第11話 勝利の確定演出?

言ってしまった。


何を言ったのか全く覚えてない。


というか思い出したくない。


目の前の男がとんでもない形相でこっちを見ていることが、一番の理由だ。


「それって、俺の活動を全否定ってことでいいっすか?」


チャラい男が顔の高さで持っていた携帯をゆっくりと下げる。


顔の筋肉のところどころが、ピクピクと痙攣しており、怒りが顔の中を這いまわっているようだ。


「とりま、マジでムカついたんで一旦ツラ貸してもらってもいい?」


まずい、まずいまずいまずい。


ただでさえ、今は悪評が出回っているのにここで暴力沙汰になったりしたら、今度こそどうなるかわからない。


――よしっ。 逃げよう。


俺はくるっと男に背を向け、ダッシュで走る。


「待てこらぁぁぁぁぁ!」


男は雨の中全力で追ってくる。





「愚弟が、この私がこれから帰ろうってのに迎えにもこないのか」


彼女の名前は草壁リスズ。 草壁あまりの実の姉である。


その手にはコンビニで買ったビニール傘が握られている。


弟への不満をつぶやきながら、家の玄関にたどりつき鍵を開ける。


「すいません。 この家の方ですか」


背後から突然声をかけられ、振り向くとそこには異様に体格のいい男が立っていた。


「――そうだけど。 誰?」


男の野太く低い声が雨音に紛れて聞こえてくる。


「ゴウって言います。 あなたはあまり君のご家族の方ですかね?」


リスズは男から異様な空気を感じ取り、返事を返すことなくじっと見つめる。


「ごめん雨音がうるさくて、質問が聞き取れなかった。 もう一度言ってくれる?」


リスズはその男があまりという名前を言いなれていないことに気づいていた。


(あまりの知り合いのクセに私の事を知らないなんておかしい。 あまりは私のことが大好きだから知り合った人物にはまず私とのツーショット写真を見せて紹介するハズだし、SNSのアイコンも私とのツーショットにしているはず。 つまり私のことを姉だと気づかない人物は知り合いではない)


リスズは頭は切れるが、少しだけおかしなところがある。


彼女は幼いころから、あまりに自己紹介するときは姉のことも一緒に紹介するようにと言いつけており、特に異性と知り合った時は必ずそうするようにと教育している。


リスズはゴウに悟られないようにゆっくりとカバンの中に手を伸ばし、防犯ブザーに手を掛ける――がしかし。


リスズの体が突然浮き上がる。


ゴウが彼女の胸倉を掴んで持ち上げていたのだ。


「思った以上に警官心が強いな。 悪いがそんな駆け引きなんてする暇ないんでな、一緒に来てもらうぞ」


「クソ! 放せ!!」


「抵抗するな」


ゴウはそういうとリスズの首を絞める。


彼女は必死に抵抗するも、すぐに気を失ってしまった。


その様子を見たゴウは、小さくためいき吐いて腕を降ろす。


しかしその瞬間、リスズはカバンの中からスタンガンを取り出しゴウの腹に突き付け、スイッチを押す。


「ぐあっ」


ゴウが手を離した隙に、リスズは防犯ブザーを取り出し、警報音を鳴らすために留め具を外そうとするのだが、ゴウは凄まじい速さでブザーを奪い取り粉々に砕いてしまった。


「小賢しい女め!」


そういうとゴウはリスズを地面に叩きつける。


強く頭をうち、視界がグラグラと歪む。


彼女は無駄な抵抗とは悟りつつ水たまりの水をゴウにバシャバシャとひっかっける。


「姉を見つけたら連れてこいっていううちのリーダーの言いつけでな、悪いがついてきてもらうぞ。 あと個人的にお前の弟に約束破られて腹も立っている」


ゴウは言いつけた時間より早くレイを呼び出すことにしたのだがメッセージに返信がなかったため、怒り、家まで押しかけていたのだった。


「お前らみたいな、はた迷惑なヤツがうちの弟に関わるな……」


リスズのこの発言はこの数分間で彼女が打ち立てた推測が元になっていた。


彼女は目の前のこの男がレーナルズの一員であると気づいたのである。


普段はネットなど一切触れていなため、知る由もないのだが、会社の後輩がレーナルズとかいうグループに夢中で、その動画を無理やり見せられたことがあった。


その中にこんな名前の奴がいたことを思い出したのだ。


そして風の噂でそのグループが炎上していることも知っていた。


男はリーダーの言いつけで自分を連れていくと言った。


つまり、レーナルズのリーダーが自分を狙っていること、そしてこのゴウという男は本来あまりに用があってここに来た事。


炎上……。


それに、あまりが関わっているとしか考えようがない。


――あのあまりが炎上するようなことをするわけがない。


つまりこいつらの言いがかりであまりが厄介なことに巻き込まれている。


そういう推論を打ち立てた上でのセリフであった。


そこまで分かったとしても、何もできない―。


ゴウは地面に落ちていたスタンガンを拾い上げ、リスズの腹部に強く押し付けると一気に電気を流す。


「ぐぁぁぁぁぁ」」


体内を巡る電気ショックに、苦悶の表情を浮かべるリスズ。


その顔を自身の脳に焼き付けるかのように、ゴウは彼女の顔を見つめる。


「――兄弟そろっていい顔するじゃねーか」


恍惚な表情を浮かべ、無意識のうちに顔をリスズの眼前まで近づけていた。


「たまんねぇなぁ」


ゴウがそう言葉を漏らしたとき――。


ブゥーンという低い音があたりに鳴り響く。


「なんだ!?」


すぐに異変に気付いたゴウはリスズから離れ、あたりを見回す。


周囲は静寂に包まれていた。


「雨が止んだのか――いや違う」


雨は確かに降っていたのだが、雨の一粒一粒が明確にわかるくらいとてもゆっくりと振っている。


まるで自分を除いたすべての時間がゆっくりと流れているようだった。


「ずいぶんと気持ちの悪い人間もいるものだ」


突然どこからかそんな声が聞こえてきた。


「だ、だれだ」


あたりの魔力を探ってみても何も感じない。


「貴様の目の前におるではないか」


もう一度リスズの方を振り向くと、そこには黒いドレスを着た美女が立っていた。


「セナが手を打ったと言ったものの、SNSとやらがよう分からん我にとっては、現状が停滞しておるようにしか見えんのでな。 我のやり方で終止符を打とうと思うてな」


「だれだお前」


美女はゆっくりと落ちてくる雨を手の平で受け止めながら空を眺めている。


「そうだな、もう死ぬわけだし、言っておいても良いか」


彼女のまるで宝石を埋め込んだような瞳がゴウに向けられる。


「我の名前はオーラ・ルヴィエッタ。 将来我の義姉となる人物を傷つけた代償……。 その命を持って払ってもらおう」


SENAのSNSでの立ち振る舞いによって、世間の流れは大きく変わったのだが、世間の反応なんてものを気に掛けたことのないオーラにとっては、何かが変わったようには思えなかった。


彼女にとって解決は、レーナルズがレイ以上に苦しみ、叫ぶように彼に謝罪をすることだったのだ。


SENAには今は下手に動かないようにと言われていたが、正直我慢の限界だったのだ。


そのため彼女は作戦など考えず、ただここら一帯の魔力からレーナルズっぽい魔力を探るという力技に打って出たのであった。


しかし、膨大な数いる人間の中からレーナルズっぽい魔力を探るのはいくらオーラでも至難の業で、結局何もできない日が続いていた。


ただ、今日は久しぶりに雨が降った。


彼女は雨雲に魔力を練りこみ、降る雨すべてに自身の魔力を混ぜ込んだのだ。


そうすることによって、その雨に起きたことを感じ取れるようになる。


魔力の高いものは、魔力を体から放つことによって雨を弾くことができる。


もちろんそれができるからと言ってそれが、レーナルズとは限らないのだが、ゴウはリスズからスタンガンを喰らって怒ったことで常人の何倍もの魔力を無意識に放ってしまった。


その結果、異様に雨粒を弾いている人物がいることに気づいたオーラは、その場所に急行したのであった。


「お前まさか、リュウトが言っていた魔女か―」


ゴウは目の前にいる女がキョウヘイの一件に関わっている魔女であることに気が付いた。


その時、ゴウの携帯に一通のメッセージが届く。


「見ても良いぞ、どうせ数分後お前は死ぬのだからな」


オーラはそう言い放ち、余裕のたたずまいで待っていた。


ゴウはゆっくりと携帯を取り出し、メッセージを確認する。


リュウトからレーナルズメンバー全員に向けての連絡だった。


〝もし、あの魔女に出会ったら俺に連絡しろ。 これは賭けだがあの化け物を封じることができるかもしれない〟




【あとがき】

遅くなり申し訳ございません。

メインで書いている作品のあいまに思いつきで書き始めましたので、投稿頻度は不定期です。

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