第14話

 ”乗宮目線”


 その日の始まりはいつも通りだった。

 お医者さん曰く私は低血圧らしいので周知の如く朝に弱い。

 だから、その日はいつもの様に10時ごろに目覚めた。

 

 重い頭を持ち上げ、寝ぼけ眼をこする。

 やがて思考がクリアーになっていくのを感じたら顔を洗うために洗面所へ向かう。

 顔を洗い、歯を磨き一通りの習慣を終わらせて気づく。


 いい匂いがする。

 何か甘い蜂蜜の匂いが家中に満ちていることに気づいた。

 リビングを覗いてみると栄治が朝食を食べていた。


 皿の上にはこれでもかと蜂蜜をぶっかけられたフレンチトースト。

 朝食には定番だが、定番なだけあってとっても美味しい。

 正直手間は掛かるが朝食べたいものの中ではナンバーワンになる位には美味しいと思う。


「うまうま」


 そんなことを考えながら栄治を観察する。


「──それ独りで言うんだ」


 思わず言ってしまった。

 いや、ねえ、普通独りで朝食食べてるときにうまうま、なんて言うか?

 私の考えは至極真っ当な、というか世間一般的な物だと信じてる。


 てか、ここ数週間付き合ってみて分かったけど栄治って結構天然なんだよね。

 本当に前はおっさんだったのか?なんて疑ってしまうくらいにはどこかおかしい。

 まあ、あの姿で言う分には天然キャラ感が出て可愛らしいからそれはそれはでいいのだけれど。

 しかし、それでもおっさんだったのかアイツ?

 なんて疑問は抱いてしまう訳で……。


「……ん?乗宮さん起きてたんですか?」


 そんな感じで観察してたら栄治にバレてしまった。

 いや、隠れてしまっていたわけではないのだが……。

 とまあそんな事はさておき、問題は栄治が私の分まで作ってくれているかどうかだ。

 私は今、物凄くフレンチトーストが食べたい気分なのだ。

 そう、今、私は食べたい。

 別に後で食べたらいいじゃないかと言われようとも、重要なのは今なのだと言い返したい。

 という訳で作ってくれてたら嬉しいなー、なんて目で見てると、


「ああ、乗宮さんの分まで作ってますよ」


 クソッ!なんだこの愛くるしい生物は!?

 有能か!?

 それとも可愛いのか!?

 否!どっちもだッ!

 今すぐ愛でたい!

 そんな訳で抱き着く。そして頭を撫でる。


「……何故抱き着くんですか」


 ムッとした表情でそういうが、そんな表情も可愛らしい。

 本当におっさんだったのか!?なんて疑問が抱かれるがそこは考えないようにする。考えたら負けだからね。


 そんなこんなで栄治くんが用意してくれたフレンチトーストに被りつく。

 美味い。

 卵の風味から始まりハニカムーな風味が鼻腔をくすぐる。

 程よくスイートな香りと卵の香りが混ざっててヨシ!

 百点満点の朝食を飲み込みつつ、朝の日課であるSNSのチェック。

 配信が伸びてないかなー、なんて確認しつつ仕事先からのメールもチェック。

 ふふふ、できる社会人は朝食の時間も無駄にしないのだよ……。

 なんて心の中でドヤ顔決めつつ確認していると、ダンジョンマスターからの要請が届いていることに気づいた。


「なんだ?」


 詳しく見てみると、これまた意外な物だった。

 

【宛先S級冒険者乗宮殿

 エクストラボスに関する討伐要請があなたに出されました。詳しくは以下に】


 簡単にそう綴られたメール文。

 あの不真面目といったら、って感じのダンジョンマスターが書いたものとは思えない内容だが、一応チェック。

 

 内容をまとめるとこうだった。

 七層に出現したエクストラボスである”腐敗の悪夢カルナイア”が現在6層まで進出してしまっている。このボスのタイプは増殖系であるため地上に出ると不味い。

 だからそうなる前に討伐しろ。

 そして、その討伐の為にS級冒険者を中心としたパーティーに仮加入しろ。

 との事。


 まあ、つまりはアレだ。

 いつも通りのボス討伐依頼。

 S級になればこういう依頼はかなり多くなってくる。

 それに、私は冒険者の中でも希少なシールダーだ。

 基本的に人は内臓を貫かれれば死ぬ。だから、そうならない様にするためにパーティーにシールダーは必須なのである。

 しかしながらシールダーよりもアタッカーの方が人気な役職であるため自ずと希少になってしまっているのが現状だ。

 そしてさらに、私がシールダーの中でも特に貴重、というか唯一無二の対物理にもそこそこ耐性を持つシールドを張れる私は滅茶苦茶人気者なのである。

 

 だからこういうボス討伐依頼というのはしょっちゅう来るものなのだが、全部受けているとスケジュールが回らなくなってしまう。

 大体の依頼は断ることにして、なんとか時間を回しているのだ。

 そして、今回もいつも通り断ろうとしたが、報酬の欄を見て動きが止まる。


「ねえ、栄治もエクストラボスの討伐に参加しない?」


 気づいたらそんな言葉を発していた。

 

「ん?」


 不思議そうにこちらを深紅の瞳が見つめる。


「その……報酬はさ、エクストラスキルらしいんだけど」


「行きます!行きます!」


 即答。

 食い気味に栄治は言った。

 全く扱いやすいヤツめ。

 まあ、今回に限ってはありがたいのだが。


 そうして私たちはダンジョン史上の中でも特に凶悪でると言われる”腐敗の悪夢カルナイア”の討伐へ向かう事となった。




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今週末は時間が空くのでなんとか一章を終わらせようと。

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