第44話 昼食会

 こっちは時差のため朝。

 シリュウは、島を真横から見るようにホバリングしていた。鮮やかな紫色のウロコがキレイ。


 いまそんなこと考えている場合じゃないけど、すごい景色だと思う。

 空に浮くマチュピチュのそばに、カッコいいドラゴン。


 これ、部のみんなにも見せたいな。

 シェキアは、はしゃぎそう。マックスもか。

 あとの6人は静かに見てそうだな。まだ11歳なのに。

 ……どうにかして連れてこれないかな?


 けどそのためには、まずこの島を回復しないとか。

 俺が島を見ても、位置が下がったかはよくわからない。


『フヨフヨ、高さ下がってる?』

『うん。2メートルくらい下がってる』


『……実はあのアンデッドが浮かせてたとか?』

『タイミング的にはありそうじゃの』


『あの地下室に行ってみよう。あ、シリュウ? 魔力大丈夫?』

『案ずるな。あと2日くらいはなんの問題もない』


 よかった。島に着陸しても大丈夫かもしれないけど、巨体だからな。


 地下室に着くと、アイアンメイデンを光魔法で照らす。

 実はそのままなのだ。だって開けたくない。


『……あけたら骸骨だよね?』

『そうじゃろうの』

『あける』


 フヨフヨが無造作に触手をかけた。

 なんでちょっとワクワク気分なの?

 ギギギィと重そうな音をたて開いたアイアンメイデンの中には、ミイラがはりつけになっていた。

 ……白骨より怖い。


『この黒い金属は遺物アーティファクトじゃの?』

『あ、ほんとだ』


 内側は遺物アーティファクトに使われている黒い素材だった。もうオリハルコンとでも呼ぼうか。金属じゃない可能性もあるけど。

 このミイラは遺物アーティファクトで封印されてたのかな。


『どうしよう? とりあえず魔力こめてみる?』


 肯定の波動。

 そっと足からオリハルコンに魔力を放出。

 フヨフヨも触手から放出中みたい。縮んでいく。


『え、待って、ストップ。フヨフヨ縮みすぎ』

『いっぱい入る』


 しばし宇宙休憩。

 フヨフヨが大きくなっていくのを眺めながらテレパシー。


『シリュウ? 島の位置どう?』

『……どうも高度が下がらなくなったように思う』


『正解ってことか……あのアイアンメイデンの下になんかないかな?』


 シリュウに着陸していいと伝え行ってみると、ありました。空洞。

 というか――。


『これは、コントロールルームでは……』


 まじか。なにこれすんごい。

 やばい、明るいと思ったら全方位が見える。海が見える部屋だ。


 ウロウロと見て回る。

 これ、ガラス? 色はちょっとついてるかも。でもほとんど透明な窓が全方位に。足下はオリハルコン。


 部屋の真ん中に、ズドンと天井から伸びる筒状の遺物アーティファクト。そこからカウンターテーブルっぽく台が生えてる。


 テーブルの上には円形のハンドルと大きめの矢印キー。あと謎のボタンがいくつか。アルファベットが書いてあるけど英単語にはなっていない。

 子ども向けのハンドルのおもちゃみたい。


『……これ回したら、島が回る気がするんだけど』

『やってみる』


 フヨフヨから歓喜の波動が。不安。


『ちょっとでいいよ? ゆっくりね? あと、謎のスイッチは押さないで……』


 バルス滅びの呪文的なのあったら困る。

 肯定の波動が来て、触手がハンドルにかかる。


『シリュウ、島が回るか見て』


 こっちも肯定の波動。

 フヨフヨがハンドルを回した。30度くらい。


 ギッと軋むような音のあと、地面が細かく振動しはじめた。スマホのバイブより細かく軽いものだ。


『主、まわっておるぞ……』

『まじかー……この島、好きに移動出来そう……』


 夢が広がりんぐ通り越してどうしていいかわからないレベル。シリュウもびっくりしている。


 ……いや、いいか。空飛ぶ別荘地。超贅沢。

 やっぱり連れて来たいな。シェキアだけでも。学校のすぐ外に繋いだらまずいかな。


 それから俺たちは、込められるだけ魔力を込めまくった。シリュウのお家がなくなると困る。それにせっかくの空島、しかも財宝満載だ。

 落ちて海に沈んだりしたら最悪。


 魔力はめちゃめちゃ入った。

 何度も宇宙を往復し、時間がなくなってマイボディに帰ることに。



  ◆◇◆



 土曜の朝。

 朝食を選んでいると、メイド服が視界に。アンナさんがそっと近づいて来た。


「本日昼、女子会が行われておりますので、ぜひご参加ください」


 そう耳元でささやかれ、ハガキサイズの紙をもたされた。ご飯とは違ういい匂いがしたんですが。


「……え、や、待った。なんで女子会に俺?」


 さっと去ろうとするので呼び止める。

 そもそも女子会ってなに。


「シェキアさん主催の昼食会です。お待ちですのでぜひ」


 ……なぜだろう。行きたくないな?

 アンナさんが食堂の奥に引っ込んでしまったので、しぶしぶ手元の紙を見た。簡単な地図だった。


 朝食を終え、ディープの世話をする。ちょっと現実逃避中。

 馬の世話は結構汗だくになる。

 大人になればもう少し楽かもしれない。背丈が足りない。フヨフヨいわく、いま俺は150センチくらいらしい。


 それから、風呂でのんびりして、身支度を済ませる。

 女の子に気後れするから独身だったのだろう。うん。ハーレムだと思って楽しめばいい。たぶん将来の美女たちが待ってる……。


『フェネカ? あのさ……行かなくてもいいと思う?』

『もちろんじゃ。もっと好き勝手せい。ちょっと試しに本音を言うてみい』


『……女子会ってとこが無理。まず女子会って響きが無理。ひとりずつでお願いします』

『それを直接言って帰ればよいの』


 フェネカ笑ってるじゃん。


『それは傍若無人すぎるでしょ』

『ふむ。部活の延長と思って、戦争をなくしたい同意者を募るつもりでどうじゃ?』


『あ……それ、ずいぶん気が楽かも。さすがフェネカ。ありがとう』

『お安い御用じゃ』


 やっぱり笑ってる。フェネカお母さんみたい。

 到着した地図の場所は、ちょっと大きめのレストランだった。わりと騎士学校に近い位置にある。


 入ると結構混んでいた。見当たらないな?

 店員さんが来たのでシェキアを探していると伝えると、2階に案内された。

 個室があるらしい。


 ドアの向こうには、予想通りの5人。

 シェキア、エマ、ラヴィ、ミリー、ギーゼラ。

 ギーゼラは、兜ではなくバンダナみたいなものを頭に巻いている。


 シェキアが嬉しそうに笑顔で立ち上がった。


「ユイエル! 座って座って!」


 挨拶を交わしている間に、香ばしい匂いが近づいて来た。

 いっきに運ばれてくる、サラダ、パン、スープ、大きなローストチキン。どどんと置いて店員さんは去っていった。


「よーし、あたし切り分けちゃうよ!」


 シェキアは豪快にナイフをチキンに突き立て、ズバッと切り込んだ。不安。そういえば料理の切り分けなんかはトーニくんがよくやってた。


「俺やる?」

「だいじょぶだいじょぶ、任せて!」


 シェキアは楽しそうだけど、ほかのメンツは明らかにハラハラしてる。


 そして俺の皿にまず塊が載せられた。300グラムを超えてそう。


 そもそもこれ子ども6人で食べるサイズ?

 ローストチキンとは言ったけど、たぶん怪鳥というか、ダチョウみたいなモンスターのドロップだよね?


 やがて全員の皿にどーんとのった。


「よーし、ひとまずこれで! おかわり自由!」

「や、おかわりどころか、サラダも無理だからこれ」


「やっぱり? だよね! あはははははは」

「でも美味しそうですわ」


 エマが苦笑しながらフォロー。


「いただきます!」


 しばし美味い美味い言いながら食べる。ほんとやたらジューシーで美味いな。高そうなんだけど、あとで支払えばいいんだろうか。多めに持ってきた。


「ところで俺はなんで呼ばれたの?」

「まずは親睦を深めないといけないって、アドバイスもらってさ。だからただのお昼ご飯!」


 なんだ、よかった。ビビる必要なかった。ひょっとして女子会って言ったの、アンナさんの意趣返しでは……。

 深読みだ。気のせいということにしておこう。


「じゃあ、俺から少し質問してもいい?」

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