第16話

 えー、はい、不安だー、ってやつ撤回します。

 普通にやっていけそうです。


 現在、ダンジョン4層なんだけど、あれから一度もトラブルは起らなかった。

 さっき威嚇してやった金髪男なのだが、冒険者名は”山口”と言うらしい。

 あのキャラで山口!?なんて吹いてしまったが殺すぞ、って言われるだけで済んだ。

 

 まあ、彼は口が悪いだけで基本的に公私混同はしないタイプであることが数時間ほど同じパーティーで戦って分かったことだ。

 すこーしばかり口が悪い……と言うか常に死ねとかぶっ殺すとか言ってる人間なのだが、それでもさっきのアレはあくまでも俺と乗宮さんを試したってだけらしく、あれ以降は特に馬鹿にしたりはしてこなくなった。


 それでも口調と顔が怖いが……。

 全く、最近の若者って全員こうなのか?

 おっさんには理解できない。 

 てか、そもそも俺はコミュ障なので話しかけるのが怖いってのもあるが。


《山口くんつええ》

《なんだあの動きw》

《人間の可動域超えてて草》


 そんな事を考えながら戦うはダンジョン四層のボス。

 大蛇型の酸攻撃を主とするボス。

  

 ダンジョンでは現在9階層まで確認されており、8階層までフロアボスが討伐されている。

 まあ、フロアボスが討伐されていると言っても一か月に一回リポップするのだが。

 世の中には不思議な事に満ちているというが、なんと偉い科学者曰く同じ階層のフロアボスはリポップしようが同一の記憶、感情、魔力を持ち続けるらしい。どうなっているのだろうか。死者蘇生の様な物なのだろうか?

 と、そんな不思議な仕組みになっているフロアボスなのだが、現在俺たちは月初めって事で不運にも戦う事になってしまったという訳だ。


「オラァ!死ねェ!!!」


 灼熱の炎を操りつつ器用に大蛇の攻撃を避ける。

 そして、その拳を大蛇の強靭な鱗に叩きつける。


 ドオオオオオン!


 すると凄まじい音が響き、大蛇の肉がそぎ落とされる。

 ボタボタと青い血が滴り落ちる。

 血は強烈な酸性だったようで床が蒸気を上げながら溶ける。


 ……アイツのスキルは炎系の物なのだろうか。

 武器は使わず拳で殴る。そして、殴る事で発生する爆炎。 

 おそらく彼のスキルは拳制限の様な何かがあるのか?

 なんて観察していると大蛇がのけぞり、液を吐いた。

 

「あれは……ヤバい!」

 

 多量の酸は避ける隙を与えないように面攻撃となっていた。 

 流石に、直撃を喰らうと不味い。

 カバーに入ろうと思ったが、直後何かシールドの様なものが山口の周囲に展開された。


《シールド!》

《乗宮さんだ!》

《酸て魔法攻撃なん?》


「ええ、たぶん魔法攻撃だと思います。あんな強烈な酸は魔法で生成したモノでしか発生させられないんで」


 あのシールドは乗宮の物なんだと思う。

 そして、彼女のシールドは対魔法耐性の高い防御結界。

 そこから導き出される結論は、


「シールドなんて要らねえェ!俺一人で十分だ!」


 えー、そっち?

 普通乗宮さんのフォローに感謝するもんじゃ?

 ……やっぱ公私混同しないって言ったの取り消そっかな。


「うるさい!山口くん、今の直撃喰らってたら不味かったでしょ!」


 負けじと怒鳴る乗宮さん。

 うーん、見なかったことにしよ。

 という訳でこちらはこちらで大蛇の雑魚召喚で湧いてきた蛇どもの処理をする。

 ブライトネスさんも大蛇の戦闘に加わらずこちらで一緒に処理をしていた。

 

 ワラワラと湧いてくる蛇を斧で叩きつぶしているといつの間にか戦闘が終わったようで、


「お疲れ様です!ひとまず今日はここらでキャンプしましょうか!」


 ブライトネスさんはそう言うとキャンプの準備を始めた。

 ダンジョンは広い。

 ゲームみたいにセーブポイントなんてある訳もなくこうしてキャンプを挟まねばならないのだ。4階層までは難易度も低いため一日でここまで攻略するなんてことが出来るが5階層以降だと話が変わってくる。

 難易度が急上昇するため休めるときに休まねばならないのだ。

 という訳で冒険者の間では4階層で一度キャンプをする、と言うのは一種の定石となっているのである。


 そんな感じで俺たちはキャンプをすることになった。

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