第8話 第二波
「――で、せっかくレーナルズの本拠地を見つけれそうな機会を逃してしまったんですねぇ~」
「違うっての! ほんとにあのキョウヘイとかいうガキが何も知らなかっただけなんだって」
とある喫茶店でネリエとオーラそしてセナは今回の一件について話をしていた。
「でも追跡する魔法を使ってその男性から本拠地を探れなかったんですか?」
「もちろんしたわよ、けどこの世界で本来の姿になるとかなり魔力を消耗するらしいの。 だから、ガキがレーナルズと接触する頃には魔法の効果が切れてたわ」
オーラは小さく舌打ちをして飲みかけのジュースに刺さっているストローを噛む。
「んー、まぁ世界によって空間に集う魔素の量も違いますからね~」
ネリエは貼り付けたような笑顔を浮かべている。
「――私ならレイさんに辛い思いをさせることなく、もっとうまくやれましたけどね~」
「熱っ」
セナの持っているアイスコーヒーが沸騰する。
「教えてくれる? 神は死ぬの?」
オーラはすごい形相でネリエを睨みつけていた。
「アンタは手掛かりすら見つけられてないみたいですけど、女神だからって調子に乗らないでくれるかしら」
「私の協力がなければ、ダンジョンには行けませんでしたよねぇ~」
火花が見えそうなほど互いのイラつきを感じるセナ。
「ちょっとまって、今日は言い合いをしに来たわけじゃないでしょ?」
セナの言葉で少し冷静さを取り戻したオーラは、ドカンと背もたれに体を預ける。
「仮とはいえレーナルズの撮影場所が分かったわけだし、これからどうするかを話合った方が良いと思う」
セナは2人とは対照的に落ち着いた様子であったのだが。
「いやよ、こいつとは絶対一緒に行動なんてできないわ」
オーラはネリエを指さす。
「私も、この方とはとても協力できるとは思えません~」
「――何でそんなにいがみ合うのよ?」
セナは頭を抱える。
「それは私が神だからです~。 神は世界を見守る役目があるのですが、彼女はその世界を破壊した魔女。 非常に腹立たしい存在です」
「そうよセナ。 だからウチらが協力とかもうそれは、絶対無理な話ってわけ」
話の規模が大きすぎて、いまいち価値観に共感できないセナ。
「――レイはどうなったの?」
いったん整理する時間が欲しいセナは、話を変える。
「傷は私の魔法ですぐ治ったわよ。 けど疲れは酷そうだから彼の家のベッドに寝かせたわ」
「――家に行ったんですか~?」
ネリエの声色が変わる。
「いちいち突っかからないでよ! 緊急時なんだからそんなの別にいいでしょ!?」
セナは少し呆れたようにネリエをなだめる。
「いいえ、セナさん。 考えてみてください。 彼女ほどの魔法使いが疲れを取る魔法を知らないわけないじゃないですか~。 それに緊急時であれば、家ではなく病院に連れていくべきだと思うんですよ~」
思わぬ正論にセナは思わずオーラの方を見ると、彼女は気まずそうに視線を右上に運ぶ。
「そ、そうね。 でも病院なんてほとんど行ったことなかったから、その選択肢が浮かばなかったのよ」
「オーラさん私との約束は覚えていますか~」
「お、覚えてるわよ! これからしばらくはレイとオフで会わないってことでしょ!?」
オーラはやけくそ気味そういった。
またひと悶着ありそうな雰囲気の中、セナの携帯に一通のメッセージが届く。
「レイ?」
その言葉にさっきまで殺伐とした雰囲気がおさまり、ネリエもオーラもセナの方を見る。
「――なんか、私たち全員に話があるみたい」
【30分後】
落ち着かない様子で時間を過ごしていた三人の元に、レイがやってくる。
「どうしたの急に? ってか体は大丈夫なの?」
「はい、もうすっかり元気です」
そういったものの、レイはどこか暗い顔をしていた。
少し息を吐いた後、何かを決心したかの様にレイは口を開く。
「皆さん、僕はもう配信活動を辞めようと思います。 今まで応援してくれて本当にありがとうございました」
「は?」
「あ、えっ?」
「……」
深くお辞儀をするレイをとんでもなく間の抜けた表情で見る三人。
「もう知ってますよね、かなりSNSで話題になってますし……」
レイは申し訳なさそうに、弱弱しくそういった。
「まさか!」
何かを悟ったセナは携帯でSNSを開く。
「――っあいつ!!」
レイはでっち上げられた情報で、炎上していた。
【あとがき】
メインで書いている作品のあいまに思いつきで書き始めましたので、投稿頻度は不定期です。
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