第4話 オフ会②→お持ち帰り
「ちょっとまって。 その自己紹介本気?」
セナは2人の自己紹介が嘘としか思えなかった。
「本気本気、嘘つくならもっとマシなの言うわ」
「私もほんとですよ~」
2人の様子から察するに本当のことを言っているみたいだ。
「正直、100%は信じられていないけど・・・わかったわ」
セナはビールを飲み、自身を落ち着ける。
「ねぇ、2人はさレーナルズに仕返ししたいって思ってる感じ?」
魔女のオーラは少し真面目な顔つきでそう尋ねる。
「もちろん、許せないですよね~」
「私もあいつらには一泡吹かせてやりたいって思ってる」
ネリエもセナもややる気は十分だった。
「それさ、私に任せなよ」
オーラの言葉に動きを止める2人。
「ゴン太、アンタはさ、この世界の人間だし家族とかさ大切な守らなきゃいけない人間がいるでしょ。 かまぼこは、女神だから天界のあれやこれやのルールに引っかかったりするんじゃない?」
その指摘には何も言い返せない2人だった。
「私はこの世界に身内もいないし、厳しいルールに縛られているわけでもないから。 もしもの時に失うものがないんだよね・・・だから――」
「いやちょっとまってよ、そんなの――」
セナが反論しようとした時、レイがトイレから帰ってきた。
なんだか、気まずい瞬間にまた立ち会ってしまったのか俺。
「あ、おかえり~」
そのあとはマジカルOLさんが場を仕切り始め、いい雰囲気でオフ会は進んだ。
【数時間後】
「だぁかぁらぁ・・・おれはぁ、みなさんいあえて・・よかっだぁぁ‼」
俺は完全に出来上がっていた。
もともとお酒は弱い方で普段から飲まずにいたのだが、今日はあの一件を忘れるかの様に飲みまくっていた。
「ちょっと、レイあんた飲みすぎよ!」
ゴン太さんに肩を叩かれるが、俺は机に突っ伏したままだった。
「そろそろお開きにしましょうかー」
かまぼこさんが、そういって帰り支度を始めたあたりで、俺の意識は途絶えた。
「・・・ていうか、あんたらほんと酒強いね」
「アンタ達もね」
「そうですね~」
三人は、何かをけん制しあうかのような視線を送りあう。
(どさくさに紛れてレイを持ち帰りたかったのに)
(レイがお酒弱いの知ってたから介抱して、そこから・・・って考えてたのに)
(レイさんをお世話したかったわ~)
三人が三人とも、酒豪であったので酒の席でラッキーを期待していたのであった。
「おぇはまだかえらないぞぉぉぉぉぉぉぉ!」
突然レイがそう言ってジョッキを掲げる。
「・・・いやいや、今日はもう家に帰らなきゃ」
セナはそういって、レイの背中をさする。
「いやぁだぁ、今日は帰りたくない!」
子どもの様に駄々をこねるレイに思わず微笑んでしまう三人であったが――。
「だれか・・・いえにとめて・・・」
その一言で空気が凍る。
「・・私、この世界に身内いないし、結構いい家住んでる」
オーラはぽつりとそうつぶやいた。
「はぁ? アンタまさか本気で――」
「私は・・・保育士ですから、こまった子の面倒見るの得意ですぅ」
オーラに続きネールまで何かを訴えるように、そう言った。
「ちょっとちょっと二人とも息荒いんですけど、酔っぱらいの言葉を真に受けちゃダメでしょ」
っと言いつつセナもどこかソワソワした様子だった。
「レイももう大人なんだし、自分の発言には責任を持つべき・・」
「・・・だぁれも、とめてくれないの?」
レイが顔だけを上げたそういった。
見たことのない幼子のようなその表情は三人の母性本能を爆発させるのに、十分であった。
セナは何も言わずスッと立ち上がり、今までにないほど真剣な表情になる。
「じゃんけん」
「んじゃあ、2人ともまたねー。 レイは私が責任もってお世話するから」
オーラはタクシーにレイを詰め込みながらそう言った。
「おかしい、あんた何でそんなじゃんけん強いのよ」
セナもネールも笑顔で手を振ったがその眼は笑ってはいなかった。
「普段の行いかしら? じゃまたねー」
オーラは2人に投げキッスをしてタクシーに乗り込んだ。
乗り込んで運転手に行先を伝えると、横に寝ているレイの顔を凝視する。
「やっば」
推しの寝顔をこんな間近で見ることができるなんて。
かわいい、かわいい、くぁあわいいいい!
タクシーの運転手がいるので全力ではないが、確実に限界化を迎えていた。
――あっという間に目的地に着いた。
「釣りはいらねぇ」
オーラは一万円札を渡すと、レイをおんぶしてその場を去った。
「やばい、推しが推しが私の背中で寝てる」
レイの体温を背中全体で感じながら、耳で寝息を聞く。
レイの心臓の鼓動を感じて、自身の心臓はその倍くらいの速度で動いていた。
(これってもしかして、ある・・・・あるのか!?)
オーラは頭をフル回転させ、そういうことになった時のために、シュミレーションを繰り返す。
なんだかいい匂いがする。
まるで天日干しした後の布団にくるまっているかのような、心地のいい温かさを感じる。
・・・・・誰かにおんぶされてる?
薄く紫がかったその髪が頬に触れ、ぼやけた視界が少しづつ明瞭になっていく。
「マジカルOLさん!?」
俺は彼女におんぶされていた。
「あ、おきた?」
彼女はなんとも動揺していな様子であった。
「どうしてこんなことに!?」
「レイが誰か泊めてっていうからでしょ?」
え・・・・あぁ、なんかそんなこと言ったような気もする。
「わわ、悪いです! そんな女性のお家に泊めてもらうなんて」
「家主がいいって思ってんだからいいの!?」
「いやでも――!」
するとマジカルOLさんは頭を上にあげ俺のおでこに頭突きする。
「私だってそれなりに君の配信見てきたし、君がそう簡単にリスナーに会うような性格じゃないって思ってる。そんな君がこいうことするのって多分相当傷ついてるのよ。 だから甘えなさい私達に 」
――その通りだ。 今までの自分ならリスナーだからと言って、簡単に会ったりはしない。
会いたくないわけではないが、会ってしまったことでいつものリスナーと配信者という関係が崩れてしまうことが怖かったからだ。
リスナーは友達ではない。
友達だと思うときっと俺は甘えてしまうから・・・・。
でもそんな考えを覆してまうほど、今回の一件に俺はまいってしまっていたのだろう。
優しいな皆さんは。 こんな俺を応援してくれて、初めて会ったのに家にまで泊めてくれて。
もしかしたら一線を越えてしまうのではないか、とか下劣なことを考えていた自分が恥ずかしい。
「ありがとうございます」
俺の声は少し震えていた。
「私こそ……あなたがいてくれたから――」
「え?」
「なんでもない、ほら着いたよ」
マジカルOLさんが何かを言いかけたのが気になったが、彼女の家を見てその考えはどこかへ飛んで行ってしまった。
「でっっっっっっっかぁ!」
目の前にあったのは、首が痛くなるほど見上げないとてっぺんが見えないほどの高層マンションだった。
「えぇ、ここって・・・」
「私ん家」
お、お金持ちだぁ。
配信上で俺が何かのお祝いをするたびにめちゃくちゃ高そうなのをプレゼントしてこようとする理由が分かった。
もちろん全部断ったが。
「私の部屋ここの最上階だから」
さ、最上階!
「あ、ちょっと部屋片づけるからまってて」
そう言ってしばらく待たされたあと、俺は彼女の豪邸に入った。
マジカルOLさんの部屋の窓から街を一望する頃には、俺の酔いは完全にさめてしまっていた。
「疲れたでしょ、私のベッド使っていいから今日はもう寝ちゃいなさい。 私はソファで寝るから」
「そんな、俺がソファで寝ますよ」
「いいわよ、別に一日くらいソファで寝たって変わらないわ」
「いや、こんな図々しく上がりこんどいてそんな――! 俺はこのクローゼットの中でだって――」
「やめて!!!!!!!!!」
彼女は今まで聞いたことのないほどの大きな声でそう言った。
「もしその中を見たら、私世界を破壊する」
もちろん冗談だろうが、そんなことを言うほどの大切な何かが入っているのだろう。
「すいません・・・」
その後は、眠り支度を済ませふかふかのベッドで眠らせてもらった。
【深夜】
静寂の魔法を自身にかけて、オーラはレイの眠る寝室へと入る。
「本当に怖いことしてくれるわね」
あのクローゼットの中には、オーラ自作のレイグッズが入っている。
100体近くあるレイ縫いぐるみ、彼の活動記録を記したノート、抱き枕、レイが自分に言ってくれた言葉をまとめたノート。
それらをもし見られたりしたら、本当に世界を破壊していただろう。
「あぁぁぁぁぁ! かわいい寝顔」
どんだけ叫んでも静寂の魔法により、レイに聞こえることはない。
「確かこういうのをこの世界の言葉で、据え膳っていうのよね」
レイの髪を撫でる。
「や、やわらかい。んじゃ次は」
キスをしようと顔を近づける。
心臓が今までにないほど跳ねている。
オーラは何百年と生きている魔女であるため、もちろん男性とのそういう経験はあるものの、それらはほぼすべて暇つぶし程度にするだけだった。
「こんなにドキドキするのは何年振りだ」
レイの匂いがどんどん強くなる・・・・。
あと、数センチで唇にと届く――。
「キミに逢いたいよ――――――」
「ひゃあ!」
レイの突然の寝言にオーラは思わず叫んでしまった。
「逢いたい・・・・」
邪魔されてしまったが、その寝言は聞き捨てならない。
再びレイの顔を覗き込み、その寝言の続きを待つ。
(逢いたいってもしかして、レイに好きな人が!? 嘘、彼のやってるSNSの全部の投稿見てるけど、女の影なんて・・・。 もしかして、わたし!?)
オーラは息をのむ。
「キミに逢いたいよ・・・ピート」
(ピートってあのスライム!?)
「……ぷっ、あははははははは」
オーラはその答えに思わず吹き出してしまった。
「そっか、そうだよね。 だから私、君が好き」
レイのその気持ちを知ってしまった以上、手を出すのはナンセンスだ。
そう思った彼女は最後の抵抗としてレイの匂いを満足いくまで嗅いで、ソファへ向かった。
朝目が覚めると、リビングに朝食が用意されていた。
マジカルOLさんはそれを用意した後、またソファーで寝てしまったようだ。
「長居するのも迷惑だろうし、さっさと済ませよう」
朝食をとった後、丁度目を覚ましたマジカルOLさんにお礼を言って家に帰ることにした。
帰り際に、久しぶりに携帯を見たのだが、姉から鬼のように電話が来ていた。
俺〝今日は知り合いの家に泊まるから、寝てていいよ〟
姉〝ふーん、あっそ。 友達?〟
俺〝うん〟
姉〝男?〟
俺〝女の人〟
うーん、メッセージのやり取りを見ても別にそんな心配かけるような内容だっただろうか。
「お邪魔しました!」
俺は携帯をポケットに入れ、家を出た――――その時だった。
「あれぇ? お前どっかで見たことある顔じゃん」
声のするほうに顔を向けると、派手な服を着てアクセサリーをジャラジャラとつけた筋骨隆々の男が立っていた。
両脇には派手めな2人の女の人がいる。
「誰コイツ?」
女の人は俺に冷たい視線を向けてそう言った。
「お前知らないのかよ。最近レーナルズさんの動画でコイツ、バズってんだぜ」
俺はこの人を知っている。
この人はグループで動画投稿や配信をしているジェノというグループのリーダー、キョウヘイという男だ。
レーナルズとよくコラボしており、親交が深い。
「ってか何でお前みたいな底辺が、このマンションにいるわけ?」
俺は委縮してしまい声が出ない。
「え、なんかキモくない? コイツ」
女性二人は眉をひそめる。
「あ・・・あの・・お、俺は」
相手はレーナルズではないが、その後ろに彼らがいると考えると、あの時の記憶がフラッシュバックする。
「おいおい、配信者なんだろ? 俺らみたいに芸人並みのトーク力がないとトップ取れないぞぉ」
「マジそれ」
「キョウヘイのトーク、マジそこらの芸人よりおもろいかんね」
・・・声が出ない。
「おーい、てめぇシカトこいてんじゃねぇーぞ。 俺は選ばれし攻略組だからお前なんか魔法で一捻りだぜ」
キョウヘイは首の骨を鳴らしながら、俺に近づいてくる。
「レイ! ウチに携帯の充電器忘れてるわよ」
マジカルOLさんが突然、ドアを開けてそう言った。
「あら、アンタら誰? レイの友達?」
【あとがき】
メインで書いている作品のあいまに思いつきで書き始めましたので、投稿頻度は不定期です。
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