第15話 幹部集結

 ピートはあっという間に見えない壁を破壊し、マジカルOLさんに癒しの魔法をかけてくれた。


「作り上げた? どういうこと??」


俺はすっかりと姿を変えてしまったピートに、頭に浮かんだ疑問をそのままぶつけた。


「――主様はご自身に召喚術師の才があるとわかった日から、今の今まで召喚術の鍛錬を怠りませんでしたね」


ピートは背筋がぞくっとするような美しい声色で俺にそう語りかけてくる。


「う、うん。 でも今まで一回も成功してなくて……誰一人召喚させられなかったんだ」


ピートの言う通り、俺は自分に召喚術の才があると鑑定されてから、召喚術を練習していたのだけど、スライム一匹だって召喚できなかった。


でも、なぜか明日こそはできるかもしれないという思いに搔き立てられて、気づけば毎日練習をしていたのである。


「いいえ、主様の召喚術は全て成功しておりました。ただ召喚された場所が各地のダンジョン内でしたため、召喚が失敗したように感じたわけです」


「なるほど……」


訳は分かったが上手く呑み込めない。


そんな俺の様子には気にも留めず、ピートは話を続ける。


「ワタクシたちも、主の姿なく召喚され皆一様に困惑しておりました。――がしかし!」


ピートが突然大きな声をだすので体が跳ねる。


「ワタクシの召喚されたダンジョンに奇跡的にも主様がいらっしゃった!!!  一目見た瞬間わかりました。あなた様が我々の全てであると!」


ピートは演歌歌手さながらに拳を体の前で握り締め、感涙にむせび泣いていた。


「そこから主様の寵愛を受ける幸せな日々を過ごしていた矢先……奴らが……奴らが!!!!」


ピートの目は先ほどとは打って変わって獣のように鋭い光を放っていた。


きっと彼女の言う奴らとはレーナルズの事だろう。


「あろうことかワタクシにチャームをかけ……主様を攻撃させるとは………………あの時は何度自害をしようとしたか」


ピートは体を小刻みになんどか震わせたあと、フーっと大きく深呼吸をしてゆっくりとしたまばたきを数回繰り返し、こちらを見つめる。


「しかし、主様にここまでの苦しい思いをさせた奴らに何もせず死ぬのは従者の名折れ。 ワタクシはダンジョン転移のスキルを使い各地の召喚獣たちを見つける旅に出ました。 もう二度とあなた様を傷つけさせないために」


――突然彼女は数回手を叩く。


「そして各地で集めた仲間と共にこのダンジョンを作り上げ、ここに一つの組織を立ち上げたという次第になります」


彼女がそう言い終わった頃、突然真っ赤な火柱が生じ、そこから頭に鬼を模した兜、背に巨大な弓、腰には鞘には納めていないギザギザした形の刀を拵え、真っ赤な甲冑を身にまとう人物が現れた。


続いて巨大な雪の結晶が現れ、そこからゆっくり一人の女性が現れる。 肌や着物だけでなく、髪の毛からまつ毛に至るまで純白に包まれた瓜実顔のその美しい姿に思わず息を飲む。


飲み込んだ息を吐き出す間もないまま続いて、地面から巨大な腕が飛び出し、徐々に土から這い出てくるのは、立ち上がれば10mはありそうな巨大ゴーレムだ。


皆一様俺を見ると、甲冑の人は片膝をついて頭を下げ、白い女性は正座し三つ指をついて頭を下げ、ゴーレムは胡坐をかき両拳を地面につけ頭を下げる。


「――2人足りないようですが……」


ピートは目を細めてそうつぶやくが、目の前に現れた彼らは微動だにせず俺に頭を下げ続ける。


すると奥のほうから、1人の中年男性が走ってくるのが見えてきた。


「おいおいおいおい! 聞いてないぜこんないきなりの招集、しかもこの合図は主様が来たってことだろ!」


こちらに近づいてくるにつれて彼の姿がはっきり見えてくる。


その姿は女児向けアニメのキャラクターがプリントされたよれよれのTシャツと色あせたジーパンを身にまとい、背中にはパンパンのリュックサックを背負っていた。


男はこちらにたどり着くなり、ゼェゼェと息を切らしながら頭を下げているメンバーを怒鳴りつける。


「おい、お前ら俺はそういう移動系の能力ないんだから集合の時はちょっと登場遅らせろって言ってるだろぉ!」


彼は一通り怒鳴りつけると、口をぽかんと開けたままの俺と目が合う。


「お、あんたが俺らの主様か……なんつーか、普通のやつで安心したわ!」


彼はそうニカッと笑うと立ったまま90度に体を曲げて頭を下げた。


「二人いないって言ったかピート? アタイは誰よりも早くここにいたぜ!」


突然俺の背後から声がしたかと思うと、身長180cmはありそうな女性……、いや獣人が俺の肩を抱く。


彼女はところどころが人間のような肌をしているのだが、ほとんどは深緑と黒の毛に覆われている。


髪の毛の色はエメラルド色でそう表現するにふさわしいほどキラキラと光沢を放っていた。


顔は日本人というよりかは、欧米風の目鼻立ちがはっきりとした整った顔立ちであるが、見るからに狂暴そうな雰囲気から美しさより怖さの方が勝ってしまう。


「お前がアタイらの主なんだろ――スンスン」


彼女は俺の首元の匂いを幾度か嗅ぐとペロッと舐め上げた。


「あぁ、興奮するぜぇ」


彼女はまるで探していた獲物をやっと見つけた狩人のような眼光で俺をジッと見つめていた。


「――雷華そこまでにしておきなさい」


ピートがたしなめるようにそう言うと、雷華と呼ばれた彼女は少し不満そうな顔を浮かべて俺から離れた。


「主様、皆の無礼をどうかお許しください。 皆一様に初めてあなた様の前に立つので少々気が動転している節があるのかと思われます」


ピートはそう言って深くお辞儀をすると、依然として頭を下げ続ける彼らを手で指し示す。


「彼らは組織のなかで幹部を務める者達……五大魔人です。 今この瞬間からこの組織はあなた様のもの。 さぁ我々に何なりとご命令ください」


そういうとピートも片膝をついて俺に向かって深々と頭を下げた。


えぇ……?


俺の頭に浮かんだのは一言だけだった。


「も、持て余します……」




【あとがき】

6月24日辺りに16話目を更新出来たらと思います。


メインで書いている作品のあいまに思いつきで書き始めましたので、投稿頻度は不定期です。

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