第7話

 距離を離し、相手を観察。

 見たところ、彼女が纏っている防御結界はとんでもない物理耐性があるらしい。 

 俺の逆袈裟切りをはじいたところを見るとドラゴンの鱗すらも凌駕する防御性能がありそうだ。さらには、あくまでも防御結界は対魔法防御手段な訳で、物理防御性能がこんな冗談めいた性能なのだから魔法耐性は想像を絶するものになるだろう。

 

 目の前にいる人間は間違いなく化物だ。

 認識を改める。

 てか、そういえば忘れていたけど彼女のSNSにはS級冒険者って書かれてたっけ?

 そう考えるとこんな馬鹿げた魔力出力も納得である。

 

「んー、動きが捉えずらい」


「なんで結界で物理防御してるんですか……」

 

《それはそう》

《結界とはw》

《え?防御結界は物理防御特化じゃないの(洗脳済み)》

《みんな思ってる》

《やばw》


「そりゃ決まってるでしょ、結界で物理防御するのはロマンだからに決まってるからね」


「まあ、分からなくもないけど……」


 分からなくもない。

 そう、分からなくもない。

 すなわち、理解できない、という事でもある。

 

 確かに人差し指と中指を結んでバーリアっ!、って叫んだかつての思い出をくすぐるのだが……それでもいざ現実でやってみようなら信じられない魔力量と出力が要求される。要は戦闘中、重要な脳のリソースのほとんどをそれに割かなければならなくなるという事。


 意味が分からない。なぜ、彼女はそんな意味の分からないことしているのだろうか。理解不能だ。つまり、彼女は──


「こわ……」


 その言葉が喉を突いた。


《幼女(おっさん)に怖いと言わせた女》

《悲報:幼女ドン引き》

《てか、REREREも大概やぞ》

《いよいよ私たち一般人には理解の出来ない戦いになってしまったようですw》

《草》


「むうー、何で私が人外になるんですか!REREREさんの方が人外の名に相応しいからね!」


 なんでその流れで俺が人外になるんだよ!

 と心の中で突っ込みつつ冷静に相手を観察する。


 今の一連の会話の中で気づいたことがいくつかある。

 一つは彼女の防御結界は完璧ではないということ。

 俺が攻撃を加えない間は防御結界に供給される魔力が減少していた。

 まあ、そりゃそうか。彼女は化物ではなく人間なのだ。仮に無尽蔵に魔力があったとしても脳のリソースには限界がある。それでも、一般とはかけ離れた速度で魔力操作を行ってるようだけど……チョットヨクワカラナイ。

 

 もう一つは彼女は攻撃は得意ではないという事。

 対戦が始まってから、一度も俺は彼女に攻撃されていない。

 さっきのことから予測されるに恐らく防御だけで脳のリソースを満たしてしまっているのだろう。

 確かに、彼女の結界は防御性能は素晴らしいものであるがそれに脳のリソースを割かなければならない以上、攻撃に対してリソースを割けないのだろう。


 つまるところ、相手の弱点は攻撃の手数が少ないということだ。

 ならば、こちらとしてもそこを突かさせてもらおうと思う。


「うん、どうやらREREREさんにはまだ何かあるっぽい」


《お、来る?》

《何をするんだ?》

《同じ構えだ》

《また同じことになるんじゃ》

《大丈夫か?》


 そして、最初と同じく下段に斧を構える。

 自身よりも一回りも二回りも大きな巨斧を地面すれすれまで下げ、腰を落とす。

 

「……行きます」


 地を蹴り、最初と同じく逆袈裟切り。

 高速で斧を振り上げ、彼女に強烈な一撃。

 

 されども、強烈な一撃と言えどさっきと全く同じ攻撃。

 当然あっけなく結界に弾かれる。

 弾かれた衝撃でこの小ぶりな体は簡単に吹き飛んでしまう。


 全く同じ展開。

 果てしなく大きな隙を晒した俺。

 そんな絶好の機会をS級冒険者が見逃す訳もなく、腰に差した直刀を抜き、俺の横っ腹に突き刺してきた。


「これは……私の勝ちかな?」


 多量の血が下腹部から滴り落ちる。

 

《グロ》

《乗宮の勝ちか?》

《死なない?》

《不味くないか》

《試合終了》


 コメントが流れる。

 そんな様子を横目に俺は笑った。


「ツカマエタ」


「は?」


 瞬間、何かを本能的に感じた乗宮さんは一瞬でバックステップで飛びのいた。

 しかし、時すでに遅し。

 彼女は攻撃により脳のリソースをそちらに割いてしまったのだ。

 すなわち彼女の防御結界は薄くなっているという事。


 青白い魔力が集中し、赤く光る。

 瞬間、空間が文字通り爆ぜた。


《うわあ……》

《これは人外》

《お前ら人じゃねえ!》

《は?》

《どうなっとるん、思考回路》

《頭おかしい》


「え、こわ……」


 空間が爆ぜる中、彼女はそう呟いた。

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