第22話

「さて、諸君。これより作戦会議を始めます」

 

 大きなキャンプ内にて、ブライトネスさんはパーティーメンバーの前に立ち、会議を始めた。


「……ダンジョンマスターからの命令ですが、これより先を配信で映すことを禁じます。勿論、討伐中も禁止ですからね」


 これは、俺に言っているのだろう。

 今回の腐敗の悪夢カルナイア討伐隊に参加するにあたって配信をしても良いか確認したが、途中までならOKとの事で今まで映していた。 

 しかし、どうやら今から話すものを映すことは不味いようだ。

 という訳でカメラの電源をOFFにする。

 

「……ありがとう。最初に訊きますが、諸君は腐敗の悪夢カルナイアの能力について聞いていますか?一応説明しますが、奴の能力は”支配”であると推測されています」


 腐敗の悪夢カルナイアの能力、ないし情報は以下の通り。


 1 群れで行動し、頭がある個体が長。

 2 支配の能力は群れの長が操っている可能性が高い。

 3 群れの長を殺せばスキルや魔法の法則から支配が解かれる。

 4 群れ自体が戦力で、物量で押される。

 5 長の戦闘力は未知数


 以上の事が説明された。


「では、以上の事を踏まえて作戦概要を伝えます」

 

 そして、作戦の内容は語られた。



▽▲▽▲


「おい、本当にこんな隊列で行くのかよォ」


「ええ、本当にこれで行くらしいです」


 山口は不満げな表情を浮かべ、歩む。


 ブライトネスさんの説明では腐敗の悪夢カルナイアはその配下を用いて質量攻撃を行ってくるらしい。

 最初は正面で戦っていても、相手は超多数であるためいつの間にか後ろに回られている。そして、後頭部をガツン、とされて終わる。

 まあ、当たり前の事ではあるが人間には後ろに目が付いていないという重大な欠点があるから仕方ない事であるのだが。

 

 そんな重大な欠点を人間は持つため、俺たちは後ろを守らねばならない。

 故にこれを達成するためにこの様な三角形型の隊列となっているのだ。

 今は腐敗の悪夢カルナイアの発見の為に全員前を向いて歩いているが、戦闘態勢に入ると三角形の中心を背として、背後を守るのである。


 さらに、この隊列には別のメリットがある。

 それは先鋭化している事。

 先頭が敵の群れに切り込み、殺り損ねた個体を後ろの右翼、左翼の隊が処理する。

 その様にして効率的に敵の処理を効率化することが出来るのだ。

 

 しかしながら、当然戦闘が脆ければいともたやすく隊列が崩れてしまうので戦闘にはパーティーの主戦力が集結している。

 具体的には、乗宮さん、ブライトネスさんだ。

 山口は炎系の魔法を扱い、対集団戦に向いたスキルを保有するらしいので後方の右翼に配属されている。


 因みに、俺は山口と同じく右翼に配属されている。


「でもよ、腐敗の悪夢カルナイアって6層で発見されたんだってなァ。ここは5層だぜ?わざわざこんな隊列で行く必要あるかァ?」


「いえ、腐敗の悪夢カルナイアは階層を跨ぐらしいです。6層と言うのは以前派遣された討伐隊が腐敗の悪夢カルナイアを観測した階層であって、現在は5層まで進行している可能性が高いという訳です」


「なるほどなァ。でもよ、やっぱこの隊列嫌いだぜ。自由に動けないしよォ」


 全く、自由人め。

 できる大人と言うのはこういう時に文句を言わないのだ。

 なんて心の中で考えているが、実は俺もそろそろ苦しくなってきた。

 俺、隊列組むの向いていないかもしれない。


「そうですね、少しだけ崩すだけな──」


 そこまで言いかけた時、先方より連絡が回ってきた。


「目標発見!目標発見!腐敗の悪夢カルナイアの出現に備えよ!決して隊列を崩すな!」


 俺たちは即座に戦闘態勢に入った。

 やれやれ、ようやくボスのお出ましだ。

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