第12話 人間ではない

「俺も有名人なんでな、お前と戦うのはいいが、場所を変えさせてもらってもいいか?」


ゴウはリュウトがメッセージで送ってきた、探索しつくされて誰も来ないダンジョンにオーラを誘う。


「よかろう。 自身の墓の場所くらいは選ばせてやる」


オーラは凶悪な笑顔を浮かべる。


「少し遠いんでな、しばらく歩くことになるぞ」


ゴウは頭を捻る。


リュウトに例の魔女に出会ったというメッセージを送ったはいいものの、リュウトからは〝俺が来るまで何とか時間を稼いでくれ〟という指示しか来なかった。


そのため、できるだけいろんなことに時間をかけておきたい。


本当はこの家から歩いて10分くらいにあるダンジョンゲートに行けばいいのだが、ゴウは遠回りをして倍以上の時間を掛ける算段をたてた。


「――おい、貴様。 その目的に行ったことはあるのか?」


「あ、あぁ」


魔女に不意にそう問われたが、気の入っていない返事をする。


「そうか、ではその場所を思い浮かべよ」


どういうことか意味が分からなかったが、下手に抵抗して激高されてもかなわないので、ゴウは魔女に言われた通りそのダンジョンのことを思い浮かべる。


――その瞬間。


ゴウが思い浮かべてた場所に一瞬で到着していた。


「チッ、またダンジョンか」


魔女はダンジョンゲートを見て不快な表情を浮かべている。


そんな思いに耽ている場合ではないと、ゴウは頭を左右に振って我に返る。


「な、なんで・・いつの間にここに」


「転移魔法だ。 知らんわけではあるまい」


「転移魔法だと……」


そんな魔法を使える奴がいるなんて聞いたことなかったゴウは、目の前にいるのが人間ではないのだと改めて理解する。


「では行こうではないか、貴様の墓場へ」




「――どこまで奥に進む気なのだ」


オーラは余裕な笑みを浮かべて、そう問いかける。


一方ゴウの心中は穏やかではなかった。


あまりにも速い速度で到着してしまったため、リュウトと合流するまでに長い時間稼がなければならないからだ。


(さっきメッセージでリュウトは15分で着くと言っていたな)


「どうした、足を止めて。 ここでよいのか?」


オーラは両手を広げ、薄ら笑いでしゃべる。


「そうだ……戦う前に少し話をさせてほしい」


ゴウは必死に頭を回転させる。


「はなし………………よかろう」


オーラにこちらを疑うような素振りがないことを確認したゴウは少し安心する。


(こいつはもしかしたら、意外と時間を稼げるかもしれないぞ)


「話はよいが……その前に」


オーラはまるで電子機器のモニターをスワイプするように、人差し指を立てて横にスライドさせる。


すると、ゴウの視界はガクンと揺れ上下に動く。


ゴウはさっきまでオーラの鎖骨あたりに会った目線が、いつの間にか彼女の腰の位置まで下がっていることに驚く。


尻もちでもついてしまったのだろうかと、そう思ったのだが、尻には何の感覚もない。


強烈な違和感を感じたゴウが下半身に目をやると、ゴウの腰から下がなくなっていた。


「は?…………えっ」


「まさか、人間風情が我と対等に話をできるとでも思っておったのか?」


ゴウは下半身が燃え上がるような熱を帯びているのを感じる。


「は…………は、は? なんだ、なんだこれ! 元にもどせ」


ゴウはパニックに陥り、両腕をバタバタと振り回す。


「足なんて無くても、話くらいはできるであろう? 人間は話すときに手を使ってジェスチャーをすると学んだからな、腕は残しておいてやったぞ」


「こんなことまで、することないだろ!?」


脂汗を掻きながらそう訴えるゴウを見て、まるで虫で残酷な遊びをする子供のような笑みを浮かべていた。


「話とはそんなことを聞きたいのか? 早くしないと死んでしまうぞ」


ゴウは自身のスキル【超速回復】を発動させる。


これによって大量出血を止めることができる。


(これで、ひとまず出血死と痛みはないが……。 リュウトが来るまで時間を稼がなければ)


「お前は……一体何者なんだ。 人間ではないのか?」


オーラは空気椅子かのように何もない空間に腰を下ろす。


「出血を止めたか。 基礎的な治癒魔法は使えるようだな」


ゴウは自身のチートスキルを基礎的な治癒魔法と言われたことに、心が折れそうになるが何とか会話をしようと試みる。


「会話してくれるんじゃなかったのか? 俺の質問に答えてくれよ」


「――あぁ、我がどのような存在かという話か。 貴様ら人間に理解できるかは分からんが、そうだな……この世界の人間にわかるように言うならば我はオタクというやつだ」


「――オタク?」


朦朧とする意識の中ゴウはなんとか時間を稼ごうと会話を続ける。


「そうだ、我は元は下級のヴァンパイア。 そこから魔導の道を極めその深淵を振れたということだ」


「ヴァンパイアか、そんなもんが存在するとはな」


ゴウはスキルの効果により止血と共に痛みも止まった。


「ヴァンパイアなど、いない世界の方が少ないと聞くぞ。 この世界は空気が汚れておるからな」


「お前はそれほどの力を持っていながら、下級だったのか」


「いかにも、ちょっとしたパラダイムシフトがあってな。 そこから魔導の頂を志したということだ」


一瞬の沈黙が流れる。


「――さて、そろそろ殺すとするか」


オーラは自身の鋭く尖った爪をじっと眺める。


「ちょっと待ってくれ! ぱ、パラダイムシフトってなんだ? 一体なにがあったんだ」


「そんなもの貴様に教える義理はない」


オーラはゆっくりと立ち上がり、恐らく突き刺す予定であろう爪をゆらゆらと揺らしながら近づいてくる。


「じゃ、じゃあなんでレイなんかの肩をここまで持つんだ? ヴァンパイア的にあいつは貴重な存在だったりするのか!?」


ゴウはリュウトが来るまでの時間を稼ぐために必死だった。


「……」


しかし、オーラは何も言わずただゴウに冷たい視線を向けている。


「我がそのような損得でレイと関わっておると思っているのか?」


ゴウはその一瞬で自身が選択を間違えたと悟る。


「それこそ貴様に話す義理などない話だ」


「わ、悪かった! だから殺すのはもう少しだけまって――」




 「ゴウお前生きてるか!?」


ゴウはオーラ越しに見えるその人影を見間違うことなどなかった。


「リュウト! 助けてくれ!!」


「貴様がリュウトか。 まさかそちらから来るとは思わなかったぞ――少し待っておれ、今すぐこの男を殺して次はお前たちを殺してやる」


オーラは殺意を形にしたかのような凶悪な表情でリュウトを睨みつける。


しかしリュウトは落ち着き払った様子であった。


「――――ゴウ、お前まだ死んでなかったのか?」


「―は?」


リュウトの発言に面を喰らったのも束の間、オーラの腕がゴウの心臓を貫いた。


「リュウト助けてくれ……」


「悪いなゴウ。お前に伝えた作戦な、まずお前が死ななきゃ始まらないんだよ。 だからすまん、 死んでくれ」


ゴウの胴体はうつぶせに倒れ、自身の血液に溺れるように死んでいった。


「――フン、身内を見殺しとは。 いい性格をしておるな貴様」


オーラは爪に着いた血を振り払う。


「まぁ必要経費みたいなもんだ」


リュウトはそういうと、おもむろに自身の手のひらを上に向ける。


「【リトリーブ】」


彼がそう唱えると、あらゆる方向の壁の中に埋め込まれていた小型カメラがリュウトの手に集まっていく。


「――? なんだそれは」


オーラは目を細めそう尋ねる。


「このカメラにはお前がゴウを殺したところが映っている。 そして俺は今から数分後にこの動画をネット上に公開する。 そうなったら魔女の存在が知れ渡り、人間達は血眼でお前を探すようになるだろうよ」


「――ほう? 脅しか。 まさか人間ごときの脅しに我が屈し、今すぐ許しを乞うとでも思うておるのか!?」


オーラはコンマ数秒でリュウトの前までその距離を縮める。


「まぁ、お前ほどの魔女であったら人間ごとにきに捕まるなんてことないだろうし、人間達にどう思われようが関係ないだろうな」


リュウトはオーラを前にしても依然として余裕そうであった。


「けど、この動画をレイが見たらお前のことをどう思うだろうな」


「何を言っておる? そんなもの自分のためにここまでしてくれる我のことを評価するに違いないであろう」


(――本当だ! あの人の言うことは正しかった。 こいつは人間に近い見た目をしているがあくまでヴァンパイアであり魔女でしかない。 人間の考え方を深くは理解できていない)


リュウトはニヤリと笑う。


「本当にそう思うと?」






【あとがき】

投稿できず申し訳ございませんでした!

誉ある休日出勤をしており、書く暇がありませんでしたorz

5月30日辺りに13話目を更新出来たらと思います。


メインで書いている作品のあいまに思いつきで書き始めましたので、投稿頻度は不定期です。

それでも続きが気になると思ってくださいましたら是非フォローをお願いします!

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