第46話 ダンジョンボス

 着いたのは、小さめの体育館。10人ほど訓練中の生徒がいる。


「ここでやる! 木剣もってこい!」

「いらないよ。先生、合図お願いします」


 ロンくんはぎゃーぎゃー言ってる。

 先生はまったく動じていない。


「では、構え!」


 ピタッと黙り、木剣の布を取って構えたロンくん。条件反射かな。真剣な表情。

 俺はアストラルボディをずらす。


「始め!」

聖域サンクチュアリ


 いきなり風魔法が来たけど間に合った。

 ロンくんは突っ込んで来て突きを放つ。一点突破狙いみたい。


 いつの間にか、訓練していたほかの子たちもやめてこっちを見ている。


 ひたすら攻撃するロンくん。

 やがて疲れが見え始める。


「ま、負けねぇぞ! いい加減壊れろ!」


 息も上がりまくっている。かなり激しく打ち込んでいるからね。ロンくんは風魔法で加速したり、威力をあげたりもする。結構勉強になる。


 魔力はフヨフヨの助けなしで足りそう。魔力量、増えたな。


 もし襲われても、もう問題なく防げる。うろたえることもなくなった。

 無属性の盾にすれば、もっと魔力消費も抑えられる。

 カランと乾いた音。


「あっ……」


 ロンくんが木剣を取り落とした。

 握っていられなくなったらしい。自分の震える手を見ている。


「ロンくん、自分から人に武器を向けるの、やめてくれないかな?」

「は? なに、言ってんだおまえ……」


 模擬戦の授業なんかは、仕方がないと思う。襲われたとき対処するために必要だとも思う。

 けど、先生のいないところで生徒に喧嘩をふっかけるのは、今後なしにして欲しい。

 それから……。


「たとえば、いまモンスターや敵に襲われたら、ロンくんはやられちゃうよね?」

「……やられねぇし」


 これは完全に強がり。自分でもわかってそう。


「……将来、ギーゼラと一緒に戦いたいんじゃない?」

「そんなの決まっ、あ……」


 ロンくんみるみる泣きそうな表情に。負けたらギーゼラに近づかないという条件を思い出したか。


「ちゃんと条件決めたわけじゃないし、なかったことにしてもいいよ」


 ロンくんの表情がパッと明るくなる。


「でも、自分から攻撃するのはやめて欲しい。それが条件」

「……で、でも、攻撃しなきゃ、守れねぇだろ? 風魔法の防御は矢を弾くくらいしかできねぇ」


 ロンくんはギーゼラを守りたいのか。すごいな。圧倒的にギーゼラの方が強いのに。


「疲れて魔力を使い切ったら、もっと守れないよ。守るタイミングは、ギーゼラが疲れたり魔力を使い切ったときでしょ? 温存した方がいいよね?」

「……そ、そうか、そうかも! おまえ頭いいな!」


 おお? 授業で習わなかった? 習ったよね? 負けなきゃ頭に入らないの?


「……自分から斬りかかると、敵は増えるよ。ギーゼラの敵を増やさないためにも、やめた方がいい気がしない?」


 驚きつつも明るい表情だ。納得してくれたみたい。


「戦争だって、減った方がいいよね? ギーゼラの危険も減る」

「おう! わかった! ギーゼラは最強だけど、魔力は限界あるからな!」


 とりあえずこれで良さそう。ちょっと誘導尋問じみてたかもだけど。


「な、なあ? お、オレ、ギーゼラのそばにいていいのか?」

「うん。わかってくれたから、いいと思うな?」


 ギーゼラに目を向ける。

 うなずいた。


「ロンが人に迷惑をかけないなら、いい」

「かけねぇ!」


 それから、先生にも目を向けると、こちらもうなずいた。勝敗もわざと明白にはしなかったのかもしれない。


 まわりで見ていた子の中にも「そうか」って顔をしている子がいる。

 戦争をなくすには、子どもたちの意識改革、教育みたいなものも必要だ。授業でも教えているはずだけど。


 聖域を解いた俺は、ロンに向けて祈る。


回復ヒール

「……ああっ!」


 ん? ロンくんなにか気づいたって表情。

 ニコニコし始めた。聖属性も必要と気づいたかな?


「ありがとうございます『聖者』さま!」


 ああ……『聖者』だっていま気づいたんだ。男なのは最初に気づいたみたいだったのに、なぜ聖域で気づかなかった。


 それからギーゼラを寮へ送る。ナチュラルにロンくんもついてきた。

 ギーゼラではなく俺に話しかけてくる。


「――寮監のじいちゃん、片足悪かったんだけど治ってたんだ! 『聖者』さまが治してくれたって!」


 なんか懐かれたな。その寮監さんを俺の前に来させたのは、アンナさんかカレン先生あたりだと思うよ。


 なんにせよよかった。ロンくんを発端に騎士学校の同意者を増やせたらいい。ギーゼラより余程しゃべりそう。


 まあ、次の壁も作るんだけど。

 タリルエス帝国と、オルセー王国の間に作る。


 国境は、ラングオッド王国から見て北西のあたりにある山岳地帯だ。

 帝国を孤立させてみようかなって。鉱物や武具の輸入が少し滞るはず。


 オルセー王国の方は、お得意様相手の商売が滞って経済制裁になるかも。特産が鉱物で武器鍛冶が得意な国だからね。


 まあ海路があるはずだから完全には無理……状況を見て大型船泥棒しようかな……。

 ほとぼりが冷めたら返す。どこにおこう?



  ◆◇◆



 深夜。

 ダンジョンは、なんだか少し道が狭くなってきた。

 そして壁や地面がデコボコ。モンスターが好き勝手暴れるせいだと思われる。

 数は減っている。小部屋にモンスターがいないこともしばしば。


 けど、まさかの白金貨ドロップもあった。

 巨大な甲殻やらツノやら落とす。だいぶうしろでフヨフヨがドロップ拾い。


 俺は後ろにシールドを展開中。フェネカも護衛についている。マジックバッグは失いたくない。


『……あれ、なんかモンスター完全にいなくなった』

『そろそろ終わりかのう』

『あと1匹で終わり』


 まあ、待てばまだ湧くかもしれない。

 ここはダークマターがあるらしい。宇宙とは比べ物にならない少なさみたいだけど、たぶん、モンスターの素なんだと思う。

 深く潜るほど増えたらしい。フヨフヨ以外は感知できない。


 すーっと小部屋を覗きながら進む。

 あ、行き止まりみたい。

 けど、羽音がするな。

 なんの気なしに最後の小部屋を覗く。


 うおっ! 複眼、キモチワル!


落雷ライトニング! 竜巻トルネード! 浄化ピュリフィケーション!!』


 思わず全力の連撃。

 チャリン、カランとドロップの落ちる音。

 ……ふう。加護レベルあがった。

 とりあえずもと来た道を戻る。


『フヨフヨー!』


 抱きつく。歓喜の波動が心地いい。


 最後のモンスターは、思わず魂まで浄化するほどヤバい見た目だった。


 たぶん蝿。蝿のたかったような蝿だった。ベルゼブブさん?

 もう出なくで結構です。まあ長い年月がかかるはずなのでもう出会わないと思う。


『なんじゃ? なにがおった?』

『キモチワルいやつ……フェネカ、サンドイッチして』

『仕方ないのう』


 モフッて来た。


『あー癒やされるー』


 ……まあ、ドロップを確認しに行こう。


 白金貨2枚と金貨1枚。

 あと、杖。真っ白いワンド。


『……なんで蝿が杖? しかも微妙に〈聖剣〉さんに似てない? こう、形というか、デザインが』

『似とるの』

『魂ない』


『……蝿の魂なら、浄化しちゃった』

『まあ、よいのではないかの? 仲良くなれそうになかったんじゃろ?』


『うん。無理』


 無属性魔法を使い、恐る恐る拾う。

 宝石なんかは一切ついていない。はまりそうな気がしなくもないけど〈聖剣〉さんの宝石は付くところがなさそう。


 けど、カッコいいかも。長さは60センチくらい。


『誰か、魔法の増幅装置とか杖の話知ってる?』


 フェネカやシリュウは知らないらしい。


『精霊を宿せばいいの!』


 ヒタチだ。思わぬ方向から答えが。


『でもどうやって?』

『可愛がるの!』


『……杖を? しかも蝿がドロップした。いやカッコいいからいいけど』

『精霊でなくとも良いのではないかの? つまり魂を入れよということじゃろう? 妾が入ってみるかの?』


『えっ、やだ。フェネカはモフモフがいい』


 楽しそうに笑うフェネカ。

〈聖剣〉さんは剣から出られない。元の名は本人も覚えていないみたいだし、無機物に入るとなにか害がある気がする。入り方も不明。


『……精霊が宿るように毎日浄化してみる』


 早速全力の浄化。キレイになった。


 これで一旦加護レベルあげは終了。

 杖はマジックバッグに入った。遺物アーティファクトではないみたい。


『俺の加護レベル、どのくらいになったかな?』

『250くらい』


 フヨフヨも数えていたわけではないだろうけど、たぶん正確だと思う。


 ノーマンから、あわい歓喜の波動がちょいちょい来る。王都までの地下道を掘っている。


『ノーマンは順調? 手伝う?』

『ぷむゆ……まよく』


 なんだかSOSっぽい波動。


『魔力足りないって。あげにいく』

『ああ、フヨフヨお願い』


 今日のところはノーマンを手伝おう。

 遺物アーティファクトルームにマジックバッグを置きに行く。


 そのあとノーマンのところへ。押すような動作で進みながら通路を伸ばしている。そしてペタペタ壁を叩く動作で固め、通路を広げる。

 俺も真似をすることにした。交互に役割を変えて進む。


『ぷゆー!』


 うん。喜んでる。かわいい。ヒタチもだけど、なんとなくぬいぐるみっぽい。デフォルメされている感じ。


 だいぶ進んだけど、王都までまだまだ遠いな。


『先に国境の壁を造ろうか』

『しかし見張りが必要ではないかの? 妾はこれ以上テイムすると訳がわからなくなりそうじゃ』


 新しい壁の見張りか。たしかに造ったらすぐに配置したい。


『我が請け負おう』

『ありがとうシリュウ!』


 まだ時間も少しあるし、魔力は使いまくったのでさっそく宇宙へ。


 やたらカッコいい名前のクラゲさんが6体加わった。

 ジークフリート、ディートリヒ、ランスロット、など。シリュウいわく、かつての英雄の名らしい。

 フェネカのテイムした子はみんな和風の名前。


 今日は宇宙でまったりして帰ろう。ワンドだけ持って帰ろうかな?


 建築は明日から。

 船泥棒するための調査もしないと。

 帝国の船は、位置的に我が国までは来れないはずだけど、海戦が増えたら大変そう。

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