第14話 このダンジョンは!?
ミリちゃんさんの協力もあって俺はあのチャラチャラした男の人から逃げ切ることができた。
姉はもうとっくに家に帰ってしまっただろうが、一応連絡を入れとかないと、あとで何を言われるかわからない。
俺は上がりまくった息を、強引に整えて携帯の画面を開く。
すると画面上に見慣れない通知が届いていた。
「――マジカルOLさんからだ」
オフ会で彼女と直接会ってから、個人のメッセージなんてきたことがなかったので、嬉しいが少し緊張感もあった。
送られてきたメッセージには写真が添付されている。
開いてみるとそこには、体中に傷を負って地面に倒れている女性が写っていた。
見たこともない女性のはずなのに、誰だかは不思議とすぐにわかった。
写真の後に送られてきたどこかの住所を記載したメッセージをみて、俺の足は勝手に動きだしていた。
「ごめん姉さん!」
「マジカルOLさん!!!」
見たことがないダンジョンの感じたことのない禍々しさに、身震いしそうになるが、俺は数十メートル先に倒れこんでいる女性に向かって駆け寄った。
間違いない! やっぱりマジカルOLさんだ。
見た目も雰囲気もだいぶ変わっているが、何だかわかる。
「レイ……どうしてきた?」
小さくてか細いまさに虫の息のような声で彼女はそう問いかける。
「オイオイ、罠丸出しのこの場所に勇ましく助けに来た男に対してその口ぶりはないだろう」
岩の影から現れたのはリュウトだった。
「――! 」
俺とマジカルOLさんの間に現れた彼を見て、足が止まってしまう。
彼がどうしてマジカルOLさんと接点を持っているのかは分からないが、でも今あそこにいる彼女にひどい目を合わせたのはきっと・・・。
「彼女を放せ!」
俺の焦っている所を見るのが愉快なのか、リュウトは嫌らしい笑みを浮かべる。
「なら俺と戦うしかないよな」
リュウトは剣を抜き、地面を蹴る。
その次の瞬間に彼は俺の僅か数センチ前に到達しており、剣を振り被っていた。
ゴウやキョウヘイとは明らかに違う、規格外のスピード。
音もなく、まるで最初からここにいたのではないかと思えてしまうほどの速度に、面を喰らってしまい何もできない。
「あ・・」
かろうじて出たのはそんな情けない声だけだ。
これがあの数々のダンジョンを制覇してきたレーナルズのリーダー、リュウトなのか。
当たり前だが、一生かかってもこの領域には到達できないのだろうとわかってしまう。
銀に光る彼の刃は寸分の狂いなく、俺の首にめがけて放たれる。
――が、その瞬間。
まるで雷光のような刹那的でまばゆいい光が俺の視界を覆いつくす。
橙色の火花と共に耳をつんざくような金属音が鳴り響く。
リュウトの剣は俺の首の僅か数センチ前でその動きを停止していた。
「おまえ!」
リュウトが視線を送るその先に目をやると、1人の女性が俺たちの間に入り剣を手で掴んで止めていた。
――と言っても素手ではない。 手には白銀のガントレットがはめられている。
「セナ!」
「ゴン太さん!」
俺とリュウトは別の名前を呼ぶが、それが差している人物は同じだ。
「ほんっとうに、あぶなかったぁ!!」
「てめぇは、アカネが足止めするはずだったんだがな」
リュウトはこっちまで音が聞こえそうなほど歯ぎしりする。
「あぁ、あのこなら今頃テキトーなダンジョンで迷走してるわよ」
俺もリュウトも何を言っているかよくわからなかったが、彼女がここに来て自分を助けに来てくれたことには変わりはない。
「レイ、アンタねもう少し考えてから行動しなさいよ」
「・・・ごめんなさい」
圧倒されっぱなしの自分にとって、今出せる最大限の声量でそう言った。
「――ふぅ。 まぁいいわ、ここは私が食い止めるからアンタはオー……マジカルOLを頼んだわよ」
「――は、はい!」
「行かせるわけないだろ!」
リュウトは俺に向かって剣を構えるが、その前をゴン太さんが遮る。
「悪いけど、アタシと戦ってもらうから……」
「本気で言ってんのか? おれを知らないわけじゃないだろ」
「そうね、 知っているわその強さ。 でもアンタはアタシの強さも知らない」
すると、ゴン太さんはその見た目からは想像できない奇怪なポーズをとっていた。
「仮面ライダー?」
そう思ってしまうようなポージングだ。
「――変 身!」
彼女は確かにそう言った。
「なんだそれ」
するとゴン太さんの体を鎧が包んでいく。
全身に鎧を身にまとい、白い光を放つ。
「バカにしてんのか」
リュウトは自身の剣を振りかぶり目にも止まらないスピードで振ったのだが、彼女はその剣速にあわせてパンチを放つ。
するとリュウトの剣が木端微塵に砕け散った。
「アタシ、強いから」
――その言葉を聞いた俺は、その場を駆け出してマジカルOLさんの方へ向かう。
もう手を伸ばせばマジカルOLさんに触れれそうな距離まできた瞬間――俺は突然何かにぶつかり後ろに倒れる。
「え? なに?」
俺は慎重に目の前の空間に手を伸ばす。
すると、目の前には目には見えない壁があることに気が付く。
俺は拳でその壁を殴りつけるが、壊れそうもない。
「なんだこれ!?」
あと少しで助けられるのに、こんな・・・こんなもんで。
「この壁どうしたら――ん? なんだこの音」
壁の前で二の足を踏んでいるとダンジョンの奥の方から地鳴りのような音が聞こえる。
目を凝らして奥を見る。
「キングオーク!?」
ダンジョンの奥の方から禍々しい巨体を揺らしながらキングオークがこちらに走ってきていた。
「早く助けないと!」
弱り切って気を失っているマジカルOLさんが襲われたらひとたまりもない。
俺は全力で頭をフル回転させる。
――が大した魔法も使えない自分がこの壁をどうにかすることなどできなかった。
「どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう!」
俺は何度も壁を力いっぱい殴りつける。
オークはもう少しの所まで来ている。
いつの間にか拳から血が流れているが、そんなことどうでもいい。
この壁を・・・この壁をどうにかしないと!!!
――焦る俺の視界の端に水色の何かが写る。
「ピート…!」
俺の親友であるスライムのピートが壁の向こうでこちらを見ていた。
「ピート危ない! オークがすぐそこに」
そんな必死な俺の声にピートは反応しない。
だが、それは無視しているわけではなさそうだ。
「この感じ、俺の指示を待ってるのか?」
ピートのあの雰囲気は俺の指示を待っているときの感じだ。
傍からみたらスライムがただ立ち尽くしているようにしか見えないが、長年一緒に連れ添ってきた自分にはわかる。
ピートは俺の指示を待っている。
「それなら・・・」
俺は無駄だとわかっていても、その願いを口にする。
「あのオークを止めてくれ!」
俺は泣き叫ぶようにそういった。
「――かしこまりました」
聞いたことのない女性の声が、聞こえた気がした。
その瞬間ピートの姿が見たこともないほどの美しい女性の姿へと変貌しする。
「止まりなさいキングオーク。 主様の命令よ」
その女性がオークにそう告げると、オークはピタッと動きを止めその場から微塵も動かなくなった。
「――いい子ね。 さぁ主様の御前よ、平伏しなさい」
すると、オークもピートもこちらの方へ体を向けて片膝を地面につけ頭を下げる。
「ようこそおいで下さいました主様。 あなた様に召喚された我らが作り上げたこのダンジョンへと」
【あとがき】
メインで書いている作品のあいまに思いつきで書き始めましたので、投稿頻度は不定期です。
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