第10話
20年前、日本の首都圏はダンジョン出現により深刻な被害を受けた。
マントル付近に出現した虚数エネルギーに似た何かが地下空間を形成し、それは隆起し、地上に顕現することとなる。
地上に隆起した地下空間の最上部は、濃密な魔力を辺りにまき散らした。
一時的に空間に圧縮された水蒸気が凄まじい反発力を示し、爆発反応を起こすように、魔力は首都圏一体を満たし、池袋を中心地として猛烈な空間の歪を引き起こした。歪は建物を、人々を、財産を飲み込んだ。当時の犠牲者は400万人を上回ると言われている。
これがかの有名な首都崩壊である。
首都機能が崩壊した東京都は、同様に深刻な被害を受けた政府によって二つに分けられた。
一つが政治機能を持った東京市。
もう一つが経済機能を持った新東京迷宮経済特区である。
その内の一つである新東京迷宮経済特区だが、みんなも知っての通り、旧東京都に出現したダンジョンを中心に広がっている。
そう、魔石資源の利用を目的とした都市である。
バブル崩壊から始まった経済の低迷に続き、首都圏の崩壊により国民生産の低下が深刻だった日本では、このエネルギーに希望を見出した。
所謂、藁にも縋るというヤツである。
そんな新東京迷宮経済特区だが、一般にはダンジョンシティと呼ばれている。
言いずらいから、そう呼称されているらしい。
ダンジョンの入り口に設置されたダンジョンセンターを中心として広がるダンジョンシティだが、今は日本の経済の中心な訳で、当然物流の中心だ。
多くの人々が流行の物を、魔力製品を求めてこの街に来るという訳である。
▼△▼△
乗宮さんに誘われてダンジョンセンターにやってきたが、相変わらず人でごった返している。
「人、多くないですか!?」
「それな!人、多すぎ!まるでゴミの様だ!」
そんなことを言いながら乗宮さんと俺は人ごみに揺られながら武器屋を目指す。
「確か、7階層のエクストラボスを倒すとスキルを獲得できるって噂が立っててみんなここに来てるらしい!」
マジか。
倒すとスキルゲットできるならそりゃ混むわな。
俺だって欲しいもん。
A級やS級の様なスキルが手に入ればそれだけで人生が変わからな。
いや、冗談抜きで人生が変わる。
金も権力も、女(?)も手に入る。
てか、俺も今から行こうかな?
どうやら乗宮さん曰くスキルが貰えるのは本当らしいが、肝心の等級はランダムらしい。しかし、それでも戦う手段が増えるという事に繋がるのだから喉から手が出るほど欲しい。
そんな感じでスキル欲しいなーって考えていると乗宮さんに指摘された。
「すごい欲しそうな顔してるけど、今日はダメだよ?」
とツッコまれた。
俺ってそんなに顔に出てるのかな?
「もちろん分かってますよ。今日は武器を探しに来たんですよね」
「うん……そうだね」
やや俯きながら乗宮さんはそう言った。
どうしたのだろうか?
調子が悪いのだろうか。
「あ、あれが私たちが探してた店だよ!」
指を差した先には、質素な構えの店があった。
名前は『日野物店』だ。
店構えだけでなく店名も質素。
入ってみるとこれまた質素。
ザ・工房って感じの店だ。
店の中には様々な種類の武具が並べられていて、珍しいものから人気の物まで様々。俺の持ち武器である巨斧もある。
「こんにちは、どちらの武器をお探しで?」
やや垂れ目の店長が出てきた。
「良さそうな巨斧はないか?」
「ええ、こちらは如何ですか?」
そして、俺は武器選びを始めた。
………
……
…
帰り道、俺は漆黒の斧を担いでいた。
これは、黒龍の
正直来てよかったと思っている。
初めはこんなに高い武器に本当にそれだけの価値があるのか疑問に思ったりもしたが、いざ実際に握ってみるとやっぱり違った。
さらには、これは乗宮さんの奢りなのだ。少し申し訳ないような気がするが、まあ別の機会にお返しすればいい。
「いやー、いい買い物をした」
そう言い、乗宮さんの方を向いてみた。
すると、彼女はニヤニヤと笑っていた。
あ、やべ。
この笑顔はヤバいヤツ。
逃げろ、と本能が全力で警鐘を鳴らす。
踵を返し走りだそうとした、その時──。
「あー、今日は確か私のおごりだよねー」
わざとらしく大きな声で彼女は喋った。
動きが止まる。
遅かったか……。
「そ、そうですね」
「そういえばだけどさー、栄治って服持ってるの?」
ダメだ。
これは不味い。
無理やりにでも逃げるか?
いや、でもここで逃げる訳にもいかない……。
つまり、これはアレだ。
「も、持ってないです」
「じゃあさ、今から服買いに行かない?」
終わった……。
「あ、はい」
「よし!そうこなくっちゃ!」
嬉しそうに乗宮さんは笑った。
対照的に俺は引きつった笑顔しか浮かべられなかった。
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次回、おっさんがおもちゃにされる回
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