第43話 アンナさんの肝試し
数日たった夜。まだ20時前。
ダンジョンがどこまでも続いている件について。
ワープの
シリュウ島でも5つ見つかった。わりと埋まってたけど、掘り起こしてある。
モンスターはどんどん強くなり、怖くてヒタチとノーマンは連れてきていない。
このダンジョン、たぶんモンスター同士で争って強くなっていくみたいなシステムではないかと思う。
魔法が飛び交ってるよ。蚊みたいなモンスターも飛び交ってる。
ダンジョン自体は、どうやらノーマンが堀り続けていたらしい。
少しずつ土精霊たちが広げ、少しずつ土精霊たちは脱落し、それでも残ったノーマンは掘り続けた。
そのため、この先はワープの遺物がないけど、まだ続いているらしい。
いまノーマンは、俺が掘ったマジックバッグ運搬通路を楽しそうな波動を出しながら広げている。
俺たちを新しい仲間だと思ってくれているみたい。大変だったなと思うけど、いまが楽しいなら、いいかな?
魔法を避ける練習もしながら、サクサク狩っていく。
突然フヨフヨから歓喜の波動。
『アンナくる!』
『お、やっとか! 戻ろう!』
ヤツは、待っているとなかなか来ない。こっちの思惑を外しに来ている気がしてならない。
俺たちは寮の部屋に着くと、すぐに壁を突き抜け廊下にでる。
アンナさんは、ちょうどドア前に立ち止まるところだ。
『裏返し
ぱっと見は普通の聖域。それでアンナさんを覆った。細長いシャボン玉に入ってる感じ。
驚いたはずだけど、あんまり反応がない。動きもしない。
今日もスキのないメイド服姿。けど、長い銀髪はおろしている。
片方だけ耳に髪をかけているのは、もしかして俺分析されている?
最近シェキアの髪がサラサラになって、片方を耳にかけ始めた。
ややしばらくして、右手をあげノックしようとするアンナさん。
その手は、聖域に阻まれ止まる。
アンナさんはわずかに目を見開いた。
聖域って本来、中から外へは出られる。
けど、裏返しなのでアンナさんは出られない。
これ不思議なことに、本に載ってないんだよね。授業でも習っていない。
でも、暴れる患者を抑えつつ、外から回復するためにとイメージしたらできた。
いままで隠していたので、お供たち以外知らない。
アンナさんは、あたりをゆっくり見回す。それからコンコンと聖域をノック。
「……入れていただけますか? このままでは目立ちます」
たしかに他の生徒が来そうなので、フヨフヨを見る。
作戦決行の合図だ。
すっと壁をすり抜けて部屋に入るフヨフヨ。ガチャッと鍵があき、ドアが開く。
俺は、裏返し聖域をゆっくりと部屋の中へ動かしていく。
アンナさんは少し眉をひそめたまま、薄暗い部屋に入った。
天井付近にひとつ小さな光をつくる。アンナさんが天井に目を向けた。
直後、ドアがしまり、鍵がかかる。
一瞬、不安そうな表情を浮かべた。
やっとちょっとビビってくれたかな?
アンナさんは、おそらく魔力や気配の感知が得意だ。
フヨフヨは触手の先しか実体化していない上、感知できない。
アンナさんからすればポルターガイストなはず。
ドアをじっと見ていたアンナさんは、ベッドに目を向けた。
そこには当然、すやすや眠るマイボディ。魔法が使われているのに、まったく魔力の動いていないマイボディだ。
「……ユイエルくん? 私を怖がらせて楽しいですか?」
悲しそうな声と表情。
演技な気もするけど……こ、このへんにしとこうかな?
『演技じゃろ』
フェネカさん断定。
『うん。背中ポンポン作戦実行』
フヨフヨから楽しそうな波動が。
肝試しの幽霊役にフヨフヨ以上の適任者はいないと思う。
考えてお願いしたのは俺だけど、ちょっと止めるか迷っちゃう。
そーっとフヨフヨの触手がアンナさんの背中に近づく。
反応がないからか、アンナさんの表情が段々と不安そうなものに。
俺どう見ても寝てるしね。
そして触手を実体化するフヨフヨ。
ポンポン――。
「ひゃぁ!」
口を抑え、バッと振り返るアンナさん。しかしそこには、なにもいない。
やった。どう見ても驚いている。
フヨフヨから歓喜の波動。
『成功! ほんとに驚いた!』
触れたのでアンナさんの気持ちが読めたのだろう。
ちょっとスッキリ。
ならここまでにしよう。
『フヨフヨありがとう』
『アンナ、もう気づいた。ユイエル精霊と仲良し。まえ森にでた火の精霊もきっとユイエルと仲良し』
……まじか。フヨフヨしか動いていないのにフェネカまでバレた。
どんな頭脳なのほんと。敵対だけは避けよう。
それはともかく、なんでフヨフヨはフェネカを吊り下げるような格好に?
すーっと天井へ向かうフヨフヨ。
フェネカが連れ去られる感。
『妾たちは屋根の上に行っておる』
ああ、まえもこうなってたのかな……。
裏返し聖域を維持したまま、マイボディにダイブ。
むくっと上体を起こす。
「アンナさん、ラヴィにも余計なこと言いましたね?」
「……少しアドバイスしただけです。ユイエルくん? いまのはいったい、どうやったのですか?」
気づいているのに聞いてくる。正確には精霊じゃないけど、ほぼ正解です。言わないけど。
「内緒です。アンナさんも、カレン先生も、内緒でコソコソいろいろやってますよね?」
「……わかりました。謝罪します。今後は相談もします。申し訳ありませんでした」
頭を下げるアンナさん。
「わかってもらえてよかったです。敵ではないんですから、もっとコミュニケーションとっていきましょう」
「ええ、はい。お詫びになるかはわかりませんが……」
喜んだのも束の間だった。
アンナさんは、つっと髪を耳にかけると、いちばん上のボタンをゆっくりとはずした。
するっとエプロンも落とす。
「や、えーと……?」
お詫びは不要ですと言えばいいだけだ。
聖域を動かしてお帰り願えばいい。
伏し目がちに、ふたつ目のボタンが外された。
目が離せない。なんでこんな妖艶なんだろう。間違いなく我が国のハニトラ要員です。
「お詫びですから、好きにしていただければと……聖域を解いていただけますか?」
二次性徴まっただ中の少年にクリティカルヒット出すのやめて。
俺は身体強化を使ってから、聖域を解く。押し倒されるのだけは防ぐ。
アンナさんは笑顔。やっぱり使えたんですね、というお顔。
第2ラウンドだ。フヨフヨの助けなしで孤軍奮闘。
ギャフンとは言ってくれなかったけど、うっぷんは晴れた。
というか、普通に仲良くなっちゃった。たぶん作戦変更したんだと思う。美女にはかなわない。肌超きれい。
それからちょっと相談もした。
ラヴィが悩んでいるから。
アンナさんは、わりとまっとうに相談にのってくれた気がする。
兄弟姉妹が多いと、家の中での立場はどうしても気になるものらしい。ラヴィは属性のせいで肩身が狭いみたい。成績優秀なのにな。
俺は前世も今世もひとりっ子。気にしなければいいじゃんなんて、とても言えない。
身支度を整えたアンナさんが、ドアへ向かう。
「ラヴィさんとは、姉妹のいる私がもう少し話してみますね」
「ありがとうアンナさん」
なんかもう、ふたり娶るなら何人でもいいかもしれない。ひとりひとり考えよう。
ダンジョンに戻ると、ノーマンが待っていた。完成した通路を見せてくれる。
ちょうど俺がまっすぐ立って歩けるサイズの通路。
ノーマンを褒め、撫で回す。
『ノーマンは掘るのが好き?』
『ぷゆ!』
肯定の波動。
『ぷむゆ!』
足踏みし、壁をたたく動作。
『固めるのも好き?』
『ぷゆ!』
肯定だ。
『じゃあ、今度はまっすぐ王都への道を掘ってみる?』
大喜びでくるくる走り回りはじめた。
フヨフヨに正確な方角を確認し、掘ってもらう。
俺はまずダンジョンを攻略だ。
タリルエス帝国の皇帝は、『聖者』が実在すると知らせを受けても、諦める気配がない。たぶん壁を築いても諦めないだろう。
まだ若く、夢のために精力的に行動している。
1度見たが、まだ10代後半の男の子だ。
どうやったら止まるだろうか。
もし、ラングオッド王国に向けて出兵するようなら、武器は風化させてもらう。
そのためにも、ダンジョンのモンスターはキレイさっぱり片付けよう。
『……主、島の高度が下がっているらしい。ほんのわずかずつだが。我はしばらく上空にいた。ゆえに重さではないと思う』
『……まじか。い、いまいく』
シリュウは最近、肉体ごと飛ぶのを満喫していた。たしかに重さじゃないだろう。
そもそも、なんで浮いているかもわかってないんだけど、どうしよう?
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