第4話
全体的に白に統一され冷たくどこか無機質なとある診断室の一角にて、俺は頭を抱えていた。
というか、こんな姿になってしまった影響で手が小さくなってしまったため頭を完全に抱えることは出来なくなってしまったが。
「えー、患者様の病気は大変珍しいものでして。いや、そもそも病気なのかどうかも怪しいものなのですが」
おい、それ医者が言うのかよ、とツッコミをいれつつ、耳を傾ける。
「佐藤様の病気名?は魔力過剰負荷性転症という物らしいです」
クイッ、とやや鋭いシルエットのメガネを上げた医者はそう言い放った。
ヤブ医者っぽい感じの男だ。
「魔力過剰負荷性転症?」
聞いたこともない名前だな。
まあ、あらかた内容は予想が付くが。
「ええ、はい。魔力過剰負荷性転症はダンジョンなどの特殊な魔力飽和環境に長時間いる事で引き起こる性転換の事を指します」
つまりは魔力をいっぱい浴びたからTSしたと?
なるほどなるほど、実に分かりやすい説明だ・・・・・・ってなるか!
どう考えてもそうはならんやろ!
なにが魔力をいっぱい浴びたからTSしたやねん、そんなんだったら今頃冒険者のほとんどが性転換してるやろ!
やっぱお前、ヤブ医者だろ!
「その顔はどうやら納得がいってない顔ですね。あと失礼な事考えましたね」
医者は俺の心境を察したようだ。
どうやら顔に現れてしまっていたようだ。
てか、こいつテレパシーか?俺が失礼な事を考えていた事を見抜くなんて。
「まあ、そうですよ。普通信じられます?魔力をいっぱい浴びたから性転換しただなんて」
「その通りです。ですが、あなたの場合は普通では無いんでしょう?例えば──魔物の肉を摂取したとか」
ギクリ。
そういえば俺、思いつきでダンジョンに籠り始めたから食料も無かったんで仕方なく魔物の肉を食ったんだっけ。
あと、喉も乾いてたから血も飲んだと思う。
そんなに生臭くなく、やや鹿肉の様な食感から鶏肉のような食感と旨味のものまで、実に様々な種類の味や食感が魔物の種類ごとにあって美味しかった。
てか、それが絶対原因じゃん。
「え、あ、はい。その通りです」
やっぱゴメン、さっきはヤブ医者とか言って。
完全に俺が悪かったわ。
「はあ、それが原因じゃないですか。魔物の肉は人間に適合しない魔力がそれはそれは豊富に含まれているんですよ。そんなものを摂取すればどうなるか直ぐに想像がつくと思うんですが・・・・・・」
つまりは、人間規格じゃない魔力を取り込んだから肉体がエラーを起こしてこうなってしまったと。
いや、やっぱ説明になってなくね?
なんでエラーが起きたからTSするって事になるんだ?
チョットヨクワカラナイ。
やっぱこの医者ヤブなのでは?
「こんな症状過去に一件あるかないかぐらいしかなくてですね、詳しいことはよく分かっていないんです」
「となると暫くは治りそうもないと?」
「まあ、そうなりますね」
終わったぁ。
バイバイ、俺のナイスバディ。
ニートだったから無駄にある時間を退屈凌ぎに筋トレに費やしていたお陰で手に入れたナイスバディ。
一応腹筋は割れていた。
しかし、今じゃ幼女体型だ。
かつての自分の体型など見る影もない。
ああ・・・・・・さらば俺の体よ。
しかし、そんな感傷に使っている暇もなく、医者から幾つかの説明を受けて俺は帰路に着く事にした。
▽▲▽▲
ぐちゃぐちゃに散らかった部屋。
酒の缶は散らばり、使用済みの薄い本が散乱している。
俺が冒険者になる前には散々お世話になった部屋だ。
因みに、いきなりダンジョンに潜ったため家賃は三ヶ月滞納している。
ところで諸君、家賃を三ヶ月滞納するとどうなるか知っているか?
少し難しい話になるが、この資本主義とやらを掲げるこの国では契約は命よりも重いらしい。まあ、命よりも重いと言っても幾つかの契約のみしかそれには当たらぬのだが。
ところでなぜこんな話をし始めたか気になるか?
そう、あれだ。
俺はその契約とやらを盛大に破ってしまったのだ。
これの意味するところはすなわち、追い出されるという事だ。
俺の住むボロアパートに帰ってきていきなり大家さんが駆け寄ってきて出て行けって喚き立ててきたのだ。
で、明日までに荷物を詰めて出てけとの事。
はあ、明日か。
俺は明日にはホームレスになっていると言うことか。
「はあ・・・・・・」
部屋の中心で盛大なため息を吐く。
あー、やっちまった感半端ねー。
こうなるんなら家賃前払いしておくんだった。
マジで後悔してる。
つっても今更なんだけどね。
そう、今更なのだ。
つまりはこうなってしまった以上仕方がない。
過去を悔いるのではなく未来を考えよう。
人間は過去に生きる生物ではなく未来を考える生物なのだ、って偉い人も言ってたしね。
と言うわけで冷蔵庫を開け、ビールを取り出す。
賞味期限が三ヶ月前に切れてるやつだけど・・・・・・まあ、いっか。飲めりゃそれでいいのだよ。
プシュ!
缶を開け、ゴクゴクと喉を鳴らしながら煽る。
シュワシュワとした炭酸が喉を刺激して美味しい。
電気代を滞納したせいで冷蔵庫は止まり、ぬるま湯の様な不快な感じだが、まあ美味しいっちゃ美味しい。
そりゃそうだ、三ヶ月ぶりのビールだもの。美味しくて当然だな。
「プハー、うめー」
俺はどうやら幼女になってしまったようだ。
多分、今の光景を他人に見られたら眉を顰められるんだろうな。
幼女が喉を鳴らしながらビールを煽っている。
シュールだ。
まー、酒が美味しいからどうでもいっか。
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