第3話 『何回も少女を食べてきた』 作:月宮雫

 大丈夫。俺はこの方法で何回も少女を食べてきた。今回もうまくいくはずだ。

「どうしてお口が大きいの?」

 来た。ついにこの時が来た。俺は口の端を釣り上げてにんまりと笑った。

「それはね、お前を食べるためさ!」

 そう言ってベッドから飛び出し赤ずきんに襲い掛かる。頭から食らうつもりだったのに、

 おばあさんの帽子を深くかぶっていたせいか、俺が噛みついたのは赤ずきんの肩だった。

「ところで」

 俺が肩に噛みついているのに、赤ずきんは先ほどと変わらぬ声色で続けた。

「どうして私の頭巾は赤いのか知ってる?」

 ゾッとして、何とか黙らせないといけないと思って、俺は赤ずきんの喉を狙った。

「それはね、あなたのお腹の切れ目を何度も通ったからよ」

 それだけ言って、喉から血を吹き出し絶命した赤ずきんの表情を俺は見なかった。襲っているのは俺なのに、まるで何かから逃げるように、俺は必死に赤ずきんの体を全て胃に収めた。

 流石に腹がいっぱいだ。腹をさすると、指が何かに引っ掛かる感触がした。見ると、お腹に雑な縫い目がついている。まるで普段裁縫をしないやつが急いで縫ったような。

 なんだ、これ?


 冷たさを感じて目を覚ます。何が起きた!? そうだ、俺は、おばあさんと赤ずきんを食って、腹が膨れたら眠くなって、それでそのまま眠っていたはずだ。なのに、何故か俺は今川の中にいる。どういうことだ。寝ている間に誰かに川に放り投げられたのか? 息ができない中必死にもがくが浮かび上がらない。普段の俺なら泳げるのに、まったく体が浮かない。まるで、知らない間にお腹に石でも詰められたみたいだ。意識が遠ざかる直前、水の中でぼやけてよく見えなかったが、自分のお腹に雑な縫い目が見えた気がした。


「まずい! 寝ていた」

 おばあさんのふりをして赤ずきんを待つ間、狼だとばれないようにおばあさんの帽子を深くかぶりベッドにもぐりこんでいたせいだ。うっかり寝てしまっていた。

 後はこのまま赤ずきんが来るのを待つだけ。

 大丈夫。俺はこの方法で何回も少女を食べてきた。今回もうまくいくはずだ。

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ショートショート『赤ずきん』 名古屋大学文芸サークル @nagoyaunibungei

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