第21話 巨大な腕
「――突然ですが、ここで臨時ニュースが入りました。 ○○県○○市上空に巨大な黒い線のようなものが出現したもようです」
草壁家のリビングにあるテレビから突然そんなニュースが流れてきた。
そこにいた、オーラ、セナ、ネリエの三人も思わずテレビの方へと視線を向ける。
どうやら、今は現場からの中継がなされているそうだ。
「――こちら○○市です。 約1時間ほど前に上空に巨大な黒い線が浮かび上がっているという通報があったようで、 これを受けて警察は辺り一帯を封鎖し、調査を始めているもようです!」
キャスターの声が裏返りながらのリポートから、現場の緊迫感が伝わってくる。
スタジオにいるキャスターが現場へといくつかの質問をし、詳しい様子を聞き出している。
すると、大きな物音がテレビから響く。
「ご、ごらんください‼ 黒い線から巨大な手のようなものが、出現しました――‼」
上空に映った黒い線は、裂け目だったようで空間が大きく裂けて、そこから巨大な腕が現れた。
真っ黒なそれはあたりをまさぐるように動き回ると、突然動きを止め、黒い液体をボタボタと垂らし始める。
その液体が地面につくと、そこからゴブリンが現れた。
街は一気にパニックになり、映像もそこで途切れる。
「今のって・・・」
セナのその後のセリフは全員わかっていた。
さっきのは恐らくあの神の仕業であろう。
「わたし、一度天界へ行って様子を確かめてきますぅ~」
ネリエはそう言うと光に包まれて消えていった。
「アタシらはどーする」
オーラはセナを見つめ彼女の判断に託していた。
「一度、あのダンジョンに行きましょう」
「――だから協力して、戦おうと。 そう言いたいのでありますか?」
翌日オーラとセナは例のダンジョンへと向かい、ピートと話しをしていた。
ダンジョン外にモンスターが現れるというのは、無い話ではなかったが、ここまで強力なモンスターがあんな大量に発生するのは異常だった。
街に現れたモンスター達はすぐにそこにいる攻略組によって討伐され、巨大な腕も消えたらしいが、セナはあのサンザシが自分達に向けてメッセージを送ってきたのだと考えていた。
「そう、あの規模の数倍はモンスターを送り込んでくるはずだから、私たちと協力して今から対策を――」
「必要ありません」
ピートはセナの話を遮ると、そう言って背を向けた。
「は? 必要ない?」
「そうです。 我々は強い。 あなた方人間や魔女とわざわざ協力せずともやっていけます」
「そ、それはそうかもしれないけれど、でも戦場になるのは私たち人間が多く住む場所だし、人間の意見もあった方が有利に――」
「要は襲ってくるモンスター達を全滅させれば良いのでしょう? ここにいるのは世界を相手取ってきた者ばかり、モンスターの群れくらい容易いものです」
ピートは再びセナの話を遮るとそんなことを言った。
「あのな、アンタら外に出たことないから分からないかもだけど、外はここと違って魔素の感じとか、地形とか結構ややこしいんだぜ」
オーラは異世界から来た魔女としての意見を述べている。
「問題ありません。 私たちはあなたの様に頭が弱いわけではありませんから」
その明らかな挑発にオーラは顔の筋肉をピクつかせる。
「スライム風情が随分と偉そうな口利くな」
「魔女とあろうものが人間(レーナルズ)の単純な罠に引っかかるのですね」
オーラは一瞬で本来の姿に変わると、ピートに襲い掛かった。
そのスライムに向けられた鋭い爪は、近くで話を聞いていた戯螺によって止められる。
赤い火花が散るなか、ピートは落ち着き払った口調で話をはじめる。
「正直な話。 我々は主様以外に人間のことなどどうとも思っておりません。 ですので街が、世界がどうなろうが、我々の家族と主様さえ無事であれば他はどうだって良いのです」
「はぁ? ちょっと待ちなさいよ! そんなのレイが望むと思ってるわけ?」
「――主様にはきっとわかっていただける。 いえ、わかっていただけなくてもそうする。 あの方には我々の王になっていただくのですから……」
その時のピートの顔には恐ろしい狂気の笑みが浮かんでおり、セナはそれ以上声が出せなかった。
「まぁどうしても、我々と協力したいというのであれば――、雷華!」
そのピートの呼び出しに答えるように突然緑色の雷が落ちその中から、獣人:雷華 が現れる。
「貴方はこの雷華、そしてそこの魔女は目の前の戯螺と戦っていただき、傷を一個でもつけることができたら、協力してあげましょう」
【あとがき】
8月12日辺りに22話目を更新出来たらと思います。
メインで書いている作品のあいまに思いつきで書き始めましたので、投稿頻度は不定期です。
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