第47話 海賊島

 期末試験を間近にひかえた7月初旬。

 さんさんと降り注ぐ太陽光。真夏日だけど、波の音でかなり涼しげ。

 最北の海にまた来ている。


『ぷゆ!』

『海なの!』

『うみぷゆ!』


 ふたりは仲良く遊んでる。


 今日は平日。

 2限目3限目はサボりだ。選択授業なので選択しなくても大丈夫。


 最近、肉体に入っているのがちょっと苦痛になりつつある。


 なんか想像以上の思春期みたいなのが来ているのだ。自分に回復を使ったりしたのがまずかったんだろうか?

 なんとかして元気を失いたい。下半身の。まだ11歳。先が思いやられる。


 それはともかく、いまは島探しだ。

 大型船を隠せそうな島を探し、海の上を滑るように進む。


 マジックバッグには1隻しか入らない。なるべく近くに隠す場所が欲しい。


 なんだかんだ2ヶ月ほどたっているが、壁建築はさほど進んでいない。


 ヒタチとノーマンは、木をよけ溝を掘りと頑張ってくれてるけど、俺はちょっとした事件が重なって時間を取られた。


『フヨフヨ、もう問題はなさそう?』

『うん。いまのところ』


 いちばん時間を使ったのは、レスレ王国の青年領主が狙われた事件。

 狙ったのはレスレ王国の貴族。以前浄化した人物だった。

 ヒタチ樹の土地が欲しくなったらしい。


 仕方がないので、また浄化行脚あんぎゃしてきた。ついでにラングオッド王国の牢獄内も。

 まあ、どろどろした感情とか、ストレスとか、生きていたら募っていくものだよね。


 だからといって、人様のものを奪おうとするのはどうかと思う。

 現在の俺は他国の大型船を奪おうと計画しているわけだけど。


『俺を浄化したら、船を盗もうなんて気が吹き飛ぶかな?』

『飛ばんじゃろうの。恨んどるわけでも思いつめとるわけでもなし』


 だよね。悪意があるわけでも誰かに強制されているわけでもない。

 記憶は消えない。浄化は、けがれを払う魔法だ。


 タリルエス帝国の皇帝の浄化は、ただストレス発散させるだけの結果に終わった。超逆効果。

 暗示も試みたけど、こっちは掛かりもしなかった。意志強すぎ。俺の方が圧倒的に加護レベルうえになったのにな。


 若干19歳の皇帝は、疑いようのない英傑だ。

 ラングオッド王国の王様、『宰相』、『元帥』もなかなかだとは思うけれど、比較すると見劣りしてしまう。


 眼下に島発見。


『……小さいね』

『岩場じゃの。大型船は入れまい』

『主、湾に船の繋がれた島がある。大型船も複数入れそうだ』


 手分けして探していたら、シリュウが見つけたみたい。けど……。


『その島は持ち主がいるってことだよね?』

『いや、正式な持ち主ではあるまい。海賊だったようだ』


 シリュウは突入して見ているみたい。

 そういえば海賊さんたち、いたね?

 とりあえずシリュウの元へ。


『……ん? だった? 過去形?』


 見下ろす島は緑が多い。大きいな。入江には帆の畳まれた帆船が1隻。ボロボロで帆柱は3本。中型船?


『古い遺体しかない。ほとんど白骨だ。以前の海賊は知らぬやもしれん』


 前に捕まった海賊たちの島なら国が把握しちゃってるかもと思ったけど違うのか。

 ……また白骨かー。


『結構大きな入江だね。まず港を造ってみようかな』

『あの船は火葬するかの?』

『多少金品はあるようだった』

『悪霊いる』


『悪霊であったか。我は区別がつかぬ』


 ……え? そのまま火葬にちょっと心惹かれていたけどダメそう。


『船ごと浄化しちゃう?』

『妾はかまわぬがの? どのみち金品は島におろした方がよかろう?』


 うん。燃やすのはもったいない。

 海を汚染するのも嫌だし。


『仕方ないから突入!』


 なんだろう、ちょっとロマンがある。ゴチャッとした木造帆船内部。天井は低く、甲板に穴があいて光が射し込んでいる。

 でも、視界の隅に白骨さん。


 シリュウは、顔だけ突っ込んでいる状態なのでちょっと面白い。爪を向け、無属性魔法で硬貨入りの箱を運び出してくれる。


『悪霊はどこ? まだ加護レベルあがるかな?』

『この下』


 フヨフヨの指す方へズボッと。


『2階層あったのか……うわー』


 なんかいかにも幽霊船にいそうな半透明の髑髏船長さんがいる。骸骨が海賊帽かぶって船から生えているように見える。けど、魂に重なるように白骨の遺体が。


 いかにも悪霊なんだけど、シリュウはこれを見て悪霊とは思わなかったのか。

 繊細な彫刻はつくれるし、武具の目利きもできるけど、生き物や魂の見分けが大雑把な気がする。人の顔の区別ができているか怪しい。


『動かないね?』


 フヨフヨが髑髏船長の肩にタッチ。


『フヨフヨ……気軽にさわるね?』

『子分みんな病気で悲しんでる。ずっとひとり。一緒のところ行きたい』


『ああ……浄化ピュリフィケーション


 チャリンと金貨と海賊帽が落ちた。

 そんな悪霊でもなかったかな。ドロップが出たのでモンスターではあったみたいだし、生前は悪いことしてたんだろうけど。

 加護レベルは上がらなかった。


 それからは、ご遺体と金品の運搬。

 ボロボロの船は砂地にあげる。


『妾が海を汚さぬように燃やしておこう』

『お願いフェネカ』


 ここは結構大陸から遠いから、昼のうちに燃やせば見つからない。


『主、建物があるようだ』

『え、どこ? 海賊の根城?』


 木々の間を抜けると、雑な木造建築がいくつか。

 こっちも白骨さんがいそう。


『悪霊まだいた』

『まだいたかー……』


 フヨフヨについていく。

 暗い建物の中だったので光をともす。

 宝物庫っぽい。武具が多いかな。


『え……アイアンメイデン!』


 無造作にコロンと転がっている拷問器具。以前シリュウ島で見たやつにそっくり。

 のっかっていた丸盾をフヨフヨがガランとテキトーによける。


『海賊さんなんでこんなの盗ってきたし……』

『悪霊出てこない。あけるとたぶん動く』


『動く? ミイラが? それは嫌。浄化ピュリフィケーション!』


 ……手応えがない。


『消えない』


 まじか。


遺物アーティファクトに阻まれてる?』

『あける』


 ですよねー。


『フヨフヨ待って。危ないから魔法であけよう』


 なぜか残念な波動。


『我があける』

『ありがとうシリュウ、すぐ浄化する』


 ギギィと蓋が持ち上がり、ホコリが舞う。

 途端にミイラの腕が2本、ぽんっと持ち上がった。これぞアンデッド。


浄化ピュリフィケーション!』


 パタッと両腕がアイアンメイデンの中に落ちた。チャリン、コロンというドロップの落ちる音も。

 なんと加護レベルがあがった。

 浄化したせいか、ミイラは消えていない。


『……ドロップがミイラの下に。浄化に頼り過ぎかな。火葬すればよかった。白骨さんと一緒に埋葬しよう』


 火魔法は、いちばん苦手。フェネカまかせだ。


 埋葬はちょっと慣れた。埋葬に慣れるってなんか嫌だな。

 シリュウが無属性魔法でミイラさんを持ち上げてくれる。


 ドロップは、金貨と水晶?

 アイアンメイデンの内部はやっぱりオリハルコン。遺物アーティファクトに使われている素材だ。


『このアイアンメイデン、もとはどこにあったんだろ?』

『この国にある遺跡』


『えっ、なんで知ってるの?』


 びっくり。何気なく疑問を言ったらフヨフヨから答えが返ってきた。


『海賊船長、覚えてた』


 ああ、気軽にタッチしてた。


『……こんど息抜きに北国遺跡を探検しよっか』

『うん。もうお昼休み。ユイエル、ご飯食べそびれる』


 それは一大事だ。


『宝と遺体は我に任せよ』

『や、流石にそれは悪いよ! 残りは夜に!』


 フヨフヨにしがみつき、ぴゅんと帰る。


 ……あれ、あのドロップの水晶、はまりそうじゃない?

 ダンジョンで出た杖に。一生懸命かわいがっているけど、まだ精霊は宿っていない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る