第9話
「ふう、これで完了っと」
額の汗を拭い、俺は一息ついた。
先日、俺は乗宮さんとのコラボ企画のお陰で俺は無事しばらく住まう家を見つけたのだが、それにあたりいくつかの引っ越し準備に当たっているのだ。
今まで人生で引っ越しをしたのは社会人になってから初めて一人暮らしを始めたときで、それ以降一度も住居を移転していない。
という訳で久々に引っ越し作業をしているのだが、これが大変なのだ。
数か月しか住まわないとは言っても、ダンジョン冒険者を続けていくには当然、それは国の事業の一環であるため、いくつかの住民情報も必要なのだ。
法的な手続きから物の移動。引っ越しはそれだけ手順の多いものなのである。
で、ちょうど今私物の移動が終わったところである。
「お疲れ様ー。これどーぞ」
そう言って乗宮さんはジュースが注がれたコップを差し出してきた。
コップを取り、一息に煽る。
シュワシュワとした甘い炭酸飲料が喉を刺激し、乾いた脳を潤してくれる。
美味い。
「そうえばさ……栄治ちゃん?の斧ってあれ安い奴だよね。一緒に配信した時見たけどボロボロだったよね」
ゴクゴクとジュースを飲んでいると、突然乗宮さんはそんなことを聞いてきた。
「まあ、そうですけど」
俺の斧は、ダンジョンに初めて潜った時から使っているものだ。
ニートだった俺は、なけなしの金をつぎ込んで一番安い武器を買った。ちなみに一番安いとは言ってるが普通に30万はするし、魔石や魔物の素材を使用しているダンジョン冒険者向けの武器なんて大体高いものだ。
そんな俺の斧だが、三か月もダンジョンに潜ったときに使い込んだせいで結構ボロボロになってしまっている。
流石に命を預ける武器なのだから買い替えなきゃ、とは思ってはいるのだが、いかんせん金がないのだ。だから、今は新しいものの購入を見送っている。
「武器って命を預けるんでしょ?じゃあさ、今すぐ新しいのを買いに行かなきいけないと思うんだ」
「え、今から?」
「そう、今。というか、私が行きたい」
何か、嫌な予感がする。
この数日間彼女と色々行動を共にしたが、その経験を踏まえて分かったことがある。
乗宮さんがニタニタしているときは間違いなく悪いことをしている時だ。
何度となく彼女に後ろから忍びよられて頭を撫でられてきたが、いつも撫でている時はニタニタしているのだ。
つまるところ、今彼女は悪いことをしている、あるいはしようとしているのではないかと俺は考えたという事だ。
ふふふ、全く、我ながら推理が鋭すぎて怖いな。
「断ります。そもそもお金ないし」
よって、ここは断っておくが吉だ。
すると、乗宮さんはうるうると目を潤わしたが……。
「ダメ?」
「ダメなものはダメです」
「本当に?」
「しつこいですね、ダメなものはダメだと──」
今日はいつもに増してしつこいな、と思った。
「お金は私が肩代わりする!」
「はい、行きます。準備してきますね」
即答。
おいおい、それなら早く言ってくれよって感じ。
ダンジョン冒険者向けの武器の代金を肩代わりしてくれるなら、それだけで垂涎ものだ。
そして俺は準備を済ましに行った。
去り際に乗宮さんがボソリと、
「チョロ……」
なんて言った。
聞こえてるぞー、と言おうと思ったが俺は大人の男性なのだ。
いちいちこういうのに突っかかるのは大人がする行為ではない。
こういうのは甘んじる物なのだ。
というか、まあ、俺自身チョロいとは思ってるけどな。
こうして俺たちはダンジョンセンターに買い物しに行くことにした。
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本日はもう一本投稿する予定です。
というか、今書いてます(絶望)
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