第3話 オフ会①

オフ会をするのは聞いたことのないオシャレな名前の喫茶店だった。


もちろんデートの経験など一度もない俺は、恐らく迷うだろうと不安だったのだが、それを察してかゴン太さんが先に駅前に待ち合わせてから一緒に行こうと言ってくれた。


正直かまぼこさんもマジカルOLさんも女性らしいので、緊張していた。


だから先にゴン太さんと会っておけるのはありがたい。



駅に着いたのでゴン太さんに連絡すると彼は先についていたようだ。


しかしゴン太さんが指定してくれた場所付近に着いても、彼は全然見当たらなかった。


ゴン太さんは見当たらなかったが、一際目を引く人物がいた。


スラっとしたスタイルにマスクをしていて口元は見えないが、顔も物凄く美人であることがわかる。


そして何より隠し切れないオーラがあった。


道行く人たちが男性も女性も関係なく振り返り、彼女をチラチラとみている。


「どうしよう。 ゴン太さんが指定した場所ってあの美女がいる所だよな・・・」


俺みたいなダサい男が隣に立ったら不審者と疑われないだろうか?


でも、ゴン太さんもきっとどこかで心配して俺のことを探しいるに違いない。


俺はできるだけ目立たないように、静かにその美女の居る場所の隣に立った。


周りの視線が俺とその美女を比べているように見えて勝手に疲れてくる。


早くゴン太さん来てくれないかな。


俺はいくつかのメッセージをゴン太さん送る。


「ちょっと・・・」


急に隣の美女から話かけられて、ドギマギする。


「お、俺っすか!?」


「アンタ以外誰に話かけるのよ」


美女はジト目で俺の方を見る。


そして美女はしばらくの間、俺の顔を見ていた。


「あの・・・何の御用でしょう?」


「私、ゴン太なんだけど。 あんたがレイよね」


え、ええええええええ!


お、女の人だったのか。


「あ・・・あの」


「なによ?」


「ゴン太さんがこんなにキレイな人だったとは思わなかったので・・・」


「はぁ!? アンタ初対面で何言ってんの!」


その声はゴン太さん自身も予想外だったらしく、ヤバッと言った表情で手で口を抑える。


「ねぇ、あれってやっぱりセナだよね」


「えぇあれセナか」


「うわ、やっぱすげー美人だな」


「隣の男はなんだ、彼氏?」


「うそうそあんなの釣り合わないだろ」


ゴン太さんの声に比例するかのように周りの声も大きくなっていき、人が集まってくる。


「ほ、ほらさっさと行くわよ」


ゴン太さんに手を取られ、俺たちは走ってその駅を後にした。





駅から数分歩いた、正確には小走りしたところにその喫茶店はあった。


隠れ家チックな雰囲気なので知る人ぞ知るというお店なんだろう。


お店に入っても無言を貫いていたゴン太さんだったが、俺も頭が混乱しており質問が言語化できない。


彼女は店員さんに待ち合わせているという旨のことを伝えると、奥の個室へ通してくれた。


今気づいたが、ここ結構高そうだぞ。


男として皆さんに奢る気でいたが、割り勘でも大丈夫だろうか。


そんなことを考えていると、いつの間にか個室のドアの前にきており、ゴン太さんが今にも開けようとしている。


この中にマジカルOLさんとかまぼこさんが・・・。


「あ、はじめましてぇ~。 マジカルOLでーす。 普段はOLやってま~す、よろしく」


「初めまして、かまぼこですよ~、普段は保育士やっていますよ~」


そこにはゴン太さんにも引けを取らないほどの美女が座っていた。


バチっとメイクを決めて大人な雰囲気のあるマジカルOLさん。


やさしくてほわほわとしたような笑顔で出迎えてくれたかまぼこさん。


みんなすごく綺麗だ・・・・。


「レイ、ここに座りな」


マジカルOLさんは自分の横の座布団をポンポンと叩く。


「あらあら、こっちでもいいですよ~」


マジカルOLさんの対面に座っていたかまぼこさんも自身の隣の座布団を手でさする。


「ちょっと、私が一番レイと付き合い長いんだから、私の隣になるようにしなさいよ」


ゴン太さんがすかさずそういった。


あれ、なんだか空気がピりついている。


「二人がそういうなら、じゃあレイに決めてもらおうか」


マジカルOLさんによって恐ろしい選択を迫られる。


「え、えっとじゃあ・・・・」



じゃんけんという神が造りしたもうた最強の魔法で公平に決を採った。


その結果、マジカルOLさんの隣に座ることとなった。


「ちょっと、くっつきすぎなんじゃないの?」


「え? そんなことないでしょ、それにレイだって嫌がってないみたいだし」


ゴン太さんの指摘を意にも介さず、マジカルOLさんは腕を組んでくる。


フワッと香るいい匂いが、胸を高鳴らせ、その大きな胸が当たるたびに声が出そうになる。


「あ、照れてんの。かわいい~」


うっすらと紫がかった髪が俺の右腕を覆う。


「ちょっと、ストップ」


ゴン太さんが俺とマジカルOLさんの間に手をねじ込んでグイっと離す。


「マジカルさん。 はしたないですよ」


かまぼこさんは笑顔だがその声は笑っているようには見えなかった。


「あ、あのこうして俺なんかのために集まってくれてありがとうございます。 いっつもみなさんが応援してくれるから俺は今も活動を続けてられるんです」


空気が重くなるのを察知した俺は、そうなる前に一番伝えたいことを伝えた。


三人は俺の言葉を聞いて微笑み、空気は少し軽くなった気がする。


「っていうか、まずさこうやって集まることになった経緯を知りたいんですけど。 私とかまぼこは知らないわけじゃん」


そういえばオフ会の話になってから、いろんなことが結構な早さで決まったので、どうしてすることになったのかという話はしていいなかった。


「あの、決して楽しい話ではないので・・・あ、あと俺はもう別に気にしてないので――」


「いいから、さっさと話しなよ」


まごつく俺にゴン太さんが優しい口調でそう言った。


そして俺は今まであったすべてのことを話した。




今回は泣かずにちゃんと話すことができた。


我に返ってふとかまぼこさんとマジカルOLさんの方を見たら、2人は神妙な面持ちで黙っていた。


「ふーん、そんなことがあったんだ」


「あらあら、大変でしたね」


よかった、意外と二人ともそこまで重くなってない。


今回初めて会ったんだから、せっかくなら楽しくおしゃべりをしたかったので2人が重くなってしまったらどうしようと心配していた。


「――なんだ?」


突然俺たちの個室を照らす照明が点滅をはじめ、ジジジという奇妙な音をたてはじめる。


さらに次の瞬間には、かまぼこさんが持っていたグラスにピシッとヒビが入る。


「そうか、そうだったんだぁ」


「あら、グラスが・・・」


暫くすると照明の点滅は止まった。


「あ、あの――」


俺が気まずい雰囲気を何とかしようと俺が声を出した瞬間、突然お腹に激痛が走る。


こんなきれいな人たちとしゃべったことなんて人生で一度もないし、そしてその人達に自分の話を聞かれているという極度の緊張から、俺のお腹はSOSをだしてきたようだ。


「すみません、ちょっとトイレに」


俺はダッシュでトイレに向かった。




レイがトイレにいったことにより、そこには女性三人が残った。


「今の話聞いてどう思った」


ゴン太は2人に問いかける。


「・・・許せないわねそいつら。 ぶっ殺してやりたいわ」


「確かに、とても醜い人間です」


2人の声にはゴン太の想像以上に怒りがこもっていた。


「あ、あのさ。もう一度自己紹介しない?」


ゴン太は分かっていた、この二人には何か隠し事があると。


「なんで、最初にしたじゃん」


「いや、実はさアタシ。セナって名前でいわゆるインフルエンサーやっててさ、まぁそこそこ有名なんだよね。 でアタシ魔力の素養もあって魔力を感じれるんだけど・・・・アンタ達から感じる魔力の量が半端ないんだよね。 魔力高いって自慢してくる配信者とか動画投稿者とかと絡んだこと結構あるんだけど、アンタらは別格っていうか・・・なんか次元がちがうんだよね」


初めて会った時から何だかそんな予感はしていたが、予感が確信になったのはレイが自身に起きたあの最悪の一件を話したときからだ。


2人から感じられる魔力がトンデモない量になっていたのだ。


「あぁ、だからもう一回。 本当の自己紹介をしろってことね」


そういったマジカルOLはかまぼこと何かをアイコンタクトする。


「私の名前はオーラ・ルヴィエッタかつて世界を滅ぼした魔女。 この世界では東雲 しずくとして普通のOLをやってるわ。ちなみにレイは私にとって最推し、結婚したい」


「私の名前はネリエ・ネール。ダンジョンをつかさどる女神で、いくつかダンジョンを管理してますよ~。 私にとってレイさんはずっと一緒に暮らしてお世話してあげたい人かしら~」


想像以上の自己紹介に、100万越えのフォロワーを持つセナであっても呆然としてしまった。




【あとがき】

メインで書いている作品のあいまに思いつきで書き始めましたので、投稿頻度は不定期です。

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