第16話 幹部達

「ちょっと、まって‼ ちょっと待って! 俺がこのダンジョンを作った!? 」


俺は今しがたピートの話したことを頭の中で整理する。


――今までずっと無意味だと思っていた召喚魔法の練習が実は全部成功していて、それで沢山のモンスターを召喚していて・・・そのモンスターたちがダンジョンを作っていて。


考えれば考えるほど訳の分からない状況である。


「――あ! っていうかこんなこと考えてる暇はないんだった」


ゴン太さんが今この時もリュウトと戦っているんだった。


ただ俺が行ったところでなんの戦力にもならないだろうし、それどころか邪魔になるだけだろう。


「――主様、何かご命令していただけないでしょうか?」


ピートは落ち着いた口調でそういったのだが、その顔にはどこか不安げな様子が見て取れた。


「恐らく、あのゴン太とかいう人間のことを心配なさっているのではないですか? ご命令してくださればすぐに我々が彼女の加勢に向えますが……」


私たちを信用してもらえないのかと、そう問うているのだろう。


ぶっちゃけピート以外は初めてあったモンスター達だから、どんな力を持っていてどんな性格なのかもわからない。


けど、俺には何の可能性もないことも真実だ。


「――わかった。みんなにお願いがある! この先にいるリュウトってやつと戦っている俺の友達を助けてあげて欲しいんだ」


そういった途端全員が顔を上げ、ぱぁーと明るい表情になった。


「お任せください主様! 我ら幹部、全員をもってその務めを果たさせていただきます」


全員が立ち上がり、その体から恐ろしいほどの魔力オーラを放っていた。


その凄まじさに圧倒されている俺を、青い液体が包みこむ。


「主様はここでゆっくりなさってください」


気づくと俺とマジカルOLさんはピートの体内に取り込まれていた。


ひんやりとしていて心地いいその空間に包まれいていると、少しづつだが自身の魔力が回復していることに気が付いた。






 「どうした、あの謎めいた存在であったセナは実際はたいしたことなかったのか?」


リュウトと戦闘始めて数分、セナは自身とリュウトの間の実力の差を感じ始めていた。


彼女が着ていた鎧はそのほとんどが、破壊されており生身の体には多くの切り傷が出来ていた。


「てめえご自慢の鎧も、この剣の前では紙切れ同然だもんな」


リュウトがブンブンと振り回すそれは、彼がメインとして使用している剣【凛】だ。


凛は最も硬い鉱石であるミスリルを使用し、世界最高峰の職人達によって作られた代物であり、リュウトにしか扱うことが出来ないような設計にされている。


セナの着ている鎧もミスリル製ではあるのだが、凛は膨大な魔力にも耐えられる高い魔力耐久値も持っているため、リュウトの魔力で数倍に強化された凛の攻撃の前では、鎧も大して意味なさないのである。


「最初はどんなもんかと思っていたが、結局俺に本気を出させることすら出来ない雑魚か」


そう言うとリュウトはセナの体を舐めまわすように見つめる。


「ただ、やはりお前のその体は良い。 どうだ俺の女として世間に公言するのなら殺さないでやってもいいぞ」


リュウトのその言葉におぞましい嫌悪感を抱き、殺意に満ちた視線を向けるセナ。


「世界トップクラスの攻略組の俺。 そして謎の美女セナ。 どうだこの注目しか浴びないような組み合わせ。 お前の実力はゴミだが、俺の装飾品としては悪くない」


「ふっ、豚に真珠ね。 アンタには釣り合わない」


異常に高いプライドを持つリュウトにとってはそんな軽口でさえ、殺害の動機にいたる。


「クソブスが死ねよ」


リュウトが凛を構え、踏み込もうとした――――のだが、不思議とその足がビクとも動かない。


「あ? なんだ!?」


リュウトが視線をおろし自身の足元に目をやると、なんと足が凍りついていた。


「後ろから失礼。 卑怯は百も承知やけど、下賎の輩には丁度ええかと」


唐突に後ろか声が聞こえ、リュウトは上半身と首を何とか回し、後ろに立つ着物を着た美女を視認する。


「クソ! 次から次へと! 今度はなんだ!?」


リュウトは足に炎を纏わせ、氷を蹴り砕く。


「誰だか知らねぇが、お前も殺してやる」


凛の切っ先がその美女に向けられたが、今度はその間に赤い甲冑を着た侍が現れる。


「今度はなんだよ!」


「――実に素晴らしい刀。 しかし使い手が未熟故、その刀身は無いも同じ」


「くそ!! くそくそくそ! なんなんだよ、このダンジョンは!! 知らねぇ奴が次々と俺の邪魔をしにきやがって」


リュウトはもう思考することを放棄し、ただ目の前に居る存在を殺すことだけを考えるようにした。


「まぁ、そんな焦んなよ。 どうせ死ぬんだ、ゆっくり逝こうぜ」


今度はいつの間にかリュウトの肩に手を置いて、まるで友達かのように話しかけてくる長身の女がそこにいた。


「は? いつの間にそこに」


リュウトはパニックに陥りかけていた。


それはセナも同じである。


「一体なんなの?」


思わずその場でへたりこんでしまうセナ。


ボーッとその光景を見ているとダンジョンの奥から、聞き馴染みのある声が聞こえてきた。


「ゴン太さーん! お待たせしましたー!!」


「――レイ!?」






 「良かったゴン太さん無事みたいだ!」


俺はゴン太さんの生存を確認し安堵のため息を吐いた。


そしてそこには当然リュウトもいる。


その姿を見るだけで、先程までの安堵が一気に不安へと移り変わる。


「ピート、リュウトって本当にとんでもない強さだって聞くんだけれど、大丈夫なのかな?」


すると、ピートはピタリと動きを止める。


「――主様、それは我々の力を信じきれていないと認識して良いですか?」


「え、いやそういう訳じゃないけど……」


ピートはクスリと笑うと自信に満ちた表情で語り出した。


「そうですね、ではワタクシの方で簡単に彼らの紹介をさせていただきます。あの赤い甲冑の名は戯螺(ギラ)。 かつて鬼族の長として世界を手中に収めた者。 白い着物の女は雪偽(すすぎ)かつて、国どころか世界までも傾けた女。獣人は雷華(ライカ)かつて世界最強にして、世界の王となった女。 そしてゴーレムのバーミリオ、かつて人間の手によって殺戮兵器として生み出されたが、世界のために人間を支配するべきだと結論に至った存在。 そして最後、あの中年オタクの名はダンダラ、かつて世界一の嫌われ者だった男。 となります」


情報量の多さに頭がついていけない。


――俺が何か言いたそうにしているのを察して、ピートが先に口を開いた。


「お察しかもしれませんが、主様に分かりやすく言い換えるのであれば、彼らは全員他の世界で魔王をしていた存在であります」



【あとがき】

展開が滞っており申し訳ございません。

7月2日辺りに17話目を更新出来たらと思います。


メインで書いている作品のあいまに思いつきで書き始めましたので、投稿頻度は不定期です。

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