第6話
「どうも、こんにちは」
「こちらこそこんにちは」
そう言って登録者40万人越えの化物であるNORIMIYA氏に向かってペコリ。
こういうのは先にやるものだ。社畜時代に学んだ知識だが、とりあえず頭を下げておくことに勝るものはなし。さらに相手が自分よりも上の場合はなおさらだ。
というか、そもそも登録者4000人の弱小配信者が登録者40万人越えの大物ライバーだ。今更ながらこんな人とコラボしてもいいのか疑問だ。
てか、実際にしてしまっていいのだろうか?まあ、絶対にやっちゃいけないって訳じゃないけど……。
「自己紹介をしましょう。私は乗宮楓。配信者名はそのまま名前をとってNORIMIYAにしてます!」
「あ、はい。俺は佐藤栄治です。配信者名はどうつけたらいいか分からなかったんで当時見てた人をリスペクト?してREREREってつけました」
「へー、見た目に反してすごいおっさんぽい。こんなに可愛いのに」
そういうと俺の頭を撫でた。
昔に比べて背が縮んでしまったので抵抗することもできず、ただなされるがままに撫でられてしまった。
ああ、グッバイ俺の尊厳……。てか、クソ恥ずかしい。
「あ、あのー、そういえば配信の内容っていうのは……」
撫でられつつ切り出す。
相手が相手だ、恐る恐るいつ始まるのか訊く。
失礼を働くと配信中止なんてこともあり得そうだからな。
「ああ、配信ね。今から始める!」
今から!?
ちょ、心の準備が……。
なんてあたふたしていると乗宮さんは配信を開始してしまった。
「はい!皆さんこんにちわー!」
《こんにちは》
《おはー》
《配信楽しみにしてた》
《てか、前の配信で随分と凄いことになってたけど大丈夫?》
《心配で夜しか寝れんかった》
すごい速度でコメントが流れていく。これが登録者40万人のコメント欄か……。早すぎて俺には目に追えないかもしれない。
ん?
てか、随分と凄いことになっていたとは?
「ああ、あれね。ドラゴンに半身引き裂かれたやつね。あれなら隣にいるREREREちゃん?さん?に助けてもらったから大丈夫!」
「え!?乗宮さんってあの時助けたあの人だったんですか!?」
三か月ダンジョンに籠っていた時に助けたあの女性が乗宮さんだったのか。
そう言われてみれば顔が少し似ていたかも……?
いや、ドラゴンの炎で全身ただれてたから全く似てないな。
「そうそう、説明していなかったけど私あの時助けてもらった人なんだよね」
《またしても何も知らないコラボ先》
《い つ も の》
《てか、その隣にいるのってREREREじゃね?》
《例の人外がおる》
《乗宮と人外のコラボかぁ。いい時代になったものだ》
「助けてもらった恩返しに今回はコラボをしようという訳でーす!」
「あ、ども、REREREです」
「緊張してるね!でも大丈夫、魔力があれば緊張なんて関係ない!」
《魔 力 厨》
《魔力は全てを解決する!》
《おっさん臭い幼女だ》
《めっちゃ可愛いやんけ》
《え?可愛くね?》
可愛い?おっさんに向かって何を言ってるんだか……。
でもまあ、視聴者にはそこまで場違い的には思われてないらしい。
少しほっとした。
「という訳で今日の企画ですが、勝った方が負けた方になんでもできるってやつでーす!」
「え?」
《コラボ先企画何も知らんくて草》
《いつも通りの光景》
《魔力に脳を侵された女》
《てか、REREREの件説明ないの?》
「あー、それはあとで説明しますねー。とりあえずはダンジョンまで行きましょう!」
はあ?
ちょっと待て、俺は今から何をされるんだ?
ダンジョンには冒険者用トレーニング施設が設備されており、そこで企画を取る気なのだろう。そこなら存分に暴れられるし好きな企画が撮れるから配信者の間では地味に有名な施設だ。
俺は彼女に引かれるがままそのままダンジョンへ直行した。そして、トレーニング施設の中でも最も広い大部屋に連れていかれた。
「さて、冒険者同士の企画と言えば対戦が定番!という訳で今日はREREREさんと対戦をしていこうと思います!」
「は、はい」
対戦とは、そのままの意味通り、互いに戦い合うという事だ。
ダンジョン配信者においては人気の配信企画で、互いの魔法をぶつけ合う派手さから多くの視聴者の心を簡単につかめる企画だ。
つまるところ、乗宮は俺と戦おうという訳だ。
ならば、こちらとしては本気でいかなければ無礼という物。
《斧だ》
《でっけえ》
《何キロあるんだ》
予め持ち込んでおいた
魔力を体内に循環させ、身体強化を全身に施す。
また、同時に思考加速も掛け、いつものコンディションに持ち込む。
「対戦よろしくお願いします」
「こちらこそ!」
そういうと、地を蹴り逆袈裟切りに斧を引き上げる。
先手必勝という言葉があるが、それに乗っ取り全力で間合いを詰めつつ、攻撃を押し付ける。
距離にして15メートルほどだが、魔力がある世界ではあってないように等しい。一蹴りで距離を詰め、強烈な一撃を食らわせる。
限界まで引き延ばした近く速度は確かに彼女を捉え、ダンジョンで鍛え上げた筋力は確かな一撃を彼女に食らわした。
が、しかし、あろうことか斧は弾かれた。
「──今のはやばかった!」
彼女の周りに現れる防御結界。
なるほど……どうやら彼女は魔力厨と呼ばれることはあるらしい。
《はっや!》
《結界硬すぎだろ》
《どんだけ魔力を注ぎ込んでんだよwww》
《てか、REREREの動き見えなかったんだが》
《え?強くね?》
《音が遅れてるんだけどw》
《草》
防御結界は、基本的に対魔法防御手段としての物だ。
しかし、一応若干ながら物理攻撃に対しても防御性能を発揮するらしく、具体的に言えば豆鉄砲をギリギリ止めれるくらいの性能だ。
ただ、彼女は魔力をひたすらに注ぎ込むことで信じられない魔法防御性能と物理防御性能を手に入れたらしい。
「言ったでしょう?魔力は全てを解決すると」
解決するとは言ってなかったような……。
まあ、どうでもいい。
ちょっと楽しくなってきた。
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