第11話
冒険者の服は通常の物とは違う。
ダンジョンという特殊環境下において、それは熱や強烈な汚れから人間を守らなければならない。
例えば、トカゲ型の魔物は酸を吐くが、冒険者用の服はそれに対して高い耐性を誇る。
そんな冒険者用の服だが、武器と同様命を預ける道具な訳で、当然高いな品質のものを選ばなければならない。
そして、その様な物は通常とは違い高い魔力技術に基づいた生産が必要である。故に、冒険者用というのは高級品なのである。
そんな高級品である服を専門的に売る店にて、俺は目下頭を抱えている途中である。
「あのー、乗宮さん」
「ん?なにー?」
指差すは彼女の手にある物。
何か、嫌な予感のする物が彼女の手に握られていた。
「それは何でしょうか?」
「おパンツ」
まあ、分かっていた。
それが何なのかは解っている。
しかし、それをどうするのかが分からないのだ。
純白の、極めて布地面積の少ないおパンツ。
いや?あくまでもそれは俺に感覚なだけで女物としては普通なのだろうか。それとも案外俺も体がお子様であるため丁度、いい?のかもしれない。
いやいや!俺は男なのだ!こんなスケスケな、ふしだらな物を履ける訳がない!そう、断固として拒否だ!
「いやいや!無理ですって!」
「いける!絶対にイケる!ていうか、いかせる!」
そう言って目がややキマッた乗宮さんに無理やり店の奥の更衣室に連れ込まれ、全裸にさせられた。一応、抵抗はしたが虚しくもあれこれ言いくるめられて脱がされてしまった。
ここまで来たらもう逃げられないことは分かっているので大人しく彼女の言う通りにする。
「今回だけですからね?」
そう言ってすっぽんぽんの、一糸纏わぬ姿を晒す俺はその余りにも頼りなさすぎる薄っぺらい下着にそっと足を通し、履いた。
ピッタリとした感触のそれは、今までの人生で一度も体験した事のない未知の感触で、こそばゆかった。
「どう?案外イケるでしょ?」
「まあ、謎のフィット感を除けば結構いい感じですけど・・・・・・」
「これね、戦闘の時に脚の可動域がちょっと広がって、というか動かしやすくなるんだよね」
マジか!
確かに戦闘の時に邪魔にならないのはデカいな。
こんなにフィットする下着ならそれはさぞ動きやすいことだろう。
むむむ・・・・・・案外この下着、良いかも?
少し見直したかもしれない。
「じゃあ、上着の方だけどこう言うのはどう?」
手渡されたのは純白もワンピース。
部屋着にも出来そうなくらい簡素なワンピだが、生憎慣れていないので着るのに手間がかかってしまった。
そして、その上から大きな布に穴を空けたかのような貫頭衣状の物を被り、帯で腰のあたりで留める。純血の様な赤を基調としたそれは、真っ白なワンピに対して目立つ。
「こんな感じ、かな?」
試着室から出て、動いてみる。
「良い!すごく良い!見た目は幼気な少女であるのに、妖艶な雰囲気を醸し出しているっ!そして、何よりもその瞳の奥に潜む獰猛性!視覚と本能がズレる、素晴らしい感覚!」
乗宮さんはいつもの比にならないくらいはしゃいだ。
なんか……そんなに褒められると嬉しいような、嬉しくないような……。
何か、未知の、ドキドキする感情が胸の奥で高鳴った。
「ちょっと自分でも鏡見てみて!」
乗宮さんに連れられ、鏡の前に立たされる。
これなら今、自分はどんな姿なのか確認できる、と覗き込んでみたが、息を飲む。
「可愛い……?」
華やかに彩られた少女がそこには立っていた。
おおよそ10にも満たぬ少女。
幼女とも呼ぶべきそれは、やや広がった漆よりも深い黒髪が印象的である。
人形と見紛う程整った顔立ち。
そして、その容姿をさらに引き立たせる華やかな紅が目立つ白ワンピ。
乗宮さんが言ったことは誇張でもなんでもなく、そこにいた少女は透き通るように美しかった。
そして、そこで急に意識は戻り我に返る。
「ちょ、そういう事じゃなくて!」
「いいんだよ……女の子なら全員は通る道なのだよ」
「そんなことを言われても……なんか、分からないモノが心に……」
「可愛いものは可愛いんだよ。ちゃんと自分を見て」
そう言って鏡を指さした。
そこには変わらず可愛らしい少女が立っていた。
数十年間、毎日見てきた自分のソレではなく、全く異なるソレ。
可愛いと言えば確かにそうかもしれない。
しかし、自分自身を可愛いと思う感情は生憎まだ俺には備わっていないのだ。
「あ、てか、目立つからそろそろ移動した方がいいかも。君は可愛すぎるからね」
目立つ?
どういうことだ、と思い周りを見渡して見たが、多くの客がこちらを見ていることに気が付いた。
通りすがりの女の人がこちらをみて息を飲み、どの服を買うか迷っていた客は俺と同じものを店員に求めている。
そして、肝心の店員はこちらの方を見て唖然としている。
可愛すぎる?可愛すぎる……?
ん?可愛すぎる?
何度も言葉を反駁し、理解する。
瞬間、顔から火が出るほど恥ずかしくなった。
別に俺は悪いことをしていない。
しかし、それでも何かとても悪いことをしているような気がしてしまう。
「やっぱり、無理!」
やはり俺には早い。
てか、このまま続けてたら新しい扉が開いてしまう!
という訳でさっさと更衣室に戻り、服を脱いだ。
「むう、別に悪いことじゃないのに」
「無理なものは無理です!」
はあ、とカーテンの向こうで乗宮さんが溜息を吐いたのが聞こえた。
△▼△▼
因みに、服の件だが、結局可動域が狭いとか理由をつけてもっと落ち着いたものにしてもらった。
黒基調のシャツに黄色のラインが入った一般的な物である。
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