

 金で横っ面を叩いたのか、それとも金に惹かれる女性なのか。後者なら見方を改める必要はあるな。


 これから一緒に生活することになるが、もし猫を被っていたならば、剥がれるに時間は掛からないだろう。猫を被っておらず、見た目通りの女性であれば、俺は耐え切れんかもしれない。

 初恋、かも。

 いや、過去に何となく好き、と思う相手は居たが。しかし、それとは違う。

 胸の高鳴り早鐘の如し。


 少し愉しみができたな。


 日曜日。

 朝から騒がしい。

 ドカドカと室内を歩く音と、荷物が運び込まれ、ああでもないこうでもない。実に騒々しくて寝ていられない。

 起きて廊下に出る。

 俺の部屋は二階の南西角。親父の部屋は南東角。間に三部屋挟んでる。

 その内のひと部屋にションベンガキが入るのか。親父の部屋に運び込まれるのは、絢佳さんの衣服だろう。

 ションベンガキの部屋の隣に、絢佳さんの私物が持ち込まれているようだ。


 ブラとか、きっと巨大なんだろうな。

 親父の部屋から絢佳さんが出てきた。俺と目が合うと「ごめんなさいね。少し騒々しくて」なんて、可愛らしい笑顔で言ってくる。

 ついでに、ばるんばるんも素晴らしい。そのまま階下に向かうが、後ろ姿もまた眼福だ。双臀そうでんもまた凄い。揺れ方が半端無いな。前も後ろもだと、どの体位でも愉しめそうだ。


 くそ。やっぱり悔しい。

 遺産だけ残して親父が死ねば、もしかしたらあの体を、なんて。


 洗面所に行くとションベンガキと遭遇した。

 俺を見た瞬間、逃げるように洗面所を後にしてるし。嫌われてんなあ。全然構わないが。

 幼児に興味ねえし。

 部屋に戻り一応勉強はしておく。


 午前中に引っ越し作業が完了し、あとは荷解きだけになったようだ。

 親父も手伝ってるようで、仲睦まじく開梱作業をしてるのだろう。時々、親父と絢佳さんの声が聞こえてくるからな。ついドアを少しだけ開けて、様子を窺ってしまう。

 あの親父の何が良かったのか。金か? それとも地位か名誉か?

 金があるってことは、相応の地位もあるからなあ。


 今の俺に圧倒的に足りないものだ。

 所詮は高校生だし。

 気を引くために何かしたら、俺の方を見てくれたりとか。

 やはり金を稼げるのは魅力なんだろうな。大人にとって富は力だ。


 考えておこう。

 何ができるか、何をやるのか。女子高生でも経営者になれる時代だ。男子高校生だってアイデアがあれば、起業して稼ぐ手段を得ることも可能。

 大人と遜色ないことができれば、あるいは絢佳さんの気を引く可能性もあろう。


 よし、決めた。

 単なる子どもからの脱却を目指す。

 大学生になるまでに一発何か興してみよう。

 そのためには知恵を絞らないと駄目だな。


 少し遅くなったが昼飯の時間になったようで、ドアがノックされ「翔真君。お昼デリバリーだけど用意できたから」と、絢佳さんに呼ばれた。

 ドアを開けると笑顔が眩しいなあ。


「お昼はあれだけど、夜ご飯は期待していいからね」


 そう言って階下に向かう絢佳さんだ。俺もあとに続いて階下に向かう。

 上から見る絢佳さんだが階段を下りる度に、ばるんばるんと跳ねるんだよ。凄いな。相当な重量がありそうだ。両手に余りそうなそれを堪能してみたい。


 ダイニングにはすでに親父とションベンガキ。

 テーブル上には蕎麦と寿司桶が置いてある。


「翔真、さっさと座れ」

「じゃあ食べようか」


 親父と絢佳さんが並んで座り、俺と……不機嫌そうなションベンガキが並んで座る。

 仏頂面を見なくて済むが、隣ってのもあれだな。テーブルの端まで椅子を移動させ、俺から距離を取ってるし。まあテーブル自体は六人掛けのものだ。それ相応のサイズはあるからな。

 だがな、そこまで嫌うなら、ひとりで部屋で食えっての。

 嫌いってのを露骨に出すからガキなんだよ。


「翔真君は来年受験なんだよね」

「そうです」

「どこを受けるの?」


 親父の希望は国内最高峰。今の俺じゃ無理があると思うけどな。


「まあ一応私立最難関校です」

「凄いのねえ」


 家事とか今までやっていたことは、全て任せて欲しいと言われる。俺の手を煩わせることは一切ないから、受験勉強に専念してね、だそうだ。

 まあそのためにも再婚したんだろうからな。

 だがな、別のことで気もそぞろだ。


「翔真。絶対合格しろ。浪人は許さないからな」

大祐だいすけさん。あんまりプレッシャーを掛けると」

「普段腑抜けてるからな。少しはプレッシャーも必要だ」

「もう。追い詰め過ぎると失敗するからね」


 親父はとことん自分を追い込んで成功を手にしたんだろう。だから同じことを俺に要求してくる。

 けどな、それで上手く行かないこともあるぞ。

 その辺は絢佳さんが理解してるようだけどな。

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