第18話 新たな・・・

その声は少なくとも俺は聞いたことがなかった。


それは周りの人たちも同じようで、みなキョロキョロと辺りを見回して声の主を探している。


数秒の沈黙が流れる。


「誰だ! 魔力も感じねーぞ‼ 出てこい」


雷華はしびれを切らしたようで、ダンジョンの天井に向かって叫んだ。


すると、突然円柱状の光が天井から地面へと真っすぐ伸び、薄暗かったダンジョンが昼間のような明るさを帯びる。


皆その光を警戒して、距離をとり、戯螺とバーミリオ、雪偽、ピートは俺を守るように前に立ってくれていた。


目がくらむほどのその光はだんだんと弱くなり、徐々に中から人の形をした存在が現れるのが視認できた。


「――天使?」


ダンダラは眉根を寄せながらその存在に向かってそう投げかける。


「不正解。 私は――」


ダンダラの質問に間髪入れずにそう答えるそれは、背中に真っ白な羽を生やした人物だった。


顔の造形は恐ろしく無駄がなく、この世のものとは思えないほどの美しい顔立ちをしており、金髪の長髪で純白のドレスを着ている。


声からして男の人っぽいが、あまりの美しさゆえ、女性といわれても信じてしまうだろう。


「私は神だ」


男はそういうと、ニッコリと微笑みかける。


「【雷薙(らいち)】!!!」


雷華は嬉々としてそう叫ぶとまさに電光石火のスピードで神と名乗る男に近寄り、その鋭い爪を男の首をひっかいた。


――がしかし、その爪はするり首をすり抜けてしまう。


「人間の住む地にわざわざ実体を降ろそうなんて考えるわけなかろう」


男は全く持って落ち着いた口調でそういうと180度あたりを一瞥する。


「いたいた]


こちらの警戒態勢など露知らず、男は地面にバラバラに飛び散ったリュウトの肉片の一つを親指と人差し指でつまむとそれを引っ張り上げる。


すると持ち上がったのは肉片ではなく、リュウトだった。


肉片の中から元の姿のリュウトが出てきたのである。


しかし、彼の姿は透けているためどうやら霊体のようなものになっているらしい。


最初は目の焦点が合っていないリュウトであったが、次第にその眼球には光が宿り、神と名乗る男を捉えた。


「はっ! サンザシ様、俺あなたの言う通りに動きました‼ 最後はうまくいってないっすけど、十分っすよね! 俺を最強にして生き返らしてくれるんすよね!」


リュウトは今まで見たことも聞いたこともないような明るさで、その男に話しかけていた。


「そうだな、おまえはこれまで俺の言う通りに動き、そして結果を出してきた」


先ほどリュウトからサンザシと呼ばれた男は、リュウトの肩に手を置く。


「――けどな、最後がこれじゃあ、意味ないんだよな」


「え?」


すると、サンザシは視線をリュウトに向けたまま、俺の方を指さす。


「彼にあんなひどいことしておいて、生き返るなんて……、お前は天国にもいけないよ」


「は? あれはアンタがそうしろって指示を――」


リュウトの顔から先ほどまでの笑みが消える。


「しぃじぃ~? 俺は冗談で言ってみただけ。 なんかそれをマジで捉えてやっちゃってんのはキミだからね」


「ふ、ふざけるな! 俺は何のために……」


「――ごめん。 もう時間だわ」


サンザシがリュウトの言葉を遮りながらそう言うと、地面に黒い渦が現れる。


「地獄の方にもう話は通してあってさ、特等席用意してるって」


「地獄? と、特等席?」


「そう、お前の血肉を万全の体勢で味わうために醜鬼に三日三晩エサを与えてないんだってさ」


黒い渦から、物凄い悪臭が漂い、そこから無数の腕が現れる。


その腕の肉は腐りきっており、触れるだけで折れそうな細さだ。


「――さ、行こうか」


サンザシはリュウトの背中を押し、その黒い渦へと近づけていく。


「ひぃ、い、――クソ! 死ねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしね!!!」


リュウトはサンザシに対して振るえるだけの暴力を振るが、そのどれを喰らってもサンザシはビクともせず、リュウトを渦に近づける。


渦から伸びる腕の一本がリュウトの足をかすめる。


その瞬間、無数の腕がリュウトの居る方向に向かって集まってきた。


「いやだ、いやだぁ! ごめんなさい、ごめんなさいぃぃぃぃぃ」


あと一押しで、リュウトは渦へと達する。


リュウトは両の足を地面に押し付けてそれ以上進まないように必死に踏ん張っていた。


「――なんちゃって。 そんなことするわけないじゃん!」


先ほどまでリュウトの背中を押していた手の力を抜き、サンザシはおちゃらけたように笑いだした。


「え?」


リュウトはここにきての急展開に、頭がついてきていないようであったが、驚きのあまり、先ほどまであふれていた涙はピタリと止まっていた。


「――っていうのも嘘♡」


トンッとサンザシはリュウトの背中を押す。


油断し、足の力を抜いていたリュウトはあっけなく渦へと倒れこんでいく。


「あ」


それが彼から出た最後の言葉らしい言葉だった。


それからは悲鳴のような何かを上げながらゆっくりと渦へと飲み込まれていった。



「主様、どうか動かないでください!!」


――ハッと我に返ると俺は、リュウトを助けようとその場から飛び出していたらしい。


ピートが俺の上半身に縋りつくように抱き着いていた。


「ご、ごめん。 体が勝手に」


「主はん。 ピートはやっとのことで主はんに会えてん。 こんなくだらんことでその命を落とさんといてください」


雪偽は俺の手をそっと握ると目をじっと見つめてそう訴えかけてきた。


俺はもう一度謝罪の言葉を述べ、うなだれる。


「――っともういいかな」


サンザシは一度手を叩くと、自身のターンであるというように胸を張り、話を始める。


「私の名前はサンザシ。 神をやっている。 君たちのことは見させてもらっていた。 なんともドラマチックでオモシロイ関係性ではないか」


サンザシは身振り手振りを大きく使い、まるでミュージカル俳優の様に話す。


「ただし、私の演出において君たちは邪魔で邪魔でしょうがない! 私の一流の舞台の上でそんなお遊戯されちゃかなわんのだよ!」


さっきから何を言っているのかさっぱりわからない。


「しかし私はただの演出家ではない! 一流の演出家!!! どのような環境であってもそれを生かしたやり方ができなければならんのだ!」


「――お待ち下さ~い‼ サンザシ様」


サンザシ話を遮って天井から舞い降りてきたのは――。


「か、かまぼこさん!?」


普段とは全く違い、派手なドレスになんとも神秘的なオーラを纏う彼女の突然の登場に面食らう。


「おいおい、ここはバケモンの寄り合い所かなんかなのか」


ダンダラは両手を上にあげ、まさにお手上げといった様子だった。


「――ネリエか。 おまえはここのダンジョンの担当ではないだろう」


「そうですぅ~、でもここの担当がサンザシ様なのもおかしいですぅ」


かまぼこさんとサンザシは周りの視線など全く気にすることなく2人で話を始める。


「あなたほどの上位神が、この世界のこんな場所のダンジョンにかまけるなんて、狙いがあるとしか思えませんです」


かまぼこさんは、今まで細めがちだった目をパッと見開く。


「一体、ウチになんの用です?」


サンザシはそれを聞いて、嬉しそうに笑い始めた。


「貴様はやはり優秀だよネリエ。 私の所に連れていくべきだった。 手を回して私がこの世界に関心を向けていることは、バレないようにしていたのだがな。 どうやらお前には気づかれてしまったらしい」


サンザシはそう述べてひとしきり笑い終えると、口角を上げれるだけ上げてこう言った。


「この世界は私の最高傑作になってもらう」






【あとがき】

7月19日辺りに19話目を更新出来たらと思います。


メインで書いている作品のあいまに思いつきで書き始めましたので、投稿頻度は不定期です。

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