第24話 カタ回①
「死ね!
急激に冷やされる空気。
周囲の温度は想像を絶する速度で下がる。
摂氏20℃ほどはあった温度が瞬時に-220℃まで下降。
すると空気は文字通り固体化し、凍てつく。
凍てついた空気は針を生成し、爆発的な速度で成長。
幾多もの針は薔薇の棘の様に対象に刺さり、貫通する。
生成された針は猛威を振るい、あたり一面に満ちていた筈の雑魚を一掃した。
しかし、その身を貫通されようとも涼しい顔をする
効いていないわけではない。冷気への耐性は無い様できちんと今の攻撃で生成された冷気はその肌を焦がしている。
さらに、副産物的に生成された針はきちんとその身を貫いている。
それでも致命傷とならないのはその余りある魔力を逆放出して冷気を多少なりとも軽減しているからである。
また、見たところダンジョンボスの魔力すら圧倒してしまいそうな魔力量を用いて再生まで行っているようだ。
細胞が再生し、膨張し、貫いた筈の針を砕いている。
驚くべきの再生速度だ。
その再生能力と魔力の逆噴射によりブライトネスの攻撃を無効化しているようだ。
気合を入れた攻撃が効いていない事を確認し、ブライトネスは顔を顰めた。
「チッ!化物みたいな再生速度がッ!」
舌打ちし、もう一度同じ攻撃を、さらに魔力を注ぎぶつけようとした。
が、次の瞬間乗宮に飛びつかれ、地面に押さえつけられる。
「危ない!」
頭上を
そして、通り過ぎた触手はいともたやすく乗宮の張った五枚の防御結界を割いた。
パリン
あっけなく結界が割れる。
その光景を見て全身の毛が逆立つ。
乗宮の防御結界は彼女自身が持つ別格の魔力にて成立している。魔法耐性だけでなく、防御耐性にも高い値を示すそれが五層あったのだ。
しかし、それら総てが叩き割られてしまった。
今の攻撃が直撃していたら間違いなく絶命していただろう。
「うッ!ゴホッ!」
苦しそうな表情を浮かべ乗宮が血を吐いた。
「大丈夫ですか!?」
「う、うん。大丈夫。でも、今の防御結界を割られたせいでスキルに魔力出力が引っ張られて焼き切れたっぽい。もう、シールドは張れない。だから気を付けて」
ゴホゴホと苦しそうに血を吐きつつ乗宮はそう告げた。
「すまない!」
迂闊だった。
攻撃にリソースを割きすぎて相手の動向を観察している余裕がなかった。
もう少し警戒せねば。
敵はS級である彼女を殺した存在なのだ。
なればこそ、その攻撃は致命的なものに決まっているのだ。
それを裏図けるようにヤツは乗宮の防御結界をいとも容易く叩き割った。
「うおおおお!!!」
自身を奮い立たせ、敵に切りかかる。
今度は脳のリソースをあまり割かないために冷気の範囲を縮小。
そして、それらを剣のみに纏わせる。
「
一閃。
剣を水平に薙ぎ、胴を切る。
冷気による粉砕と剣による切断の両方の属性を持った恐るべき攻撃。
冷気の範囲を縮小したと言っても、魔力量自体はより上乗せされており、純粋にその威力を増幅し凝縮しているのだ。
本来、彼はこのような技を使用しない。
普通ならば最初の冷却攻撃で大体の魔物が屠れるのだ。
まあ、例えそれで死ななくとも肉体が凍てつき割れることで絶命する。
そんな彼であったためあまり攻撃の範囲を絞るなどと言う技は用いてこなかった。
スキルが優秀過ぎるため小手先でどうこうするという発想を実行に移さないというのはS級スキルを保有する者であるが故の宿命なのかもしれない。
しかしながら、土壇場にて彼は自覚する。
目の前の魔物は自分よりも強い、と。
故にまた自覚する、勝てない、と。
だから小手先を工夫するという発想に思い至る。
ただし、初めての事であったためあまり複雑な物は出来ない。
しかしそれでも彼は元のスペックが高いのだ。例え簡単な小手先の工夫であっても相乗効果でより威力を発揮するようになる。
そんな彼の一閃が敵に触れた瞬間、恐ろしい速度で肉が凍り付き、物理攻撃として剣が凍てついた肉を砕く。
胴が崩壊し、崩れ落ちる
「ハア、ハア、やったか?」
今の攻撃は、攻防優れた必殺の一撃。
一時的な魔力出力限界に達するまで自身の魔力を振り絞り、息途切れ途切れになる。
流石に死んだだろう、と思った。
「イタ、イ、クル、シ、イ、ヨ?」
しかし、全力の攻撃を受けてなお
崩れた歪な胴体をホラー映画かの様な不気味な触手で繋ぎ合わせたのだ。
異常な回復速度であった。
ちゃんと冷気で切断面を凍らせ再生を鈍くさせたつもりだった。
ただ、それでも無理やり繋ぎ止め再生している。
ブライトネス、乗宮、そしてそれを見守る他の冒険者たちは皆絶句した。
「──勝てない」
誰かがそう言った。
絶望の空気が流れた。
そして、次の瞬間、
血の華が咲いた。
「ガハッ!」
触手がブライトネスの腹を貫いたのだ。
無機質な石の床に血が飛び散り、彼は気を失いかけた。
「ツヨイ、ニク、オイシソウ」
言葉から察したのか、乗宮がその手に防御結界を纏い、殴りかかった。
「やめろ!ブライトネス君は死なせない!」
が、しかし。
「グッ!」
彼女はもう限界だった。
彼女のスキルはS級の物でもかなり上位のスキル。
それは、防御結界の強化、複製というモノ。
しかしながら当然強い力には相応の代償があり、それは深刻な程必要とする魔力出力量であった。
人間は、その体から魔力を放出するために毛穴を用いる。
そして、魔力はその毛穴を通るため、限界まで魔力出力を高めると毛穴が割け、血が垂れるのだ。
ドバドバと彼女の全身の穴と言う穴から血が流れ落ちる。
殴るために振り上げた拳は途中で止まり、彼女は地に伏した。
ただ、拳を振り上げたことで
その隙にブライトネスは触手をなんとか切り落とし、地面に落ちる。
そして貫通した腹から血を垂れ流しながら涙を流した。
「なんで、なんでだよッ!なんで、なんで……」
憤怒に意識を染め上げ、理不尽に嘆いた。
しかし、彼はそれが無意味な事であることを知ってる。
だから涙ばかりが流れ落ちる。
▲▼▲▼
世の中、理不尽ばかりだ。
何故、奪われた人間は奪われたままなのか。
何故、愛しい人ばかり離れていくのか。
何故、自分はこんなに苦しいのか。
両親はあの首都崩壊を生き残ったが、後の経済危機の煽りを受けて経済的に家庭崩壊し、離婚した。
大好きだった人は離れた。
彼女はあの首都崩壊を生き残ったが、ダンジョンに怪物の手によって今も苦しんでいる。
愛した人は遠くに逝ってしまった。
どうして、いつも、いつも自分ばかりが、大好きな人ばかりが理不尽を被らねばならないのか。
分からない。
S級の力を得たとしても、彼らを守るには遅すぎた。
もう、何もかも遅いのだ。
何故、自分は生きているのだろう。
ただただ、虚しい。
もう自分には何も残っていないのになぜ生きているのだろう。
それに、彼女を救う力も持ち合わせていないのだから笑うしかない。
本当に、虚しい。
夢に彼らの姿は見るが、もう現実で見ることは出来なくなってしまった。
彼女の笑う姿も、泣く姿も、悔しがる姿も、怒る姿も……。
いつからだっただろうか、苦しさを紛らわせるために酒を飲むようになったのは。
彼女の姿が脳裏に過るたびに苦しくなって、酒を飲んでしまう。
自分が生きる理由とは?
彼女も救えないのに?
苦しいだけなのに?
死にたい、死にたい、死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい……
しかし、無情にも世界は回る。
「俺が、無力なばっかりに!彼女を救えない…………なんで、なんでだよ!」
口の端から血を流し、彼は願った。
「頼む……頼むから……」
最早彼の意識は途切れかけていた。
「お願いだ、誰でもいい、天使でも悪魔でもいいから……」
遂に彼の意識は闇に落ち始める。
「本当に、たった一度だけの願いだ……彼女を、救ってくれ……」
そして、動かなくなった。
迷宮に静寂が満ちる。
後に
最早エクストラボス討伐は絶望的であった。
だが、しかし、彼の願いは届く。
ドガアアアアアアン!!!
凄まじい衝撃がダンジョンに響き、土埃が舞う。
やがて、土埃が落ち着き、中から黒髪の少女が現れた。
「セーフ!間に合った!」
赤眼の少女はそう言い、
「お前がブライトネスさんを……俺が相手してやるよ」
悠然と薄ら笑いを浮かべた。
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明日こそ、本当に完結する。
これはマジ。
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