第45話 決闘?
シェキアは満面の笑みをうかべ、フォークに刺した肉を振った。
「どんどん聞いて! そういうの待ってた!」
……肉汁飛んだぞ。まったく気にしてなさそう。気づいてないかも。
そのまま頬張った。幸せそうな表情。まいっか。
「……うーんと、戦争どうやったらなくなるかな? 俺は人と戦いたくないし、みんなにもできれば戦って欲しくないんだ」
「んぐ。え、そういう難しい話? んー……あたしはモンスター倒せればいいかな? でもでも、相手が攻めてくるんだから守るしかなくない?」
シェキアは結構好戦的。というより雷をぶっ放すのが気に入ったみたい。
「攻めて来なくさせる方法を考えてるんだ」
「倒せばいい。それしかない」
言ったのはギーゼラ。金の瞳がまるで獲物を見据える肉食獣みたい。
「……倒しても戦争はなくならないかも? 次の敵が現れるだけだと思う」
誰かを殺せば誰かが殺しに来る。復讐の連鎖がおこる。『賢者』さまの長男ニコラスくんの二の舞いに……。
「ギーゼラは、おばあさんになっても戦い続けたい?」
「え? いずれ子が引き継ぐもの……じゃ、ないか?」
ギーゼラの目が泳ぐ。心なしか頬が赤くなった気が。
「……アンナさんあたりになにか言われたの?」
みるみる真っ赤になった。言われたようだ。
たぶん俺の子を産めば安泰的なことだろう。流石に慣れてきたぞ。
仮にそうなったとして、その先を考えて欲しい。俺は自分の子どもを戦争に行かせるのはごめんこうむる。
誰かの恨みを継がせるのはもっとごめんだ。
「……そっか、あたしそこまで考えてなかった。ユイエルは子どもを戦争に行かせたくないんだ。そりゃそうだよね?」
シェキアは思い至ったらしい。
「まあ、いま考えられなくてもさ……てかみんな手が止まっちゃったね。ごめん、食べよう」
あせることないんだった。
いま帝国は、国境付近から撤退している。作戦の練り直しってところ。『賢者』さまにボコボコにされた北方の2カ国と帝国の仲は、少し悪くなっているそう。
ふたたび食べ始めたけど、静か。食器のあたる音だけが響いている。
みんな考えてくれているみたい。
将来のことをしっかり考える流れになったのはよかったかも。
「うん! おいしー! 高いけどここにして正解だったね!」
シェキアは切り替えが早い。
「あ、やっぱ高いんだ?」
うなずきながらどんどん食べるシェキア。べつに汚い食べ方じゃないのに豪快。ほんと美味そうに食べるな。
やがてラヴィとエマは少しずつミリーに話しかけ始めた。
ちょっと不思議に思う。ミリーは、前世ならいじめられそうなほどにおっとりしている。けど、みんなこぞって世話をやこうとしたり、守ろうとする。クラスでもそうなのだ。努力家だからかな。
「ね、ね、成功かな? 親睦深まった?」
「……うん。でもシェキアはちょっと気を使いすぎかな?」
ギーゼラもうなずいた。
「えー? そんなことないっしょ!」
雑談しながら胃袋の限界に挑戦する。
なんだかんだローストチキンモドキは、ほとんど食べきった。
食休み中にトイレに立ち、会計を済ませることにも成功。
先頭に立ち、さっさと店を出る。
うしろでシェキアの「えー!?」って声が聞こえた。パタパタ追ってくる。
「ユイエル、ごちそうさま! ぜんぜんおごらせてくんないじゃん! みんな、集めたお金返すよ! お礼はユイエルにー!」
店の壁のそばに引っ張っていかれ、お礼を言われる。ついでに返金が始まった。
あぶく銭みたいなものだ。年金はレガデューア家に送られている。
いま午後3時くらいだろうか、結構人通りがある。
振り向く男の子が多い。
やっぱり俺以外の目から見てもシェキアはかわいいらしい。
かわいいという声もチラホラ聞こえる。
「かわいい子ばっか6人ってすご」
「属性バラバラってことは部活かな?」
「背が低い子は1年?」
……6人?
しっかり数え直す。美少女は5人だよね。今日はギーゼラもスカート。青い短めのタイトスカートに黒いタイツ。
「シェキア……俺、男にみえない?」
「えっ、見える見える! ……でも、言われて見れば? あはははははは!」
こんにゃろー。だいぶ男っぽくなったと思ったのに。
ああ、けどやっとギーゼラが笑った。もともとあまり笑わないけど、戦争の話でちょっと悪化してた。
結果オーライかな。
「ね、ね、ユイエル、ギーゼラ送ってってくれる? ほら、ユイエルなら騎士学校も出入りできるでしょ?」
「……いい、けど」
なにかがグサッと刺さった気分。普通にシェキアを送るつもりでいた。そろそろ、認めた方がいいかもしれない。
「あ、や、そのっ」
うろたえだすシェキア。
「送ってく。そんな気、使わなくて大丈夫だよ」
「あ……うん。じゃあ、また月曜に!」
手を振って分かれる。
「ギーゼラ馬は?」
「今日は徒歩」
「じゃあ歩こう。ちょうどいい腹ごなしだ」
「そうだな」
レストランの多い通りを出ると、途端に人通りが減った。
以前から聞きたかったけど、なんとなく聞けずにいたことがある。
「ギーゼラはどうして『剣聖』になりたいの?」
「……まえは、自由になる方法が、ほかになかったから。いまはそこまで絶対じゃない。けど、ボクも『5英傑』に名を連ねたい」
ギーゼラはチラッと俺を見て、腰の〈聖剣〉さんを見る。
「ずっと目指してたし、約束もある」
どうやら〈聖剣〉さんと約束したらしい。
「どんな約束?」
「次の同じ色を持つ子が、隠さなくていいようにする」
……もしかして髪を隠すのが嫌だったのか。ぜんぜんそうは見えなかったけど。
やがて魔法学校と騎士学校の間にある門を通る。ふたりとも顔パス。ギーゼラは部活で何度も行き来しているし、俺は再生しまくっているから警備員さんたちは覚えてくれている。
門を抜けると、視界の隅にいた緑髪の男の子が、パッとこちらへ向かい走り出した。
「ギーゼラ!」
「ロン、またか」
「今日はスカートなんだ!?」
ギーゼラの知り合いみたい。
騎士学校で緑の髪は珍しい。けど、身体強化が使えなくても剣が得意な子はいる。
「……」
「……」
なんか、思いっきり目が合ってる。なぜかロンと呼ばれた緑の子と見つめ合うことに。
「だ、誰だ? Aクラスじゃないな!? おまえみたいなヘナチョコがギーゼラ狙うとか、ありえねぇから! ギーゼラから離れろ!!」
「……」
布の巻かれた木剣を向けられる。
なにか彼の中ですごい誤解が生まれた模様?
「ロン、やめろ。ユイエルは魔法学校のAクラスだ。『剣聖』さまの息子だ」
「なっ……」
目を見開いている。
なんだろう、背丈は俺とそう変わらないのに、がっしりして男らしい顔立ち。目を丸くしても、はっきりと男の子。ちょっとうらやましい。
「お、オレと勝負しろ! ギーゼラをかけて!!」
……なにこれ?
ギーゼラといるとイベントが発生する模様?
「剣は使えないよ」
「は、はああああ!? ありえねぇ!」
ちょっと笑い含み。めっちゃ見下されている感。
でもなんかやっと普通の11歳児を見た気分。
ギーゼラが、ロンのもつ木剣の先を掴む。
「ロン、迷惑だ」
「なんでかばう!? 弱い男は嫌いだろ!」
「剣が使えなきゃ弱いなんて言ってない」
「なら勝負で叩きのめす! コイツが弱いって証明する!」
ロンくん粘る。ぎゃーぎゃー言っている感じ。屁理屈こねこね。小学生ってこうだよね。
強気。自信満々だ。ギーゼラ以外に負けたことないのかな?
たとえ木剣でも振り回すと危ないと思うんだけど。
「……決闘しとく?」
「えっ、ユイエル?」
「おうよ! 負けたら2度とギーゼラに近づくな!」
ビシッと木剣を向けられた。
「ギーゼラ、ロンは友達?」
「幼馴染? 父のパーティメンバーの子ども。Bクラストップ」
「すぐAに上がる! それでギーゼラと、け、結婚する!」
訂正。こんな小学生いない。いても低学年か幼稚園児。
「幼馴染なら近づけなくなったら嫌かな?」
「や、ボクは構わない。父が亡くなってパーティは解散している」
ギーゼラの親は冒険者と聞いていた。亡くなっていたのか。
「じゃあ、ロンが負けたらギーゼラに近づかないってことでいいかな? どこでやるの?」
急にロンの目が泳ぎだした。
条件は平等があたりまえだと思ったけど、ロンくん的には違ったかな。
「こ、こっちだ! ついてこい!」
ついていきつつ、遠目に見えている先生に目を向ける。
ギーゼラのクラスの担任。チームA1についていた男の先生。
カレン先生は見当たらなかったけど、この先生がわりと近くにいた。金髪だけど、たぶん『剣聖』候補を選定している諜報員とかじゃないかと思う。
寄ってきてくれた。
「先生、ロンは退学とかならないようにできます?」
「はあ、決闘はいちおう貴族の文化として残っておりますので……『聖者』さまがよいのであれば」
お墨付きを得た。
俺べつに戦わないけど。
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