第7話 悪夢

「流石に殺してしまってはいかんな」


かつて世界を滅ぼした魔女オーラ・ルヴィエッタは、先ほどまで【ナイトメア】の魔法で発狂していたキョウヘイを見つめる。


キョウヘイは最初、恐怖を感じ悲鳴を上げていたが、次第に謝罪の言葉に変わり、最終的には何かよくわからない音を口から放っていた。


このままこのダンジョンに放っておけば、確実に廃人になってしまうだろう。


しかし、レイとキョウヘイが一緒にいる所を、街で見かけた人物がいたらキョウヘイが廃人になった時、レイの名前があがってしまうかもしれない。


オーラはキョウヘイに精神回復の魔法を使用する。


「――ひ、ひぃ」


暫くすると、キョウヘイの眼の焦点が合い、オーラを視認できるようになった。


「もう二度とレイに関わらない事、そして今日あったことを口外しないこと。 貴様がこの二つのことを守れるのならば解放してやる。 もし守れないのならば貴様が経験した死など極楽だったと思えるくらい恐ろしい死に方を提供してやるぞ」


すっかり、腰の抜けてしまったキョウヘイは失禁してびしょびしょになったズボンを引きずりながら、赤ん坊のようなハイハイでダンジョンの入口へ向かって行った。




「終わったぞ――あぁ、今回はアンタのおかげで助かったわよ。 ――わかった、わかった。 約束通り私はしばらくレイとオフで会わないようにするよ――クソ」


オーラは元の姿に戻ると、今回のダンジョンの情報をくれたかまぼこに連絡を取っていた。




【数日後、とあるクラブにて】


キョウヘイと同じジェノというグループに所属しているシンペイが、レーナルズの前で土下座をしていた。


「――んで、ねぇそれってウチらとの約束を反故にするってことでOK?」


アカネは携帯を眺めながら、ため息交じりにそういいった。


「い、いや違います! キョウヘイがちょっとダンジョンに潜れるような感じじゃないっつうか……」


「ダメだ。 今回のダンジョンはジェノが――キョウヘイがこないと兵隊がたりない」


シンペイの話を遮るように言い放ったのは、キョウヘイよりも二回りデカい体をもった男、ゴウだ。


「てか、ウチらとの約束破ったらどんな目にあうかわかってて言ってんの?」


アカネの問いに、シンペイは少し考えたあと答える。


「もちろん、わかってます。 そのことをちゃんとキョウヘイにも伝えたんすけど…………その…………」


シンペイは生唾を飲み込む。


「なによ?」


アカネとゴウが無言で圧力を掛ける。


「〝あいつらの脅しなんて取るに足らないと〟言い出して」


その瞬間、机の上にあった酒瓶が一つ大きな音を立てて割れた。


それに驚いてか、クラブに流れていた曲が止まり、店内は静まりかえる。


「ゴウ、キョウヘイをここに連れてこい」


先ほどからずっと沈黙を続けていたリュウトがついに口を開いた。


その一言で、ゴウは腰を上げシンペイの髪を掴む。


「キョウヘイの家まで案内しろ」





~数分後~


ゴウはキョウヘイを担いで現れ、リュウトの前へ放り投げる。


「ちょっとキョウヘイどういうつもりよ。 あんたアタシたちの約束破る上に、生意気なこと言ったらしいじゃない?」


アカネは舌打ちをする。


しかし、キョウヘイは虚ろな表情で、下を向いているだけだった。


「キョウヘイ、お前何があった?」


リュウトは笑顔でそう問いかける。


「……」


それでもキョウヘイは何も言わない。


リュウトを無視した、という事実でその場に極度の緊張が走る。


「――アカネ、チャームだ」


リュウトはキョウヘイの方へ視線を向けながら、アカネに命令する。


「え、でも人間にチャーム使うと後遺症が――」


狼狽するアカネの頬を目にもとまらぬ速さで、リュウトはビンタする。


さらに倒れこんだアカネの胸倉を掴み、彼女の体を机に叩きつける。


アカネの下敷きになった皿が割れ、その破片が彼女の背中に突き刺さる。


同時に背中を思い切り叩きつけられた衝撃で、彼女はうまく呼吸ができない。


「……はぁ、はっっはっ、まって、やるから」


息も絶え絶えにそういう彼女にリュウトは微笑む。


「早くやれ」


アカネは背中から赤い糸をひかせながら、起き上がると、キョウヘイの目を見つめ、チャームを唱える。


キョウヘイの体は一瞬ピンク色を纏う。


「……あなた一体何があって私たちとの約束を破る気なのよ?」


アカネのチャームはとても強力で、その魅了を受けた人間はたちまち彼女の奴隷となってしまう。


「おれ……おれは、だ、だんじょんで」


キョウヘイはカタコトながら少しずつ言葉を紡ぐ。


「れ、れ、れれれれれれれれれれれれれれれ」


しかし突然壊れたコンピュータかの様に同じことを繰り返す。


「な、なに!? ダンジョンでなにがあったっていうのよ」


「う、うわっぁぁぁぁぁぁぁぁぁごめんなさぁぁい]


キョウヘイは泣き出し首を左右に小刻み振って謝り始めた。


「アカネ! お前のチャームでこんなことあるのか!?」


冷静さを保っていたリュウトもこのことには動揺し、声を荒げてしまう。


「ちゃ、ちゃんとかかってるわよ! こんな反応、私も知らない」


アカネは髪をグシャグシャにかき乱す。


「チャームをはねのけるほどのトラウマを植え付けられているのかもしれないな」


ゴウは眉間に皺を寄せる。


「どけ!」


リュウトはアカネを押しのけ、キョウヘイの頭を掴む。


「【盗視】」


キョウヘイの記憶を盗み見る。




その記憶はとても断片的で、場面が飛び飛びで再生されている。


そこにはレイが映っていた。


「あいつ、あいつが何かしたのか」


そこにはもう1人女が映っている。


しかし、その女はぼやけていてよく姿が見えない。


「この世界にはオモシロイことばがあるのだな」


女はキョウヘイに話しかけているようだ。


リュウトはその女の次の言葉を待つ――そして。


「〝深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ〟というな」


彼女は突然目の前に現れ、互いの眼球がくっつてしまいそうなほど近かかった。


この女は記憶を覗くリュウトに語り掛けていたのだ。


「あぁ!」


リュウトはその恐ろしい光景に腰を抜かしその場に崩れ落ちる。


「な、なに、何が見えたの!?」


リュウトはそんなアカネの言葉など意にも介さずキョウヘイの肩につかみかかる。


「お前は一体なにに関わったんだぁ!!」


しかし、キョウヘイはチャームの後遺症で廃人の様になってしまっていた。


リュウトは呆然として、ダランと両手を下げる。


「俺たちは、一体何に関わったんだ」



【あとがき】


メインで書いている作品のあいまに思いつきで書き始めましたので、投稿頻度は不定期です。

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