第20話 姉の思い

その場のダンジョンにいる全員の視線が自分に集まっているのを感じる。


これからあの神に対してどうするのか、どんな対策をするのか・・・と期待しているのだろう。


――そこで俺が出す指示は。


「とりあえず、一回帰りません?」






【草壁あまり・リスズ宅にて】


レイこと草壁あまりは激動の一日を経て、疲れ切ってしまい、家に帰る途中で寝てしまった。


家のリビングでは、オーラ、セナ、ネリエの三人が机を囲んでいた。


「――一体何の話があるってんのよ」


オーラはどこか強がるようにそう言った。


三人とも本当はレイを送り届けてすぐ帰る予定だったのだが、姉のリスズに呼び止められ、リビングへ通されのだ。


緊張感のある声色に体に力が入ってしまう三人だったが、リスズは彼女たちに何も言うことなく、通すだけ通して自身はあまりを部屋まで運びに行った。


「丁度良かったわ、私もアンタには話があったから」


セナがオーラの目を真っすぐと見つめてそう切り出した。


「な、なによ」


「私勝手な行動はしない方がいいって言ったわよね?」


「そうだっけぇ?」


オーラはまるでセナがそう言うと想定していたかのように食い気味でシラを切った。


「今回の一件なんかいろいろあったけど、出だしはアンタが相手の見え見えの罠にハマったことが原因だと思うんだけど!」


セナの声のボリュームが上がる。


「あぁ!? あの罠にハマったからリュウトもやれたんだろ?」


セナに比例してオーラも声が大きくなる。


「はぁ? アンタは結局罠にハマって何にもできなかったじゃない! 倒したのはあのダンジョンのモンスター達でしょ?」


「うるせぇな! レイがあんな思いさせれてるのにも関わらずただ傍観しとけってのは無理な話だろ」


「だからって勝手に一人で行動してんじゃないわよ! せめて連絡を――」


「そんなもんしたらどうせお前は、ひよってやめろとしか言わないだろ! お前と違ってこっちは本気でレイのことを心配してんだから行動に移すんだっての」


その言葉はセナの逆鱗に触れる。


「なにそれ? 私がレイのことを本気で心配してないって?」


「そうだろ、ビビッてなにも行動に起こせないないじゃないか」


「アンタは、そうやって勝手に行動してレイを危険な目にあわせてるじゃない! ――そうよね、アンタは人間じゃないんだから人間の私たちの気持ちなんてわからないんでしょうね。 前の世界もそうやって自分勝手な理由で破壊したんでしょ?」


ドンッと重い音が机に響く。


オーラは机に片足をのせ、セナに手の平を向けていた。


その手には魔力が込められている。


それに対し、セナは自身の腕に鎧をまとって、防御の姿勢を作っていた。


「二人ともここはレイさんのお家ですよぉ」


ネリエは落ち着き払った様子で出されたお茶を飲んでいた。


「お前はいつもいつも我関せずって感じで今回も最後だけ出てきやがって、お前こそレイがのことなんてなんとも思っていないじゃないか」


ネリエの眉が一瞬だけぴくっと動き、お茶を飲む手がとまる。


「女神ですから。あなたがた二人と違って大きな責任のある立場なのでぇ」


「フン、何もできないようじゃただの役立たずだろ」


まるでその場の時間が止まってしまったかのような沈黙が流れる。




「――人の家、なんだけれど」


リビングの入り口の扉が開かれたかと思ったら、そこにはレイの姉であるリスズが立っていた。


魔法やら、鎧やら、物騒なものが展開されている卓上を見ても何ら動じることはなく、毅然とした態度で、彼女は台所へと向かった。


自身が飲むためのお茶をいれているらしい。


そんなリスズの様子を見て三人は互いに目を合わせ、静かにゆっくりと席に着いた。


リスズはお茶を入れ終わるとカップを持って、三人の座る机に腰掛ける。


凄まじい威圧感だ。


最凶の魔女、女神、インフルエンサー、がいるこの空間で明らかにリスズがその場を制していることが読み取れた。


――――なぜなら、彼女は将来、義理の姉になる可能性があるからである。


三人にとって絶対に心象を良くしておきたい人物なのだ。


「――三人は弟とどういうきっかけで知り合ったのかしら」


リスズはお茶を飲む手を止めず、流れるようにそう言った。


「わ、私たちはネットで知り合って、それで仲良くなって――」


セナが食い気味でそう返答する。


「そう」


リスズはそう言ってまたしばらく黙ってしまった。


「――で、レーナルズとダンジョンでひと悶着あったと」


まだ会話らしい会話をしていないのにも関わらず、推察されてしまったことに動揺を隠せない三人。


「どうしてそれを、まだなんも言ってないけど」


オーラは思わずそんな言葉が口をついて出てしまった。


「私の家にレーナルズの一員がきて、向かいに来るはずだった弟がいつまでたっても家に帰ってこない。 それに帰ってきたあなた達三人と、あまりの靴についていた土。 あんな土この辺の一体じゃ見ないものだから容易にダンジョンに行ってきたんだって考えられる」


「ただ、ダンジョンの中で何があったのかは分からないから、教えてもらっていいかしら」


三人は三人とも、今回の一件をどうやって誤魔化すかも嘘を考えていたのだが、この姉の前では無駄だと悟り、全てを話すことにした。


「………………」


話を聞いて、またリスズはしばらくだまりこんだ。


正直言って三人は自分たちは心象最悪だろうと考えていた。


レーナルズが悪いとはいえ、オーラの勝手な行動とかで弟にかなり苦しい思いをさせているのだから


「――そんなことがあったのね」


三人は固唾を飲んで次の言葉を待つ。


「それは本当にごめんなさい。 そしてありがとう」


そう言ってリスズは深々と頭を下げた。


予想もしていなかった言葉に三人は動揺し、オロオロと互いに顔を見つめ合う。


「え、えっ私たちがむしろ謝らないといけないというかなんといか・・・」


「そうよ、そのレ・・・弟をここまで事態に巻き込んじゃったのはその・・自分の責任というか」


「私も、何もしてあげれませんでしたぁ」


そんな三人の発言を聞いても、リスズは頭を上げず、言葉を続ける。


「これもどれも、弟が選んだ道で、あの子の責任です。 私はあの子がダンジョンに行くことに反対していました。 それでも自分で決め、自分で進んだ。 だから今回の一件もあの子が責任を負うべきです」


弟に対して厳しい見解を示したリスズ。


その声は微かに震えていた。


ゆっくりと顔を上げた彼女の目には涙が浮かんでいる。


「私たちの両親はいつも言っていました。 ”ダンジョンのモンスターと人間は共存できるはずだ”と。 ダンジョンでモンスターに襲われて亡くなったニュースがあるたびに世間での風当たりは強くなっていったのですが、うちの家族全員そのことを信じていました。 ――そんな折、妹と両親が事故で他界し、頼れる親族もいなかったので、私が弟を支えていかなければと考えるようになりました。私たち一家はモンスターと共存できると主張する狂人。世間ではそのイメージがあるため、社会でやっていくにあたって結構苦労しました。 それを理由にクビになったりなんかもして・・・そんなある日、弟に魔力適正があると判明してから弟はダンジョンに行くと言い出しました。 自分が両親の夢を叶えるのだと。正直腹が立ちました。 私だってそんな夢を追いかけている余裕があるならもっとやりたいことがあったと。 大喧嘩し、半ば諦めるように私はあの子のダンジョン探索を許可しました。 ――それからほぼ毎日ダンジョンに潜り、ケガを負って帰ってくる弟をみて、どうしてそこまでしてダンジョンに行くのか分からなかった。 だけど気づいたんです」


リスズは一口お茶をすする。


「ある日私が近くのスーパーに言った時、隣の家のおばさんと鉢合わせたんです。 いつもは変人一家の娘として白い目で見られるのにもかかわらず、その時初めて話しかけられたんです。 この前弟が重い荷物を持ってくれて助かったと。 その時、おばさんに”自分はいつか両親の言ったことを証明してみせる。 そうすれば姉はもっと生きやすくなるはず”といったそうです。 弟にとってダンジョンというのは両親を感じられる場であり、私を救うための場でもある。 ダンジョンがある限り私は一生白い目で見られることになると思っていたのですが、あの子は根本的にその問題を解決するために命を懸けてダンジョンに潜っていたのだと気づいたんです」


リスズは再び頭を下げる。


「――だけどそれを知っても私には魔力適正が無い。 あの子が傷を負って苦しい思いをしている間にも何もできない。 だからあなた方のような強い人たちが弟のそばにいてくれてよかった」


「身内として本当に情けない話ではありますが、私はあの子が帰ってくる場を守ります。 だからあなた方にはどうか、あの子のダンジョン探査……夢を守っていただけないでしょうか?」


肩を震わせながらそう言うと、リスズはもう一度弟の様子を見てくると言ってリビングを去っていった。




「ごめん!」


セナは突然のそういうと、オーラに頭を下げた。


「流石にアンタに対して言い過ぎたわ。 本当にごめんなさい」


「まぁ、こっちも言い過ぎたところあったし、ごめん。 ネリエもご、ごめん」


オーラは自身の頬を指で書きながらそう言った。


「はぁい、大丈夫でーす」


ネリエは微笑みながら、そう答えた。


「ねぇ、私たち本気で協力するべきだとおもんだけどどうかしら」


セナはニヤリと笑い、そう言った。


「初めてウチら気が合ったんじゃない」


オーラはいつになく真剣な表情であった。


「女神と魔女と人間が互いのために協力するなんてありえるんですねぇ」


ある小さな家の一室で、数多ある世界の中で初めてにして強大な同盟が結ばれた。




【あとがき】

8月04日辺りに21話目を更新出来たらと思います。


メインで書いている作品のあいまに思いつきで書き始めましたので、投稿頻度は不定期です。

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